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第16話 九尾は、勝手に撮らせない

「妲己さん」


「何じゃ」


「撮るなって言ってる人を勝手に撮るのは、俺も止めます」


 妲己が俺を見る。


「それだけじゃ」


「はい」


 俺は男たちへ向き直った。


「撮影やめてもらえますか。本人が拒否しています」


「本人って何だよ」


「施設スタッフも来ます」


 光秀は、すでにスマホを耳へ当てている。


「撮影はお控えください。削除についてもご協力をお願いします」


「いや、そこまで?」


 警備スタッフがこちらへ近づいてくる。


 三人は、ようやくスマホを下ろした。


「行こうぜ」


「なんだよ……」


 そのまま人混みへ消えていく。


 影もゆっくり引いた。


「妲己さん」


「黙れ」


「まだ何も言ってません」


「言う顔をしておる」


「今日はよく読まれますね」


「わかりやすい」


 一拍。


「宮田」


「はい」


「妾を、勝手に善いものへするな」


「しません」


「妾は、あやつらが気に入らなかった」


「はい」


「嫌だと言っても、人を物のように見る目が気に入らぬ」


「はい」


「だから潰そうとした」


「そこは止めます」


「面倒じゃな」


「現代なので」


「本当に面倒じゃ」


 妲己は、もう影を出さなかった。


 佐伯さんが戻ってくる。


「ポスター、撤去します」


「うむ」


「ドリンクも凍結」


「うむ」


「狐マシュマロは廃止」


「それは必ずやれ」


「はい」


 黒川さんが言う。


「次のラフは、本人確認を取ってから進めます」


「絵描き」


「はい」


「妾を甘くするな」


「承知しました」


「怖さも消すな」


「はい」


「狐を飾りにするな」


「はい」


 妲己は飲みかけの《傾国ベリーティー》を見る。


「ただし」


「はい」


「子どもが飲めぬほど苦くする必要はない」


 黒川さんは何も聞かなかった。


「承知しました」


 それだけ。


 俺も何も言わない。


 妲己は残ったドリンクを一口飲んだ。


「やはり甘い」


「直します」


「薄い」


「そこも」


「名も悪い」


「変えます」


「よろしい」


 その時、俺のスマホが震えた。


 通知。


 修正史管理局からのメール。


 ――高危険度妖怪存在に由来する認識拡散を検知。


 ――現状確認を求めます。


「……来た」


 俺が言った。


 佐伯さんが目を閉じる。


「来たか……」


「何じゃ」


 妲己が聞く。


「修正史管理局です」


「面倒な者どもじゃな」


 光秀が通知を確認する。


「駅前と、今回の撮影でしょう。説明を求められると思います」


「また説明か」


「必要です」


「人間は、何でも書くの」


「そういう組織ですので」


 佐伯さんが胃のあたりを押さえた。


「とりあえず会社戻ろう」


「胃薬あります?」


「ある」


「準備いいですね」


「最近ずっと必要なんだよ」


 妲己が鼻を鳴らす。


 《傾国妖妃・妲己》が撤去され、その隣で《傾国ベリーティー》も片付けられていく。


 人間が作った妲己は、ひとまず展示から消えた。


 でも、本人は俺たちの隣にいる。


 白い髪の少女は、甘すぎると言いながら、残ったドリンクを最後まで飲んでいた。

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