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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
公爵令嬢はゆっくりお茶を飲ませて貰えないようです。

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9/23

連れてこられた場所は要塞でした。

「本当に一週間後に来るとは……もう少し時間を考えてくれ……」


ファルクナー城内――


ギルバートはいつもより早足で、応接室へ向かっていた。額にはうっすらと汗が滲んでいる。


「お前……一応相手は公爵家だぞ?せめて顔くらい猫かぶってくれよ?」


ギルバートは自分の顔を指差す。


「元からこの顔だ……」


「それは知ってる……ただせめて眉間の皺くらいはとってくれ。」


ハンスはどこから取り出したのか手鏡をギルバートに向けると、そこには、無愛想を通り越した鬼のような顔をしたギルバートが映っていた。


(……眉間に皺を寄せるなと言うほうが無理だろう……)


自分の眉間を指で触って解すが、なかなか皺が消えない。


「あぁ~……もう跡になってるじゃないか……」


ハンスが眉間の皺を触ろうとギルバートに手を伸ばす。


その瞬間――


ガタガタッッ


大きな音が廊下に響いた。


(……今……なにか音がしたよな……)


ハンスも聞こえていたのか、ギルバートと目を合わせると、すぐさま音のした方へ顔を向けた。


そこには大きな花瓶に今日飾ったばかりの色とりどりの花。


そして、その陰では――


淡い紺色の布地が、ふわふわと揺れていた。


二人はお互いに顔を見合わせると、気づかれないように花瓶へ近づいていく。


「ふぅ~危なく二人の逢瀬を邪魔するところだったわ……」


高すぎず低すぎもしない……聞き取りやすい声が二人の耳に届く。


(……女……か?侍女ではないな。)


ファルクナー城にも侍女はいるが、淡い紺色の制服を着ているものはいない。


女はギルバートが近づいていることに気づいていないのか……コソコソと独り言を呟いた。


「従者と……旦那様……秘密の関係ってところかしら……ふふ。何だかいいわね……」


(……秘密の関係?)


ますますわけがわからない。


ただの従者と主人という関係なだけなのだが……


ハンスも同じことを思ったのか首を傾げている。


「『眉間に皺がよってるぞ。』『お前の綺麗な顔にシワが残ったら大変だ』『俺がとってやる。』ですってぇ~。久しぶりに昔読んだ薄い本を思い出すわぁ~」


女はしゃがんで頬杖をつきながら、ハンスの声真似をする。


(……薄い本ってなんだ……?と、言うより……)


「そこまでのことは言っておりません。」


「ハンスの声はもう少し低いぞ。」


ハンスとギルバートの声が重なった。


「……へっ!?」


女はブリキのおもちゃのように、ぎこちなくこちらへ顔を向けると、ギリギリと口角を上げた。


(……見ない顔だな……)


「え、え、えっと……?ほほほほほ……すみませーーーん!!」


そして、わざとらしく笑うと、猛スピードで走り去った。


「あ、おい……ちょっと……」


止めようと手を伸ばすが、その手は女にかすることなく宙を切った。


「いい脚力だな……」


「……えっ!?そこ?」


「そこ以外に何がある?確かに……顔は整っていたように感じたが……」


「……いや、お前に聞いた俺がバカだったよ。」


ハンスが頭を抱えてため息を吐く一方で、ギルバートは逃げ去った方向をじっと見つめてから、急いで応接室へと向かった。


***


「大きい……わね」


ベアトリーチェは馬車を降りると目の前にそびえ立つ城に目を向けた。


王城やセイレート城のような華やかさはない。


あるのは、黒灰色の石で積み上げられた巨大な城壁のみ。


無骨な外観はまるで“城”というより巨大な要塞のようにも感じる。


(……初めて見たわね……。でも嫌いじゃない。)


アルキューネ王国には、国中に城が点在している。


その城と領地を管理するのが貴族の仕事の一つでもあった。


そして王家から城と領地の両方を賜っているのは上級貴族だ。


(……この規模なら……階級上の人よね……)


「何故かしら……威圧感がすごいわ……」


「……だろう?この城はアルキューネ国の中で最も歴史のある城だからな。と、言っても知っているやつは少ないが……」


「知っている人は少ない……ですか……?」


アリオンはベアトリーチェの隣に立つと目を細めた。


その目は、この城自体に畏敬の念を抱いていると言う目だ。


そして、ふっと笑うとそのまま城に向かって歩き出した。


(……顔が整っているってだけで……得してるわね……)


「まっ、その辺は中にいるやつに聞けばいいだろう。中に入るぞ。」


ベアトリーチェとアリスターはアリオンの後ろに続いた。


城の前まで来ると


ギィーーー


重厚な扉が開いた。


「いらっしゃいませ……アリオン・セイレート様。お久しぶりでございます。」


中に入ると、年老いた執事が前に出てきた。


他にも数人控えているようだが、若い侍女は見当たらない。


「あぁ、久しぶりだな。……それで、あいつは……?」


(あいつ?って……誰かしら……)


「それが……もう少ししたら来られるかと思いますので、応接室でお待ちいただけないでしょうか。」


「そうか……」


執事は額を流れる汗を拭きながら、「こちらへどうぞ」と一言言うと、周りにいた侍女従者たちもほっと息を吐き出し散らばっていく。


夜会かと思っていたがどうやら違うらしい。


と、言うよりも城全体が歓迎ムードという感じもしない。


(気のせいかしら……)


ベアトリーチェが小さく首を傾げる。


「いや、気のせいじゃないと思う。とりあえず……アリオンについて行けば分かるだろう。」


ベアトリーチェは慌てて口元を隠すと、アリスターを見た。


どうやらアリオンは知り合いのようだが、アリスターは初めて来たらしい……


「大丈夫。口には出ていなかったよ。ただ表情が……ね。」


(表情に出てた……?)


王妃教育を始めてから顔には出なくなったはずなのだが……


「ふふっ……ここの人は気づいていないから安心して。」


アリスターはウインクして少し微笑むとそのままアリオンの後を追った。


(顔は似てるのに……性格は正反対ね……)


城内へ入ると、外から見たあの無骨な城からは想像もできないほど、そこには華やかな空間が広がっていた。


床には深紅の絨毯が真っ直ぐ敷かれ、高い天井へ続く大広間を彩っている。


頭上には幾つものシャンデリアが吊るされ、無数の灯りが金細工を煌めかせていた。


磨き上げられた黒石の床には淡い光が反射し、壁には辺境の歴史を描いた重厚なタペストリーが飾られている。


外観こそ要塞そのものだったが、中は違う。


冷たい石造りの城でありながら、不思議と温かみがあった。


「何だか……不思議ね。」


ベアトリーチェの小さな呟きは、誰にも拾われることなく暖かな空気へ溶けていった。


それからしばらくして――


先ほどの扉の音よりも少し軽い音が響いた。


「こちらでお待ちください。」


中に入ると、暖炉にはパチパチと火が灯り、白い布地に金の刺繍が入った清潔感溢れるカーテンと、それに合わせた家具が揃っていた。


(……なんだか気が合いそうね。)


外と内で違う城を見て、ベアトリーチェは目を細めた。

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