第7話 愛を運ぶ者
老人は一人小さな箱の前にいる。箱には貝殻の混じった砂と赤い土が入っている。それを時折、手に取っては捏ねて丸めてを繰り返す。老人の手元には得体の知れない形のものが転がっている。幾つかは少し壊れて歪に見えた。
老人は手の平で丸めて小さな団子を作る。もう一つ小さな塊を捏ねると細長い形を幾つか作った。
それを小さな団子につけていく。形を整えて手の中に包み込むとふうと息を吹き込んだ。すると手の中の団子がぴくぴくと動きだす。老人はそれを見ると微笑んで両手をそっと土の上へ乗せた。
手の平からもそもそと動き、土の上でそれはごろごろ寝転がるとやがて土塗れになり、ぷるぷると震えるとその下から艶やかな毛並みが現れた。薄赤茶の毛皮に愛らしい目をした獣は老人の顔を見ると頭を下げた。
「どこも痛いところはないかな?」
老人は獣に指を差し出すと獣の顎をすりすりと撫でた。獣はすうと目を細めて老人を見つめている。
「うんうん、良いね。手を見せてごらん?」
その言葉に獣はすっと前足を上げた。体にしては少し大きな前足に薄い赤の肉球がついている。獣は爪を出し入れして、ぎゅっと握るとゆっくりと開く。
「上手にできたね、足はどうかな?」
獣は背中からころんと寝転がると足を伸ばす。前足と同じように爪を出し入れして、少し握った。
「声は出るかい?」
老人は口を開けて獣に、あーと言う。獣は口を開けると小さな声でニャアと鳴いた。
「そうだそうだ、上手に声を出したね。話はできるかい?」
ニャアと鳴き、獣は口を閉じるともごもご口を動かして、前足で口をごしごしと擦った。そしてニャアニャアと続けて、もぐもぐ口を動かす。
「ニャ……ううん、うんうん、あーあー」
何度か練習するとまた口をもごもごして顔をあげた。
「はい。お話できていますか?」
獣は愛らしい声で老人を見上げた。老人は眉を下げるとうんと頷いた。
「上手に出来ているよ。お前はこの世界でもっとも愛らしく、もっとも愛される存在だよ」
「はい、あるじ様、わたしは何をすればいいですか?」
「うん、お前には下へ行って、私の手伝いをしている者たちの所へ。お前が生まれたことはきっともう伝わっているよ」
「わかりました」
「手伝いをしている者たちは皆賢い子たちだ。お前にも役目をくれる」
獣は小さく頷くと目を細めて微笑む。老人はそれを見て優しく笑い獣の頭を撫でた。
「なんて可愛い子だろう。お前が千年、万年、幾年も幾年も元気でいられるように願っている。その声が、その微笑が、全ての者に幸せをもたらすことを祈っている。愛というのだよ、それは」
「ではわたしは愛を運ぶ者ですか?」
「そうだね。間違いない、お前は愛を運ぶ者。愛を奏でる者。心を汚したものが多くいるのが下の世界だ、どうか気をつけて行っておいで」
獣はすくと立ち上がると老人の鼻先に鼻をちょんとつけた。そしてゆっくりと背中を丸めて伸びをすると老人の前から立ち去った。




