第8話 増えました
翌朝。
出社すると、会議室Bの扉が少しだけ開いていた。
中から、静かな声が聞こえる。
「こちらがお茶になります」
「ありがとうございます」
光秀だ。
俺は扉を開けた。
「おはようございます」
「おはようございます、宮田さん」
光秀はいつものように一礼した。
その向かいには、ガリレオが座っている。
昨夜と同じ服装で、机の上には湯気の立つ湯のみと小さなノートが置かれていた。
彼女は窓際の席を選び、外を眺めている。
「昨日はありがとうございました」
「いえ。当然の対応です」
光秀は穏やかに微笑む。
「お部屋も問題なく使っていただけました」
「ご迷惑ではありませんでしたか」
「特には」
光秀は少しだけ考えて続ける。
「ただ、一時間ほど庭で星をご覧になっていました」
「……寝る前に?」
「はい」
「それで寝不足とか」
「いいえ」
ガリレオが答えた。
「眠れました」
「ならよかったです」
その時だった。
会議室の扉が勢いよく開く。
「宮田くん!」
佐伯さんだった。
俺を見たあと、その視線がガリレオへ向き、数秒固まる。
「……増えた」
「増えました」
「また?」
「またです」
佐伯さんは天井を見上げた。
「もう驚かないぞ」
と言った。
十秒後。
「なんで!?」
やっぱり驚いた。
「落ち着いてください」
「無理!」
「昨日の夜です」
「夜の間に科学者まで増える会社って何!?」
「アルカディアです」
「知ってる!」
朝から胃薬が必要そうだった。
その騒ぎを聞きつけて、信長たちも集まってくる。
信長はガリレオを見るなり言った。
「おお、お前か」
「……?」
「昨日、来ると言っていた女だ」
「言ってません」
「来たではないか」
「結果論です」
ジャンヌがガリレオの前に立つ。
「初めまして。ジャンヌと申します」
ガリレオは立ち上がる。
「……ガリレオです」
「どうぞよろしくお願いいたします」
「はい」
二人とも静かな性格だからか、空気が穏やかだった。
一方、妲己はソファの上からこちらを眺めている。
例の女子高生の姿でくつろいでいた。
「また増えたのか」
「増えました」
「狭くなるのう」
「まずそこなんですね」
「寝床は重要じゃ」
もっともだった。
黒川さんも会議室へ入ってくる。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございます」
黒川さんはガリレオを見ると、小さく微笑んだ。
「昨夜は突然で申し訳ありませんでした」
「いいえ」
「ゆっくり休めましたか」
「はい」
「それなら安心しました」
昨夜と同じように丁寧な話し方で、ガリレオも少し安心したようだった。
佐伯さんが咳払いを一つする。
「……では」
プロデューサーの顔になる。
「改めまして、近代科学編、本人監修会議を始めます」
「また本人監修なんですね」
「もう諦めた」
佐伯さんは遠い目をした。
「うちのイベントは、本人が監修するものだと思うことにした」
適応してしまった。
人間、慣れるものらしい。




