第3話 昨日も、こうでしたか?
「知名度がある分、そのままだと教科書っぽくなるから。ユーザーが一目で好きになれる要素が欲しい。ガチャがぶんまわるくらいには」
「天才科学者では駄目なんですか」
「天才科学者は、もう書いてある」
佐伯さんが画面を指す。
暫定プロフィール。
天文学者。
物理学者。
望遠鏡による天体観測。
地動説の支持。
宗教裁判。
「これを読んで、ガチャを回したくなる?」
「歴史好きなら」
「歴史好き以外にも回してほしい」
「星が好きな天才少女」
「もう一歩」
「望遠鏡を武器にする」
「一歩進む方向がおかしい」
信長が口を挟む。
「遠くの敵を撃てるのではないか」
「望遠鏡は照準器ではありません」
「似たようなものだろう」
「違います」
光秀が即座に否定した。
信長が不満そうに椅子へ沈む。
黒川さんはタブレットへ細い線を引きながら、静かに言った。
「理知的な人物であることは残したいですね。ただ、常に正解を出す完璧な天才にすると、少し近寄りがたくなります」
「欠点が必要ということですか」
「欠点というより、親しみやすさでしょうか」
黒川さんが新しいラフを表示する。
飾り気の少ない服。
胸元には星をかたどった小さな装飾。
両手には古びた観測ノート。
「星を見始めると周囲が見えなくなる、というのはいかがでしょう」
「なるほど」
「会話の途中でも、窓の外が気になるとそちらを見てしまう。人の話を聞いていないわけではないのですが、関心が少しずれている」
「不思議ちゃん寄りですね」
「はい。ただし、無意味に奇抜な言動をするのではなく、本人にはすべて観測上の理由がある、という形がよいと思います」
黒川さんらしい整理だった。
キャラクターを記号だけで決めず、なぜその行動をするのかまで考えている。
「記録魔というのは?」
俺は言った。
「気づいたことは何でもノートに書く。星だけじゃなく、天気や人の行動、机の位置まで」
「それは使いやすそうだね」
佐伯さんが頷く。
「日常会話にも特徴を出せる」
「同じものを何度も確認するとか」
俺は考えながら続けた。
「昨日と今日で何が変わったかを気にするんです。昨日もこの椅子はここにありましたか、とか。昨日もこの空は同じでしたか、とか」
会議室が静かになった。
俺は自分で言っておいて、少し不安になった。
「……怖いですか?」
「少しだけ」
佐伯さんが答えた。
「言い方によってはホラーになる」
「でも、本人は普通に聞いているんです」
俺は説明する。
「怖がらせる意図はない。ただ、観測する人だから、前回と今回の差を確認したい。本人にとっては自然な質問なんです」
「昨日も、こうでしたか」
ジャンヌが、言葉を確かめるように繰り返した。
「静かな響きですね」
「口癖にできます」
俺は企画書へ入力した。
――観測したものを記録する。
――昨日と今日の差異を気にする。
――周囲からは少し不思議な少女に見える。
――口癖は、「昨日もこうでしたか?」
「よいのではないでしょうか」
光秀が言った。
「一貫性があります。変わった言動も、観測者としての性質から説明できます」
「キャラクターとしても柔らかくなりますね」
黒川さんがラフへ書き込みを加える。
「表情は穏やかにしましょう。知識を誇るというより、常に何かを確かめているような印象で」




