第2話 偉人たちの住まい会議
会議室Bには、いつもの面々が揃っていた。
信長。
光秀。
ジャンヌ。
黒川さん。
佐伯さん。
そして、妲己。
妲己は人の姿で椅子に座っていた。
白い髪。
袖の長いパーカー。
黒いスカート。
いつものように女子高生くらいの姿で足を組み、腕を組み、当然のように一番態度が大きい。
ただし、一国を相手にできる九尾である。
会議室の端には、なぜかきつねまんが一つ置かれていた。
供物ではない。
軽食である。
たぶん。
「住まい問題とは何じゃ」
妲己が言った。
「妾はどこでも寝られるぞ」
「どこでも寝ないでください」
佐伯さんが即答した。
「それをされると困るんです」
「なぜじゃ」
「現代社会だからです」
「またそれか」
「またそれです」
佐伯さんは胃のあたりを押さえながら、資料を切り替えた。
画面には、こう書かれている。
《顕現体の滞在管理について》
硬い。
とても硬い。
御堂さんへそのまま提出しても違和感がない。
「まず前提として、皆さんは普通の意味で戸籍や住民票が整っているわけではありません」
「ないな」
信長が堂々と頷いた。
「そこを威張らないでください」
「天下人に戸籍などいらぬ」
「現代では必要です」
光秀が即座に訂正した。
「信長様。行政手続きは重要です」
「光秀。貴様、現代に染まりすぎではないか」
「必要でしたので」
佐伯さんが続ける。
「対外的な身分については、黒川さんが契約社員として扱えるよう整えてくれました。ただ、皆さんが普通に不動産屋へ行って、自分で賃貸契約を結べる状態ではありません」
「なぜじゃ」
妲己が聞いた。
「説明することが増えすぎるからです」
「妾が九尾だからか」
「それもかなり大きいです」
光秀の手元には、すでに別の資料が置かれていた。
表紙には《顕現体用レジデンス運用規則案》とある。
ぱっと見ただけでも、二十ページを超えている。
住まい問題が、すでに法令集のような厚みになっていた。
「光秀さん、それ、いつ作ったんですか」
「昨夜です」
「寝ました?」
「三時間ほど」
「寝ていない寄りですね」
「問題ありません。効率化しています」
オフという概念を、彼女はまだ完全には理解していない。
いや、理解した上で無視しているのかもしれない。
佐伯さんは咳払いをした。
「現状を整理します。信長さんは、偉人レジデンスの一号室」
「当然だな」
「当然ではありません。ただ、最初の顕現者なので便宜上そうなっています」
信長は満足そうに頷いた。
一号室。
この響きが気に入っているらしい。
「光秀さんは二号室。信長さんの隣です」
「信長様が、隣にいろとおっしゃいましたので」
「そこをそう回収するのか」
信長がわずかに顔をしかめた。
光秀は涼しい顔で続ける。
「おかげで信長様の火器使用、深夜の大声、電子レンジの誤使用、宅配員への過剰な威圧を即時制止できます」
「貴様、私を何だと思っている」
「一号室の高リスク入居者です」
「言い方」
黒川さんが小さく笑った。
ジャンヌは紅茶を飲みながら、静かに聞いている。
彼女だけは、偉人レジデンスには住んでいない。
「ジャンヌさんは、教会系の宿舎から通っています」
「はい。今のところ、不自由はありません」
「ジャンヌさん、現代適応がすごいですよね」
俺が言うと、ジャンヌは柔らかく微笑んだ。
「必要でしたので」
「光秀さんと同じことを言っているのに、圧が違う」
ジャンヌはすでに交通系ICカードを使える。
スマホ決済も覚えた。
電車にも乗れる。
カフェで普通に注文できる。
たまに差し入れを買って会社へ来る。
聖女というより、現代生活のお手本だった。
ただし、広報や告知の話題になると、少しだけ目を輝かせる。
そこは現代適応とは別問題である。
「そして」
佐伯さんが、少しだけ声を重くした。
「今回、妲己さんが加わりました」
全員の視線が妲己へ集まる。
妲己は、不愉快そうにきつねまんを眺めていた。
「妾を勝手に加えるな」
「加わっています」
「妾は住むとは言っておらぬ」
「では、どこで寝るんですか」
「宮田の近く」




