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第22話 七営業日、九尾と決める

 光秀が聞く。


「提出内容は?」


「一般に知られる妲己像と、本来史由来の九尾をどう扱うか」


「はい」


「そして」


 御堂さんが妲己を見る。


「本人が、現代に何を残すことを選ぶのか。何を拒否するのか」


 妲己の眉がわずかに寄った。


「妾が決めるのか」


「本人監修を行うのであれば」


「面倒じゃな」


「拒否することも可能です」


 妲己が御堂さんを見る。


「拒否すれば?」


「アルカディア側は、本人監修としての新規妲己表現を進められません」


 佐伯さんの胃が、また危なそうだった。


 御堂さんは続ける。


「妲己様」


「何じゃ」


「現時点で、本人監修そのものを拒否しますか」


 会議室が静かになる。


 妲己は、すぐには答えなかった。


「希望などしておらぬ」


 佐伯さんの顔が曇る。


「ただ」


 妲己は俺を見る。


「そなたらが、妾をどう書くのか」


 黒川さんへ視線を移す。


「どう描くのか」


 佐伯さんへ。


「どう売るのか」


 最後に、御堂さん。


「そなたらが、妾をどこまで小さくするのか」


 一拍。


「それは見ておる」


 御堂さんが聞く。


「では、拒否する意思は?」


「今のところは、ない」


 佐伯さんが、そっと胃薬から手を離した。


「承知しました」


 御堂さんが資料を閉じる。


「では、七営業日」


「待ってください」


 俺は言った。


「はい、宮田春樹様」


「最終的に」


 一度、妲己を見る。


「修正史の《傾国の美女》へ戻すことはあるんですか」


 御堂さんは少しだけ考えた。


「可能性としてはあります」


 妲己の目が細くなる。


「ただし、現状では推奨しません」


「なぜです?」


「すでに妲己様本人と、それに矛盾する情報が多数観測されています」


「戻す方が」


 佐伯さんが言う。


「不自然になる?」


「その可能性があります」


 妲己が小さく鼻を鳴らした。


「ならよい」


 御堂さんが立ち上がる。


 そして最後に、俺を見る。


「宮田春樹様」


「はい」


「今回は、先に本人の言葉を聞いてください」


「はい」


「その上で、何を残すかを決めてください」


 簡単に言う。


 かなり難しい。


「努力します」


「お願いします」


 御堂さんは妲己へ頭を下げた。


「失礼いたします、妲己様」


「監査官」


「はい」


「そなた」


 一拍。


「悪くない」


「ありがとうございます」


 今度は妲己も否定しなかった。


 御堂さんは、そのまま会議室を出ていった。


 ドアが閉まる。


 三秒。


 佐伯さんが胃薬を一本飲んだ。


「お疲れさまでした」


「まだ始まったばかりですよ」


「だから飲んでる」


「なるほど」


 妲己は、御堂さんが出ていったドアを見る。


「あの監査官」


「はい」


「妾を哀れまなんだ」


「そうですね」


「善くしようともしなかった」


「はい」


「怖いものは怖いと言った」


「はい」


「気に入った」


 妲己基準では、かなりの高評価だった。


 光秀は、もうノートPCを開いている。


「では、改訂方針の作成を始めます」


「もう?」


 佐伯さんが言う。


「七営業日しかありません」


「そうなんだけど」


「必要です」


 妲己が机の上のクッキーを一つ取った。


 包装を見る。


 昨日、俺が教えた場所をつまむ。


 ぺり。


 一人で開けた。


「お」


 俺が言う。


 妲己が睨む。


「何じゃ」


「いえ」


「言え」


「開けられるようになりましたね」


「宮田」


「はい」


「噛むぞ」


「まだ有効なんですね」


「当然じゃ」


 妲己はクッキーを噛んだ。


 七営業日。


 その間に、俺たちは妲己をどう残すのか、本人と一緒に決めなければならなくなった。

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