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第21話 言わなかったことを、言わせない

「御堂さん」


 佐伯さんが言う。


「現在の企画も確認してもらえますか」


「お願いします」


 黒川さんがモニターを切り替える。


 最初に、昨日撤去した《傾国妖妃・妲己》。


「企画初期の仮案です」


 佐伯さんが説明する。


「一般に知られている妲己像を、そのままゲーム向けにしたものです」


「修正史上は、大きな問題のない表現です」


 御堂さんが言った。


 妲己が露骨に嫌そうな顔をする。


「責任者」


「戻しません」


 佐伯さんが即答した。


 妲己が見る。


 御堂さんも見る。


「理由は?」


「本人を見たので」


 短かった。


 次に、黒川さんが昨日の仮ラフを出す。


 白い髪。


 狐耳。


 黒いパーカー。


 九本の白い尾。


「こちらは本人確認用のラフです」


「人間形態と九尾を統合した表現ですか」


「統合ではありません」


 黒川さんがすぐに訂正した。


「狐形態も、人型も、耳や尾を隠した状態も、すべて妲己さん本人です」


「本来の姿と、仮の姿という区別は?」


「しません」


 妲己が言う。


「全部、妾じゃ」


 御堂さんは少しだけ目を細めた。


「本人確認済みですね」


「はい」


 黒川さんが答える。


「承知しました」


 光秀がホワイトボードへ書く。


 一。


 一般に知られる妲己。


 ――傾国の美女。


 二。


 本来史由来の妲己。


 ――一国を相手にできるほどの力を持つ九尾。人型、狐型ともに本人。


 三。


 本人監修による現代向け表現。


 ――未確定。


 妲己が三番を見る。


「未確定」


「はい」


 俺が答える。


「そこは、まだ決めてません」


「駅前では妾を見たであろう」


「見ました」


「祠でも」


「はい」


「昨日の店でも」


「はい」


「なら、何もわからぬのか」


「見たことはあります」


 一度、言葉を選ぶ。


「でも、それをどういう妲己として書くかまでは、まだ」


 妲己が俺を見る。


「なぜじゃ」


「わからないからです」


「ほう」


「妲己さんが、まだ言ってないことも多いですし」


「言わぬこともあるぞ」


「はい」


「それでも書くのか」


「……そこを考えてるところです」


 正直に答えた。


 御堂さんが言う。


「それで構いません」


「いいんです?」


「現段階で、無理に結論を出す必要はありません」


 佐伯さんが少し安心した顔をする。


「ただし」


 すぐ戻った。


「ですよね」


 御堂さんは俺を見る。


「宮田春樹様」


「はい」


「本人が言わなかったことを、本人が言ったことにしないでください」


「はい」


「そして」


 今度は妲己を見る。


「観測した事実まで、本人の自己申告だけで消さないこと」


 妲己の目が少しだけ動いた。


「妾が、何もしておらぬと言ってもか」


「実際に確認された行動は残ります」


「細かいの」


「必要ですので」


 俺は二つの言葉を頭の中で並べた。


 本人が言っていないことは、言わせない。


 でも、実際に起きたことは、なかったことにしない。


「難しいですね」


 俺が言う。


「はい」


「監査官が難しくしてません?」


「必要な難しさです」


「やっぱり細かい」


 妲己が言った。


 御堂さんは普通に受け流した。


「では、条件をお伝えします」


 佐伯さんの背筋が伸びる。


「本人監修案は、正式承認まで非公開としてください」


「はい」


「妲己様本人による、現実空間での大規模な妖力行使は避けてください」


「嫌じゃ」


「妲己様」


「何じゃ」


「お願いします」


「命令ではないのか」


「現段階では要請です」


「破れば?」


「危険度評価を更新します」


「その先は」


「必要に応じて、行動制限および修正処置を検討します」


 妲己の目が少しだけ冷える。


「なるほど」


 御堂さんは、それ以上飾らなかった。


「最後に」


 佐伯さんが嫌そうな顔をする。


「七営業日以内に、改訂方針を提出してください」


「七営業日……」


「何か問題が?」


「いえ。懐かしいなと思って」


「以前も同一期間を設定しています」


「ですよね」


 管理局は本当に七営業日が好きらしい。

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