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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
珍獣令嬢と辺境侯爵令息。

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重苦しい空気の中にいいものを見つけました。

「こちらでお待ちください。」


執事が出ていってから数十分――


ベアトリーチェはそわそわと落ち着かない様子で紅茶を口に運んでいた。


テーブルの上には焼きたてらしいクッキーが並んでいる。


(……目の前にあるクッキー……食べてもいいのかしら。)


ベアトリーチェはクッキーと兄たちを交互に見るが、二人は何も話そうとしない。


(……どちらでもいいから気づいてよ……)


どんな所でも話題を振ってくれるアリオンが静かなのが珍しい。


パチパチ


暖炉の火の音が妙に大きく聞こえる。


重苦しい沈黙に耐えきれなくなったベアトリーチェは、静かに椅子から立ち上がった。


「お、お兄様……その……御手洗に行ってきても良いでしょうか……」


ベアトリーチェの声に二人はカップから視線を上げた。


「御手洗……?一人で大丈夫か……?」


「着いていこうか?」


心配そうに見上げる兄たち。


たかが御手洗に行くだけなのに、捨てられた猫のような顔をしている。


(そんな顔するなら連れてこなきゃいいのに……)


ベアトリーチェは、今着ているドレスと夜会ではない雰囲気になんとなくだが察していた。


「大丈夫ですよ。使用人のどなたかに声をかけますので。城主が来られるかもしれませんし、お二人はこちらでお待ちください。」


「そうか……」


「気を付けてね。」


二人は短く返事をすると、少し安心したように表情を緩めた。


「はい、では行ってまいります。」


ベアトリーチェは軽く頭を下げると、そのまま扉へ向かった。


***


「……誰もいない……わね。」


重苦しい空気に耐えかねて応接室を出たまでは良いが、使用人らしき人が見当たらない。


それどころか、どこまで行っても変わらない景色……


等間隔に並ぶ灯と人が顔を出せるくらいの小さな窓。


「この窓……」


よく見ると全ての窓から同じ景色が見える。


「敵を錯乱させるため……なのかしらね。」


廊下には、大きめの花瓶がいくつも置かれ、花瓶には色とりどりの花が飾られている。


「なんだか……酔ってきたわ。」


ベアトリーチェは思わず壁に手をつくと、目を閉じて深呼吸した。


その瞬間、ふわりと花の香りが鼻先をくすぐった。


「カモミールかしら……」


カモミールにはリラックス効果がある。


「ハーブティーにすると美味しいのよね……」


ベアトリーチェは近くにある花に手を添えると、今度は先程よりも深く息を吸い込んだ。


「ふふっ……いい香り。」


その時――


カツンカツン


誰かの靴音が廊下内に響き渡った。


(これは……チャンスじゃない!?)


ベアトリーチェは壁に手をついたまま、近づいてきた音に耳を澄ませる。


「本当に……来るとは……もう少し時間を考えてくれ……」


「お……一応相手は……だぞ?せめて顔くらい……くれよ?」


どうやらいるのは一人ではないらしい。


(男の人かしら……)


どんどん近づいてくる声に、ベアトリーチェは思わず近くにあった花瓶に隠れて、ふたりの会話を見守る。


「元からこの顔だ……」


一人はここの城の主人だろうか。


少し威圧的な話し方ではあるが、声色のせいかそこまで高圧的な感じはしない。


「それは知ってる……ただせめて眉間の皺くらいはとってくれ。」


(もう一人は小さい頃からの従者とか……幼なじみ?なんかいいわね……)


隠れているから顔は見えないが、声を聞いてどんな顔をしているのか想像する。


「あぁ~……もう跡になってるじゃないか……」


(なになにぃぃ……好奇心が騒ぐじゃない……うぅ……見てもいいかしら……?)


その瞬間――


ガタガタッッ


(やばっ……!!)


目の前にあった花瓶が音を立てて揺れる。


(わぁぁ~倒れないで!!今いい所なんだからぁ~!!)


ベアトリーチェは咄嗟に花瓶を手で抑えると、深く息を吐いた。


「ふぅ~危なく二人の逢瀬を邪魔するところだったわ……」


ベアトリーチェは花瓶に額をくっつけて、目の前で行われていたやり取りを思い出す。


「従者と……旦那様……秘密の関係ってところかしら……ふふ。何だかいいわね……」


「『眉間に皺が寄ってるぞ。』『お前の綺麗な顔にシワが残ったら大変だ』『俺がとってやる。』ですってぇ~。久しぶりに昔読んだ薄い本を思い出すわぁ~」


薄い本……


この世界では見た事ないが……前世ではよく友人たちが持っていた本だ。


(同人誌……懐かしいわ……)


ベアトリーチェが従者の声を真似しながら、目の前で起きた出来事を忘れないように噛み締めていると――


「そこまでのことは言っておりません。」


「ハンスの声はもう少し低いぞ。」


突然、二つの声が降り注いだ。


「……へっ!?」


(……聞こえてた!?)


ベアトリーチェは、ゆっくりと声のする方へ顔を向ける。


「え、え、えっと……?ほほほほほ……すみませーーーん!!」


そして、引きつった笑みを浮かべると、ドレスの裾をつまんで全速力で走った。


「あ、おい……ちょっと……」


遠くで、声が聞こえた気がしたが……気にしている余裕はなかった。


(うぅぅぅ~もう少し見ていたかったわぁ~……)


そして、なんとか兄たちのいる部屋へと戻ると……


「遅かったな……ベル」


「ご、ごめんなさい……思っていたよりも遠くて……って……」


「……君は……花瓶の……」


目の前には、廊下で偶然会ったカップルが座っていた。


「花瓶?」


「あぁ~……先ほど……」


アリオンの問いかけに、目の前の男が答えようとすると、ベアトリーチェは遮るように大きな声を出した。


「い、いえ、何でもないのです。お兄様は気にしないでください。」


「お前たち知り合いだったのか?なら話は早い……」


(知り合いってほどでも無いけど……)


アリオンは立ち上がってゆっくり近づいて来ると、ニヤリと意地悪そうに笑った。


「ほ、ほほほほ……お兄様……わたくし……用事を……」


ベアトリーチェは、ゆっくり後ずさると後ろにあった扉にもう一度手をかける。


だが――


「用事なんてないだろ?」


アリオンの手によって遮られた。


「ア、アリオンお兄様……?」


「ベアトリーチェ。挨拶。」


アリオンがベアトリーチェと呼ぶときは真面目な時だ。ベアトリーチェは、観念したかのように目を細めると、二人の前に向かった。


「お初にお目にかかります。アリステア・セイレート公爵の長女、ベアトリーチェ・セイレートと申します。お会いできて光栄です……えっと……」


(それにしても……)


「どちら様でしょうか……?」


ベアトリーチェの締まらない自己紹介に、その場にいた全員が固まった。


「知り合いじゃなかったのか!?」


「それは、アリオンお兄様の勘違いでございますわ。」


アリオンはカップルに目を向けると、ベアトリーチェの言葉にこくりとうなずいた。


(息ピッタリね。主従カップル……さすがだわ!!)

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