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第15話 傾国ベリーティーは、だいぶまずい

「待ってください!」


 佐伯さんが割って入る。


「これも初期案です! 正式決定ではありません!」


「責任者」


「はい!」


「これは何じゃ」


「試作ドリンクです」


「なぜ妾が液体になっておる」


「妲己さんそのものを液体にしたわけではないです」


「名が妾ではないか」


「イメージドリンクです」


「人間は、とうとう妖まで煮出すのか」


「煮出してません!」


 信長が笑う。


「狐を煮出した茶か」


「魔王」


「何だ」


「貴様も煮出すぞ」


「何味だ」


「信長さん、広げないでください!」


 その時、展示スタッフが小さなトレーを持ってきた。


「佐伯さん、こちらも撤去でよろしいですか?」


 トレーの上には、赤いドリンク。


 白い狐型マシュマロ。


 実物。


 佐伯さんの顔がさらに曇った。


「はい。すぐに――」


「待て」


 妲己が言った。


「それが、妾か」


「イメージです」


「飲めるのか」


「飲めます」


「寄越せ」


「え」


「妾の名をつけたのであろう」


 妲己は手を出した。


「ならば、妾が確かめる」


 スタッフが佐伯さんを見る。


 佐伯さんが黒川さんを見る。


「本人確認としては必要です」


「飲み物の本人確認って何?」


「商品監修です」


「もう始まってるの?」


「本人が希望していますので」


 佐伯さんは諦めた。


「お願いします」


 妲己の前へ《傾国ベリーティー》が置かれる。


 妲己は、中央に浮かぶ白狐型マシュマロを見る。


「狐を浮かべるな」


「はい」


 佐伯さんが即答した。


「廃止します」


「早い」


「ここは即断できる」


 妲己はグラスを持った。


 匂いを嗅ぐ。


 一口。


「……」


 全員が見ている。


「見るな」


「監修なので」


「それを言えば何でも許されると思うな」


 もう一口。


「甘い」


「はい」


「薄い」


「はい」


「妾は、こんな味ではない」


「はい」


「苦味を足せ」


 黒川さんがメモを取る。


「狐は?」


「消せ」


「承知しました」


 妲己は白狐マシュマロをスプーンですくった。


 しばらく見る。


「妾を妾が食うのか」


「やっぱり廃止で」


 黒川さんが言った。


「そうしてください」


 俺も賛成した。


 妲己はマシュマロを皿の端へ避けた。


 それでも、ドリンクはもう一口飲んだ。


「確認じゃ」


「はい」


 そして、グラスを見る。


「人間は」


「はい?」


「恐ろしいものを、甘くするのが好きじゃな」


 誰も、すぐには答えなかった。


「怖ければ、飾る」


 ポスター。


「大きければ、小さくする」


 狐のマシュマロ。


「わからなければ、人の形へ押し込める」


 妲己は自分の細い手を見る。


「そうすれば、安心するのか」


 佐伯さんが少しだけ考えた。


「そういう仕事を、俺たちはしています」


「なら、この茶も正しいのではないか」


「商品としては、そうかもしれません」


「なら?」


「でも」


 佐伯さんは妲己の手元のグラスを見る。


「本人に『こんな味ではない』って言われたものを、そのまま出す気はありません」


 妲己が佐伯さんを見る。


「売れればよいのではないか」


「売れた方がいいです」


「正直じゃな」


「会社なので」


 信長が笑った。


「便利な言葉だ」


「本当に便利なんですよ」


 黒川さんが、ポスターを外すスタッフへ指示を出す。


「旧案は撤去します。ドリンクも一旦保留。本人確認後に再設計します」


 そこへ、通路の向こうから声がした。


「ねえ」


 俺は振り返る。


 三人組の若い男。


 一人がスマホを持っている。


 その画面と妲己を見比べた。


「あー、やっぱそうじゃん」


「何が?」


「駅前で上がってた白髪の子」


 嫌な予感がした。


「ヒスガルの新キャラ?」


「コスプレ?」


 一人が妲己へスマホを向ける。


「撮っていい?」


 聞きながら、もう撮っている。


「撮るな」


 妲己が言った。


「別にいいじゃん」


「公共の場所だし」


「コスプレしてんだから見られる前提でしょ」


 妲己の目が冷えた。


「見られる前提」


「宣伝でしょ?」


「ヒスガルならなおさら」


 妲己の足元から影が広がる。


「妲己さん」


 俺が呼ぶ。


 返事はない。


 九尾の影が床へ伸びた。


「その目じゃ」


 妲己が言った。


「え?」


「昔から変わらぬ」


 スマホのレンズを、赤い目が睨む。


「使えると思えば」


 影が濃くなる。


「勝手に取る」


 一歩。


「女も」


 もう一歩。


「子も」


 尾の影が広がる。


「土地も」


 男たちの顔から笑みが消えた。


「食い物も」


「何これ」


「演出?」


「嫌だと言えば」


 妲己の声が低くなる。


「なお面白がる」

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