↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
103/166

第18話 全部、妾じゃ

「わかりました」


「頼まれた覚えはないぞ」


「じゃあ、勝手にどうぞ」


「言い方が腹立つな」


「どっちですか」


 信長が笑う。


「よいではないか、狐。ここは退屈せぬぞ」


「魔王がおる時点で、静かではなさそうじゃ」


「私が騒がしいと?」


「自覚がないのか」


「ないな」


「大物じゃな」


「当然だ」


 ジャンヌが微笑む。


「甘いものはいかがですか?」


「紅茶はいらぬ」


「お菓子だけでも」


「それならもらう」


 ジャンヌがクッキーを差し出す。


 妲己は一枚取った。


 匂いを嗅ぐ。


 食べる。


「……甘い」


「苦手でしたか?」


「そうは言っておらぬ」


 もう一枚取った。


 信長がにやりとする。


「狐」


「何じゃ」


「気に入ったな」


「滅ぼすぞ」


「二枚食べておいてか」


「二枚食べたから何じゃ」


「数は認めるのですね」


 光秀が言った。


「細かい女」


「必要です」


「今のは必要か?」


「いえ」


「認めた」


 少しだけ、いつもの会議室に近づいた。


◇


「妲己さん」


 黒川さんが声をかけた。


「何じゃ、絵描き」


「人の姿について、少し確認してもよいですか」


「今見ておるではないか」


「耳と尾を隠していますよね」


 妲己の目が動く。


「わかるのか」


「狐形態を見ていますので」


 黒川さんはタブレットを開いた。


「可能なら、耳と九本の尾を出した状態も確認したいです」


「なぜじゃ」


「描くためです」


「まだ描くのか」


「本人を見ずに作ったラフを、そのまま使うつもりはありません」


「勝手に使わぬか」


「正式な制作物にする場合は、改めて確認します」


 妲己は、しばらく黒川さんを見た。


「絵描き」


「はい」


「妾を美しく描くと言ったな」


「はい」


「怖くも」


「はい」


「両立するのか」


「します」


 即答だった。


 妲己の口元が少しだけ上がる。


「よかろう」


 次の瞬間、白い狐耳が髪の間から現れた。


 続いて、九本の白い尾。


 一気に広がる。


 会議室が急に狭くなった。


「でかい」


 佐伯さんが言った。


「九本ありますので」


「わかってたけど、実際見るとすごいね」


 一本一本が太い。


 白い。


 柔らかそうで、同時に全部が動くと妙な圧がある。


 黒川さんの目が完全に仕事のものへ変わった。


「人型でも、九尾を出した状態を基本形と考えてよいですか」


「基本などない」


 黒川さんの手が止まる。


「狐の姿も妾」


「はい」


「人の姿も妾」


「はい」


「耳を隠した妾も」


「はい」


「尾を出した妾も」


 一度、九本の尾が揺れる。


「全部、妾じゃ」


 黒川さんは小さく頷いた。


「わかりました」


 タブレットへ書き込む。


「何と書いた」


「形態ごとに人格や本質を分けない、と」


「当然じゃ」


「重要です」


 俺も、その言葉だけは覚えておく。


 全部、妲己。


 それでいい。


 黒川さんは、しばらく妲己を見たあと、簡単なラフを描いた。


「仮ですが」


 白髪の少女。


 狐耳。


 大きく広がる九本の尾。


 妲己が覗き込む。


「尾が小さい」


「画面内に収めています」


「大きくせよ」


「顔が小さくなります」


「妾の尾を削るな」


「削りません」


 黒川さんは少し考えた。


「構図を変えます」


「できるのか」


「仕事ですので」


 妲己が少し笑った。


「よかろう」


 正式に本人監修を引き受けたとは、まだ言っていない。


 それでも、黒川さんのラフへ口を出すくらいには、妲己は残るつもりらしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。