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第11話 見えてしまいますので

昼休み。


 社員食堂へ向かう途中、ガリレオが急に立ち止まった。


「どうしました?」


「少し」


 廊下の床を見てしゃがみ込み、そこに落ちていた小さなネジを拾った。


「落ちていました」


「あ、本当だ」


 こんなもの、普通に歩いていたら気づかない。


 ガリレオはネジを受付へ届け、そのまま何事もなかったように歩き出す。


「よく見つけましたね」


「光を反射しました」


「見えたんですか、あれが」


「少しだけ」


 俺はさっきまでネジが落ちていた床を見る。


 言われても、たぶん気づかなかったと思う。


 午後。


 黒川さんが新しい立ち絵を描いていて、ガリレオも隣で静かに見ていた。


「こちらでいかがでしょう」


 黒川さんが画面を見せる。


 ノートだけ少し大きくした、新しい立ち絵。


 ガリレオは頷いた。


「ありがとうございます」


「ほかに気になる点はございますか」


「ありません」


 それで終わる。


 本当に修正がない。


 黒川さんは少し嬉しそうだった。


「監修が早く終わると、その分ほかの部分を丁寧に描けます」


「黒川さんも助かります?」


「はい。もっとも、信長さんの修正も嫌いではありません」


「そうなんですか」


「毎回、新しい発見がありますので」


「前向きですね」


「仕事ですから」


 そう答えて、またペンを動かす。


 その横で、ガリレオは完成した立ち絵ではなく窓の外を見ていた。


 黒川さんが気づく。


「ガリレオさん?」


「はい」


「何か気になりますか」


「……雲です」


「雨が降りそうですか?」


「いいえ」


 少し首を傾げる。


「形が違います」


「昨日と?」


「はい」


 それだけだった。


 夕方になっても、ガリレオは何度も窓や廊下、時計、路地を見ては、小さなノートへ何かを書き続けていた。


 観測。


 それがガリレオの日常だった。


 この時の俺には、それが少し変わった習慣にしか見えていなかった。

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