第4話 眼鏡担当は譲れない
「衣装は?」
「古い天文学者の服装を基礎にします。ただし、そのままでは重くなりますので、現代的なワンピースの要素を混ぜます。色数は抑えて、星図や観測器具を装飾に使います」
「眼鏡は?」
佐伯さんが尋ねる。
黒川さんは少し考えた。
「知性を感じさせる意味であった方が――」
その時だった。
「異議があります」
光秀が静かに手を挙げた。
全員の視線が集まる。
「どうしました」
佐伯さんが尋ねる。
光秀は資料を閉じ、真剣な表情で言った。
「近代科学者といえば眼鏡、という印象は一定数存在します」
「まあ、そうですね」
「そのため、眼鏡を採用した場合――」
そこで一拍置く。
「私と役割が重複します」
会議室が静まり返った。
「……役割?」
俺が聞き返す。
「眼鏡担当です」
「担当制だったんですか」
「現状、アルカディア所属の眼鏡キャラクターは私のみです」
「そこを分析してたんですか」
「キャラクターの差別化は重要です」
妙に納得できる理由だった。
信長が鼻で笑う。
「外せばよいではないか」
「それは困ります」
即答だった。
「視力に問題はありませんが、これは私のアイデンティティの一部です」
「度なしなんですか」
「伊達です」
「伊達だったんですか!?」
俺が思わず立ち上がる。
光秀は少しだけ首を傾げた。
「似合っておりますでしょう」
「いや、似合ってますけど!」
「ありがとうございます」
「褒めてない!」
黒川さんが口元を隠して小さく笑う。
「でしたら、ガリレオさんは眼鏡なしの方向で進めましょう。光秀さんとも差別化できます」
「助かります」
光秀は本当に安心したように頷いた。
そんな理由で眼鏡を守ったのか、この人は。
正論だった。
俺は画面に表示された少女を見る。
両目はきちんと見えている。
穏やかで、少し眠そうにも見える目は、こちらではなく、その少し向こうを見ている。
「いいですね」
俺は言った。
「何を考えているかわからないけど、怖くはない」
「星の方を見ているだけかもしれません」
黒川さんが答える。
「あるいは、私たちには見えていない小さな違いに気づいているのかもしれません」
佐伯さんが企画書を保存した。
「じゃあ、これで進めよう。近代科学編第一弾、ガリレオ・ガリレイ」
光秀が議事録へ決定事項を記入する。
「キャラクターコンセプトは、星を観測する不思議な少女。記録を重視し、昨日と今日の違いを確認する」
「イベントタイトル案も欲しいな」
「今ですか」
「今じゃなくていい。明日までで」
「今と大差ないですね」
「サービスは走っているから」
出た。
運営にとって便利な言葉。
サービスは走っている。
だからシナリオ担当も走る。
「宮田」
信長が俺を見る。
「その女も、こちらへ来るのか」
「来ないことを祈っています」
「なぜだ。面白そうではないか」
「面白がる側はそうでしょうね」
ジャンヌが微笑む。
「どのような方なのか、お会いしてみたい気持ちはあります」
「ジャンヌさんまで」
「星についてお話を伺いたいです」
妲己が、尻尾で俺の椅子の脚を一度叩いた。
「次も女を拾ってくるなら、先に部屋を用意しておけ」
「拾ってきているわけではありません」
「皆、宮田の作ったものから出てくるのでないのか」
「否定しづらい言い方をしないでください」
佐伯さんが大きく息を吐いた。
「今日はここまでにしよう。宮田くんは、明日までにキャラクター設定の初稿。黒川さんはデザインラフをもう少し詰めてもらえますか」
「承知しました」
「光秀さんは議事録を共有してください」
「すでに共有済みです」
「早いなあ」
「会議開始前に共有先を設定しておきましたので」
「未来が見えるの?」
「段取りです」
光秀が淡々と答えた。




