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第1話 偉人の住まい問題

 妲己編が終わった。


 終わった、という表現が正しいのかはわからない。


 イベントは無事にリリースされた。


 売上も伸びた。


 ユーザーの反応もよかった。


 修正史管理局からも、本人監修による新規妲己表現の公開は認められた。


 妲己本人への大規模な修正処置も、今のところ行われていない。


 妲己は消えなかった。


 九本の尾も、そのまま現代にある。


 なら、めでたしめでたし。


 そう言いたいところなのだが。


「宮田くん」


 佐伯さんが、会議室Bのモニターに資料を映しながら言った。


「あの人たちの住まい問題を、そろそろ正式に決めよう」


 めでたしめでたしの後には、だいたい管理コストが残る。


 ソーシャルゲーム運営と顕現体の対応は、そのあたりがよく似ていた。


 華やかなイベントの裏には、常に地味な処理がある。


 告知文。


 権利確認。


 追加収録。


 不具合対応。


 そして今回は、住居である。


 住む場所自体は、すでにある。


 信長が顕現した時、親会社が持っていた社宅の一室を、とりあえず使わせてもらった。


 光秀が増えた時には、その隣も借りた。


 そのたびに「当面の措置」で押し切ってきたのだが。


 三人目が来た。


 しかも、九尾の狐である。


 さすがに、当面では済まなくなった。


「その件でしたら、もう大丈夫です」


 黒川さんが言った。


「大丈夫?」


「はい。この物件を、アルカディアの関係者用住居として継続利用できるようにしておきました」


「しておいた?」


「親会社の方と少しお話を」


 少しお話をしただけで、社宅の用途というものは変わるのだろうか。


 俺には分からない。


「それと、皆さんの身分も一応」


「身分?」


「表向きは、アルカディアの契約社員という扱いにしてあります」


 俺は黒川さんを見た。


 信長を見る。


 光秀を見る。


 妲己を見る。


「……この人たちが?」


「はい」


「契約社員?」


「はい」


 天下人と、天下人を討った知将と、国を滅ぼせる九尾の狐が、書類上は同じ会社の契約社員になったらしい。


「そんなことできるんですか」


「必要なところは整えてあります」


「必要なところ」


「はい」


「具体的には?」


「いろいろです」


 出た。


 黒川さんの、いろいろ。


 説明しているようで、何一つ説明していない言葉である。


 俺は佐伯さんを見る。


 佐伯さんは少しだけ視線を逸らして、小声で言った。


「黒川さん、本社に妙に顔が利くんだよね」


「妙に」


「俺も詳しくは知らない」


「佐伯さんも?」


「うん」


 それはもう、聞かない方がいいやつではないだろうか。


 当の黒川さんは何でもないことのように資料を一枚めくった。


「これで、対外的には長期滞在している契約社員として説明できます。住居の使用についても問題ありません」


「妲己さんが九尾だということは」


「説明していません」


「そこは安心しました」


「必要ありませんでしたので」


 光秀が小さく頷いた。


「合理的ですね」


「光秀さんまで納得しないでください」


 こうして。


 織田信長。


 明智光秀。


 妲己。


 歴史上でも相当に説明の難しい三人が、現代ではアルカディアの契約社員ということになった。


 そして、これまで暫定的に使っていた社宅も、正式に彼女たちの生活拠点として運用されることになった。


 社内での通称は、


 《偉人レジデンス》。


 名前だけ聞けば、少し立派である。


 住んでいるのは、魔王とその家臣と九尾の狐だが。

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