第19話 九尾と監査官を、同じ会議室へ
その後、妲己は会議室のソファへ向かった。
すでに信長が座っていた。
「そこを退け、魔王」
「なぜだ」
「妾が使う」
「私が先だ」
「滅ぼすぞ」
「やってみよ」
光秀が言った。
「ソファは三人掛けです」
「細かい」
「必要です」
結局、信長が右。
妲己が左。
真ん中だけが空いた。
誰も座らなかった。
俺も座りたくない。
妲己はテーブルの上にあったチョコレートを取った。
個包装。
裏返す。
戻す。
また見る。
「妲己さん」
「何じゃ」
「開け方わかります?」
「わかる」
三秒。
五秒。
妲己の眉間にしわが寄った。
「そこ引っ張るだけです」
「知っておる」
「逆です」
「……」
「こっち」
俺が指を差す。
妲己が引く。
ぺり。
開いた。
「簡単じゃな」
「はい」
「最初からわかっておった」
「そういうことにします」
「宮田」
「はい」
「噛むぞ」
「まだ予約残ってるんですか」
妲己はチョコを口へ入れた。
「甘い」
「今日は甘いものばっかりですね」
「だが、悪くない」
もう一個取った。
そこへ、佐伯さんのスマホが鳴った。
画面を見る。
表情が変わる。
「来た」
「何がです?」
「管理局」
全員が見る。
妲己もチョコを食べる手を止めた。
「先ほどの警告への返信」
佐伯さんが読み上げる。
「本日発生した高危険度妖怪存在の認識拡散について、現地確認を実施する。詳細連絡は追って行う」
「現地」
嫌な予感がする。
「来るってことですか」
「でしょうね」
光秀が答える。
「監査官が派遣されると思います」
「監査官」
妲己が言った。
「修正史管理局の人です」
「妾を、人の女へ戻したがる連中か」
「そうすると決まったわけではありません」
「似たようなものじゃろう」
「会えばわかります」
「会う必要があるのか」
「向こうから来ます」
「面倒じゃな」
「そこは同意します」
妲己は残ったチョコを口へ放り込んだ。
「ならば」
「はい」
「見ていてやる」
また、その言葉だった。
「そなたらが、妾をどう説明するのか」
一本の尾が揺れる。
「監査官とやらが、妾をどう見るのか」
赤い目が最後に俺を見る。
「宮田」
「はい」
「そなたが、何を書くのか」
「まだ何も決めてません」
「それでよい」
「いいんです?」
「勝手に決めておれば、噛んでおる」
「なるほど」
妲己はソファへ深く座った。
「今は、見ておるだけじゃ」
妲己は帰らなかった。
監修を引き受けたとも、ここにいたいとも、まだ言わない。
ただ、しばらく俺たちのそばにいる。
それだけだった。
そして翌日、修正史管理局から正式な連絡が届いた。
現地確認担当。
史観監査官。
御堂真白。
どうやら、九尾と監査官を同じ会議室へ入れなければならないらしい。
佐伯さんが胃薬の瓶を机に置いた。
まだ来てもいないのに、たぶん正しい準備だった。




