第4話 世界を救っても、告知文は減らない
住まい問題が一段落すると、佐伯さんは別の資料を開いた。
そこには、俺の通常業務が並んでいた。
復刻イベント告知文。
妲己実装後の追加ボイス台本。
信長の新規マイルーム台詞。
光秀の住居ルールネタのミニ会話。
きつねまんコラボ第二弾告知。
季節イベント初稿。
ガチャ演出テキスト。
ユーザーアンケート確認。
管理局提出用補足資料。
多い。
シンプルに多い。
「佐伯さん」
「はい」
「歴史を一つ救ったら、タスクって減りませんか」
「減りません」
「即答」
「サービスは走っているので」
現実は厳しかった。
偉人本人の歴史を拾い直しても、告知文は減らない。
九尾が現代に残っても、ボイス台本は増える。
聖女が告知文を気にするようになっても、通常業務は減らない。
俺はノートPCを開き、通常業務のファイルを立ち上げた。
まずはSNS用の告知文。
書いた瞬間、背後から静かな声がした。
「宮田さん」
「はい」
ジャンヌが、俺の画面を覗き込む。
「絵文字は、一つくらいなら大丈夫でしょうか」
「ジャンヌさんが言うと、すごく悩みますね」
「では、一つだけにします」
今日も広報会議だった。
その後、信長のマイルーム台詞へ移る。
新規台詞案。
――現代の甘味は悪くない。だが、私を配布扱いするな。
「宮田」
信長が言う。
「配布扱いのくだりは残せ」
「気に入ったんですか」
「怒りとしてな」
「怒りとして」
「あと、私は星五がよい」
「性能はシナリオ担当では決められません」
佐伯さんがすぐに補足した。
「本当に決められません」
信長は不満そうだった。
次に、光秀のミニ会話。
住居規則を作る光秀。
信長が「細かい」と言い、光秀が「必要です」と返す。
これは、そのまま使える。
というより、現実がすでにイベント会話だった。
黒川さんが俺の画面を覗き込む。
「信長さんの表情差分は、眉を寄せるより、少し楽しそうな方がいいかもしれません」
「確かに」
「光秀さんは真顔固定で」
「わかります」
こういう時の黒川さんは、本当に頼りになる。
俺がキャラクターの内側を拾い、黒川さんが外側へ形を与える。
妲己編を通じて、その役割は以前よりも明確になっていた。
「宮田」
妲己が俺を呼んだ。
「はい」
「妾の台詞はまだか」
「順番にやっています」
「遅い」
「通常業務には優先順位がありまして」
「妾を優先せよ」
「そういうところですよ」
気づけば、妲己は俺の椅子のすぐ後ろに立っていた。
さっきまで会議室の端にいたはずなのに。
信長がすぐに気づく。
「狐。また宮田の横を取っておるな」
「妾の書き手じゃ」
「便利な言い訳だ」
「言い訳ではない。管理じゃ」
「宮田をか?」
「妾の物語をじゃ」
「ほう」
「何じゃ、その顔は」
妲己は不機嫌そうに言ったが、俺のそばから離れる気配はない。
むしろ椅子の背に手を置き、画面を覗き込んでいる。
外見は女子高生くらい。
距離が近い。
絵面がよくない。
「妲己さん、少し離れてもらっていいですか」
佐伯さんが、かなり慎重に言った。
「なぜじゃ」
「絵面です」
「また絵面か」
「はい」
妲己は不満そうに鼻を鳴らした。
だが、今度は狐へ変わらなかった。
今日決めたばかりの規則を、少しくらいは意識しているのかもしれない。




