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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
珍獣令嬢と辺境侯爵令息。

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二人の恋路、喜んでお手伝いさせていただきます。

「ハハッ……ギル。お前にぴったりじゃないか。」


「ククッ……見目麗しいだけの冷酷な男……だってさ。」


(なんで皆笑っているのよ……)


兄たちだけでなく、ギルバート自身も声を出して笑っている。


「アリスターお兄様も、ギルバート様とお知り合いだったのですか?」


アリオンがギルバートと知り合いなのは、この要塞に入るときの執事との会話でなんとなく想像がついていた。


だが――


「……ん?僕が知り合いじゃないなんて言ったっけ?」


「……いえ……」


ベアトリーチェはパクパクと口を動かしてからアリスターへ視線を送った。


(確かに言ってなかったけど……)


今の今まで、知り合いという素振りを一切出していなかったのだ。


なんなら初めて会ったような……そんな距離感だったというのに……


アリスターは片方の口角を上げて楽しそうな顔をしている。


(やられたわ……)


ベアトリーチェは引きつった笑みを浮かべながら兄たちを見ると、ここに来た時のことを思い出した。


思い返せば、二人とも最初から妙に静かだった。


普通だったら……要塞のような城を見ると誰だって驚くはずなのに。


二人は気にもとめず中に入っていったのだ。


きっと、こうなることを分かっていたんだろう。


(こういう時だけ息ぴったりなんだから……)


ベアトリーチェは一度こほんと咳払いすると、じろりとアリオンを見た。


「アリオンお兄様。そろそろわたくしをここに連れてきた理由を教えてくださいませんか?」


「そうだな……俺も理由を知りたい。手紙だけ送って来て……肝心なことは何も書いていなかったからな。」


ギルバートもベアトリーチェと同じように一度咳払いをすると、目を細めた。


二人の視線が兄たちに降り注ぐ。


兄たちはお互いに視線を合わせると、肩を竦めた。


先ほどまでの笑い混じりの空気が、ゆっくりと落ち着いていく。


アリオンは静かになったのを確認すると、真剣な表情でギルバートを見据える。


(……あのクッキーおいしそう……)


目の前にあるクッキーを見て、ベアトリーチェはゴクリと唾を飲んだ。


「今日来たのは……」


時計の針が妙に大きく聞こえる。


(……早く話してよ……)


アリオンはわざとらしく言葉を切ると、隣に座るアリスターへ視線を向けた。


すると――


「僕たちの可愛い妹をお前に預けようと思ってきたんだ。」


部屋の空気が凍りつく。


先ほどまで湯気が立っていたはずの紅茶は、湯気すら出ていなかった。


そして――


応接室からふっと音が消えた。


「……は?」


静まり返った室内に、ギルバートの間の抜けた声が響いた。


***


「……本気で言ってるのか?」


ギルバートは思わず眉を寄せた。


目の前に座るベアトリーチェも同じことを思っているのか、ギルバートの言葉に同意するようにうなずく。


「そうですよ……お兄様……急に連れてきたと思ったら何を言いやが……言い出すのですか……」


頑張って取り繕っているようだが、所々口調が崩れている。


しかし、その両隣に座る兄弟は、ベアトリーチェの言葉に耳を貸す気はないのか、淡々と話し始めた。


「本気だ。ギル……お前だって前に言ってただろ?面倒な女は必要ないと……」


「まぁ……確かに言ったが……」


昔から見た目だけに近づいてくる女ばかりに嫌気が差していた。


侯爵家の肩書きもあるのだろう。


婚約まで進んだとしても、この家に住むことになれば誰もが皆口を揃えて同じことを言う。


「監獄のようなところに住まわせる気か……」と。


そして、最後は「見た目だけの男でガッカリした」と捨て台詞を吐いて去っていくのだ。


「だろ?お前にピッタリの女を連れてきた。」


親指を立てて自分の妹を指さすアリオンに、ギルバートは思わず、肩を竦めた。


「この、珍獣が?」


見た目はたしかに美しい……


だが、中身は花瓶に隠れて独り言を言いながら笑っているおかしな女だ。


「珍獣って言わ……うっ……」


ベアトリーチェが勢いよく立ち上がろうとすると兄たちが彼女の肩を掴んだ。


「ほほほ……言わないでください。」


ベアトリーチェはむっと頬を膨らませながら、クッキーに手を伸ばした。


(……珍獣じゃなくて、小動物だな……)


クッキーを両手で持ってちびちびと食べ続ける姿をみて笑いそうになる。


「押し付けるわけじゃない。お前ならベルを利用しないと思っただけだ。」


その言葉に、ギルバートはわずかに目を細める。


貴族社会において、“利用しない”などという言葉はまず出てこない。


婚姻とは家同士の繋がりであり、利益だ。


愛だ恋だなどと言っていられる世界ではない。


「……随分な信用だな。」


「実際、お前は面倒ごとを嫌うだろ。」


「まぁな。」


ギルバートはそこで一度言葉を切ると、ちらりとベアトリーチェを見た。


紅茶を飲みながらもう一つのクッキーに手を伸ばしている。


(……自分の話なのに、興味無いのか……)


「それに、こいつがいればお前に近づいてくる女も減るぞ?」


アリオンはベアトリーチェの肩を叩くと、それが嫌なのか彼女は肩を回した。


「やめてください。お兄様。それに人を物みたいに……預けるってどういうことなんですか?」


「「「……」」」


「えっ……なに……?わたくし、何か変なこと言いました?」


ベアトリーチェは、これだけの話をしているのに、何も理解をしていなかった。


ベアトリーチェの兄たちはそんな妹をみて盛大にため息を吐いた。


「まぁ、こんな妹だ。お菓子とお茶……が好きで、ちょっと変わっているが、器量はある。それに……こう見えて、才女だ。」


(本当か……?)


アリオンの言葉が信じられず、アリスターを見ればアリスターも否定はしなかった。


「まっ、とにかくだ。ギルにも妻ができる、ベルは第二王子から逃げられる、ウィンウィンだろ?」


アリオンは、両手でVを作ると、指を動かした。


「……第二王子?」


「……えっ!?妻?」


その瞬間――


ギルバートの声は、ベアトリーチェの声と、クッキーが落ちた音によってかき消された。


「ま、待ってください……それって……」


ベアトリーチェの視線がゆっくりとギルバートへ向く。


そして――


「……まさか、わたくしですか!?」


ベアトリーチェは慌ててギルバートと、その後ろに控えるハンスを交互に見た。


「そ、そんな……二人の関係の邪魔なんてできませんわ。ですが、わたくしがいれば他の女性が二人の恋路を邪魔することもできませんわね……」


「……は?」


ギルバートの眉間に深い皺が寄る。


後ろに立っていたハンスは、静かに顔を覆った。


「ベル。」


「はい?」


「お前、何を勘違いしてるんだ?」


ベアトリーチェがきょとんと首を傾げると、兄たちは盛大に頭を抱えた。


「何も勘違いしておりませんわ。」


首を横に振りながらも、ベアトリーチェはギルバートとハンスから目を離さない。


「お兄様。一つのカップルが救われるのであれば、わたくし喜んでこの方の妻になりますわ。」


「あ、あぁ……そうか……」


わけのわからない方向に進むベアトリーチェに、ギルバートは深いため息を吐き、ハンスは静かに天を仰いだ。

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