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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
珍獣令嬢と辺境侯爵令息。

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11/23

噂の侯爵令息に珍獣扱いされたんですけど……ただの公爵令嬢ですわ。

(これは今日の紅茶がよく進むわ)


ベアトリーチェは目の前のカップを持ちながら一人妄想を膨らませていた。


見目麗しいカップルに自然と頬が緩む。


(眼福眼福!!)


カップを口につけて一口紅茶を飲もうとした。


その時──


ふわりと紅茶の香りが鼻をくすぐると同時に、


「ククッ」


近くから男の笑い声が聞こえた。


従者だけでなく周りに控えていた侍女たちが目を見開いた。


どうやらこの男が笑うのが珍しいらしい。


(なんとも言えない空気ね。)


そんな空気を遮るように、アリスターが声を発した。


「えっと……すまない。妹がなにか失礼なことを……?」


「失礼って……ひどいじゃないですか。わたくしは何もしておりませんわ。ねぇ……えっと……」


ベアトリーチェは目の前に座る主人と、後ろに控える従者を見据えると、小さく首を傾げた。


(……名前……分からないのよね……)


すると──


目の前の男は口元を隠しながら、首を横に振った。


「いや、なんでもない。」


(……何よこの空気……)


重いわけでもないが軽いわけでもない……


何とも言えない空気の中、目の前の男は気にすることなくもう一度「ククッ」と声を漏らした。


「な、何がおかしいのですか……?」


「くっ……すまない。君はまるで……珍獣だな。」


「ち、ちんじゅう!?」


「あぁ……どこからともなく現れて、花瓶の陰でコソコソ呟いていたと思ったら、今は目の前で高貴な女を演じてる。それに……」


「「花瓶の陰!?」」


アリスターたちは男の声を遮ると、勢いよくベアトリーチェを見た。


(やば……御手洗に行ってなかったのがバレちゃうじゃない……)


「えっ、えっと……お兄様。これには深い深~いわけがあってですね……」


「深いわけ……?」


ベアトリーチェは手の平をアリスターに向けると落ち着かせるように揺らす。


(アリスターお兄様が怒るの怖いのよね……)


「そ、そうなんです。色々と事情が……御手洗が遠くてですね。たまたまお会いしたんです。そう……たまたま……」


(お願いだから、これ以上何も言わないでよ……)


ベアトリーチェは目の前の男をきっと睨むと、一瞬目を見開いたあと、もう一度声を殺して笑った。


そんな二人のやり取りを見て、アリオンが呆れたようにため息をつく。


「事情って……どうせ、道に迷ってたんだろ?それか、冒険にでも出てたのか……まぁ、こいつが普通に座ってられるのなんて、お茶やお菓子食べてる時くらいだ。」


「アリオンお兄様。その言い方は失礼じゃないですか。私はただ、お散歩に行っていただけなんですよ?」


「散歩って……御手洗じゃないのか!?」


「あっ、お、御手洗です。」


「うそつけ……もう遅いぞ。今散歩って言ったじゃないか。」


ベアトリーチェは分かりやすく視線を逸らした。


目の前に座っている男と目が合うが、笑っているばかりで使えそうにない。


これ以上口を開けば墓穴を掘ると思ったベアトリーチェは小さく微笑むとそのまま口を閉ざした。


「まぁ、ベルは落ち着きがないからね……今回は本人が何もしてないというし……このくらいにしておいてやろう。」


(……普段から何もしてないわ……)


アリスターの言葉に、ベアトリーチェは小さく肩を撫で下ろした。


そして、男は背もたれに身体を預けると、ベアトリーチェたちを交互に見る。


「ククッ……表情がコロコロ変わるな。今だって……すごい顔になっているぞ。」


すごい顔!?


それに、先ほど男に言われた言葉を思い出す。


高貴な女を演じてる……


(……そんなこと初めて言われたわ。)


確かに、ベアトリーチェの中で“高貴な女”は舞台の中の一人という感じが消えなかった。


(前世の記憶があるから余計ね……)


でも、ベアトリーチェ自体を演じているつもりはない。


外と内の顔が違うと言うだけだ。


ベアトリーチェは目を細めて、目の前にいる男を見据えた。


「別に演じているつもりはないんですけど……それよりも、そろそろお名前を教えてくださってもいいのではないですか?」


「本当に俺のことを知らないのか?」


男は探るようにベアトリーチェを見つめていた。


俺のことを知らない?


(どこかで会ったことあるってこと?)


男の顔をじっくり見るが、思い出せそうにない……


(まぁ、イケメンであることは分かるけど……それだけね。)


ベアトリーチェは小さく首を振ってから、眉尻を少し下げた。


「申し訳ございません。以前どこかでお会いしたことがありましたでしょうか?わたくし……その……婚約者以外眼中になかったものですから……」


「嘘つけ……婚約者すら眼中にはなかっただろうが……」


アリオンの呆れた声に、ベアトリーチェの口元がぴくりと引きつる。


ベアトリーチェは思わず、アリオンの脇腹をきゅっと摘んだ。


「ゔっ……」


アリオンのうめき声に今度は男たちが首を傾げる。


「ほほほっ……なんでもございませんわ。それでお名前を教えていただいても……?」


「あぁ、そうだったな。俺はファルクナー侯爵家次期当主。ギルバート・ファルクナーだ。」


「ギルバート・ファルクナー……」


名前だけは聞いたことがある。


「見目麗しいだけの冷酷な男……」


一時期、お茶会の話題にもなっていた。


夜会に顔を出すことはほとんどないが、たまに現れれば令嬢たちが一目で恋に落ちるという。


そして、何人もの令嬢が求婚したが、追い返したり、泣かせたりしたと──


ただの令嬢の妄想かと思っていたがどうやら本当だったらしい。


「実在したのね……てっきり彼女達の妄想かと思ったわ……」


ベアトリーチェがポツリと呟くと、思いのほか自分の声が響き渡った。


(しまった……声にでてたわ……)


口に出ていたことに気づき、ベアトリーチェは目を細めると口元を手のひらで隠した。


「ほほほほほ……なんでもございませんわ。」


その瞬間、部屋の空気がピタリと止まる。


そして――


「「「クッ……ククッ……フハハハハ!!」」」


どっと笑いが湧き起こった。

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