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第31話 妾が選んだものとして、残せ

 二日後。


 完成したカードイラストと、俺が直したシナリオが会議室Bへ並んだ。


 カードの中央。


 白い髪。


 赤い目。


 九本の白い尾。


 前方へ向けた爪と影。


 その後ろに、名もない人たち。


 妲己は彼らを見ていない。


 彼らも妲己を見ていない。


 ただ、その間に九尾がいる。


 タイトル。


 《九尾は、弱きものを忘れない・妲己》


「どうです?」


 黒川さんが聞く。


 妲己は、長いこと画面を見た。


「絵描き」


「はい」


「怖いな」


「そのように描きました」


「よい」


 黒川さんが、ほんの少しだけ息を吐いた。


「ありがとうございます」


 次は俺の番だった。


「シナリオです」


「長い」


「まだ開いてもいませんよ」


「宮田が書いたのじゃろう」


「偏見がひどい」


「見せよ」


 妲己へ渡す。


 しばらく、ページをめくる音だけが続いた。


「宮田」


「はい」


「ここ」


 指を差す。


「過去の説明、多いです?」


「多い」


「削ります」


「妾が話さぬものは」


 一言。


「話さぬままにせよ」


「はい」


 それ以上、理由は聞かなかった。


 またページが進む。


 最後に、妲己の手が止まった。


 主人公が尋ねる。


 なぜ、そこまでしたのか。


 その答え。


 ――妾がそうしたかった。それでは不満か。


「ここは?」


 俺が聞く。


 妲己は、しばらく文字を見た。


「残せ」


「はい」


「余計なものを足すな」


「足しません」


「ならよい」


 ページを閉じる。


 これで、タイトルも、絵も、シナリオも、全部本人へ返した。


 光秀が確認する。


「妲己さん」


「何じゃ」


「この内容で、御堂様へ提出してもよろしいですか」


 妲己は完成したカードを見る。


 俺のシナリオを見る。


 そして、少しだけ考えた。


「これが妾だとは言わぬ」


「はい」


「絵は絵じゃ」


「はい」


「話は話じゃ」


「はい」


「妾は」


 自分を指す。


「ここにおる」


「はい」


 一拍。


「だが」


 妲己は、もう一度カードを見る。


「これを消せとも言わぬ」


 赤い目が俺を見る。


「妾が選んだものとして」


 一言。


「残せ」


「はい」


 俺は頷いた。


 光秀が最後の項目を確定する。


 ――本人監修による表現選択、成立。


 そのまま御堂さんへ送った。


◇


 返事は、その日の夕方に来た。


「早い」


 佐伯さんが言った。


「管理局なので」


 光秀が答える。


「それ理由になります?」


「読みます」


 全員が集まる。


 妲己もソファから顔を上げた。


 ――改訂方針を承認。


 ――本人監修による新規妲己表現の公開を認める。


 佐伯さんの顔が一気に明るくなる。


 光秀は続けた。


 ――ただし、妲己様本人による現実空間での大規模妖力行使については、引き続き制限要請対象とする。


「監査官」


 妲己が言った。


「最後まで細かいの」


「必要なんでしょうね」


「細かい女の仲間じゃ」


 光秀が一瞬だけ黙った。


「……否定はしません」


「認めた」


 そして最後。


 ――以上を条件として、当該イベントの公開を承認する。


「通った」


 佐伯さんが言った。


「はい」


「イベント出せる?」


「出せます」


「ガチャも?」


「出せます」


 佐伯さんが椅子へ深く座った。


「よかった……」


「責任者」


 妲己が呼ぶ。


「はい」


「これで妾を売るのか」


「言い方はちょっとあれですけど」


「売るのであろう」


 佐伯さんは今度は迷わなかった。


「はい。全力で」


 妲己が少しだけ笑う。


「よかろう」


 一拍。


「売れ」


「はい」


「ただし」


 赤い目が細くなる。


「安く売るな」


 佐伯さんが一瞬止まった。


 そして笑った。


「もちろん」


 たぶん、値段の話ではない。


 でも、聞かなかった。


 妲己は完成したカードをもう一度見る。


 《九尾は、弱きものを忘れない・妲己》


「では」


 俺が言う。


「出します」


「うむ」


 妲己は椅子へ座り直した。


「出せ」


 イベント、正式決定。


 あとはユーザーへ届けるだけになった。


 そして、その横で佐伯さんがもう一枚の企画書をそっと机へ置いた。


 新規コラボフード案。


 仮称。


 《九尾きつねまん》


 妲己の目がすぐにそちらへ向いた。


「責任者」


「はい」


「話を聞こう」


 そこだけ、食いつきがものすごく早かった。

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