第12話 毎日、少し違います
ガリレオがアルカディアへ来てから、三日が過ぎた。
驚くほど手が掛からない。
信長のように勝手に企画を変えない。
光秀のように社内フローを改善し始めない。
ジャンヌのように倫理監修を始めない。
妲己のようにコンビニ肉まんを買い占めない。
ただ、静かに観察していた。
朝。
出社すると、ガリレオは窓際に立っていた。
「おはようございます」
「……おはようございます」
こちらを見て小さく頭を下げると、それだけでまた外へ視線を戻した。
「今日は何を見てるんですか」
「風です」
「見えるんですか」
「木が揺れています」
言われて見ると、街路樹が少しだけ揺れていた。
言われなければ気付かなかった程度だ。
「昨日より強いです」
「そうなんですね」
「はい」
ノートへ一行、さらさらと書き込む。
朝九時十二分。
南西の風。
昨日より少し強い。
そんな文字が見えた。
毎日こんな調子なのだろう。
昼前。
黒川さんが新しい立ち絵を完成させた。
「ガリレオさん、いかがでしょうか」
モニターへ映し出される。
星図。
望遠鏡。
大きくした観測ノート。
そして、穏やかな笑顔。
ガリレオは一分ほど静かに眺めた。
「……ありがとうございます」
「修正はございますか」
「ありません」
「本当に?」
思わず聞いてしまう。
「はい」
「この前もそうでしたけど、もう少し遠慮なく言っていいんですよ」
「十分です」
ガリレオは小さく首を振った。
「黒川さんは、とても上手です」
黒川さんが少し照れたように笑う。
「ありがとうございます」
「それに、私は自分よりも、観測したことが残る方が大切です」
その言葉に、黒川さんは少しだけ目を細めた。
「……素敵な考え方ですね」
午後。
資料室へ向かう途中、ガリレオが急に立ち止まった。
「どうしました?」
「少しだけ」
廊下の壁を見たまま、十秒ほど黙る。
俺も同じ方向を見るが、壁時計が掛かっているだけだった。
「何かありました?」
「時計です」
「時計?」
「昨日、合わせた時より五秒ほど進んでいます」
「え?」
見上げる。
普通の壁時計だ。
五秒程度なら、ありそうな気もする。
「気のせいじゃ」
妲己が欠伸をしながら言った。
ガリレオは少しだけ考える。
「……そうかもしれません」
それ以上は言わず、俺も深く考えなかった。




