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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
珍獣令嬢と辺境侯爵令息。

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13/20

辺境の要塞城、退屈せずにすみそうです。

「それで……言いたいことはわかった。まぁ、この珍獣を妻として迎えるメリットもな。だが、肝心なことが聞けていないぞ?」


(……また、珍獣って言ったわね。)


「肝心なこと?」


ギルバートの言葉に、アリオンが首を傾げる。


ベアトリーチェは二人の邪魔をしないように、目の前のクッキーに手を伸ばした。


(……このクッキーちょっとパサパサしてるのよね……見た目は綺麗なのに……)


「そうだ。さっき言葉の中に第二王子という声が聞こえた気がしたんだが……俺の気のせいか?」


そこまで言われて、アリオンも思い出したようだ。組んでいた脚を組み換えて、目の前の紅茶を一口飲むと目を閉じた。


(あの顔……面倒だと思ってるわね……)


「……気のせいではない。」


アリオンは短く答えると、先ほどまでの軽い空気を消した。


その変化に、ギルバートもわずかに目を細める。


「ベルは王族に執着されている。」


「王族に……?」


「それは、お兄様達の勘違いですわ。わたくしがクソ王子……じゃなかった……第二王子の婚約者だったから、皆さん優しくしてくださっただけですわ。」


「優しい、ねぇ……」


アリオンは呆れたように額を押さえた。


「ベル。お前、自分がどれだけ囲われてたか理解してないだろ。」


「囲われてなど……」


「護衛も侍女も、全て第二王子側で固められてたんだぞ?おかげで家にだって帰って来れなかっただろ?」


「それは婚約者として当然では?」


「「当然じゃない。」」


アリオンとアリスターの声が重なった。


いつもよりも低い声に、ベアトリーチェはぴたりと動きを止める。


「僕たち家族でさえ何度面会を頼んでも拒否されたんだ。おかげでベルに会えたのは年に数回だけ……なのにあいつと来たら……」


「夜会では、いつもお前を放置して別の女のところに行き、挙句の果てに偽物だと言ったんだぞ?」


「偽物……?」


「そうだ。」


アリオンはギルバートに何があったのかを話した。


「まぁ、そのおかげで自由に動けましたし……美味しいお茶やお菓子を楽しむことができましたから……」


ベアトリーチェは、どこか安心したように微笑んだ。


「それに、今は自由ですから……」


ベアトリーチェはのんびりと紅茶を口に含むと、クッキーを一枚手に取った。


サクッ――


小気味いい音が響く。


「ん~……美味しいっ!」


嬉しそうに目を細めた。


***


(……こいつ、本気で言っているのか。)


その笑顔を見て、ギルバートは小さく眉を寄せた。


偽物扱いされ、家族にも会わせてもらえず、それでも“自由だった”と言う。


まるで――


不自由だったことなど初めから無かったかのように……


「そんな状態でよく紅茶なんて飲めるな。」


「そんな状態?って……どんな状態ですか?」


ギルバートが小さい声で呟くと、ベアトリーチェにも聞こえていたのか目を見開いた。


「紅茶やお菓子に罪はありませんし、私は自由になった訳ですし、あんな王城にずーっといるより今の方が幸せですわ。」


「それでも……これから社交界で何を言われるかわからないぞ。貴族なんてろくな奴は居ないんだ。」


「ふふっ……そんなの痛いほど知っていますわ。わたくしもその一人ですもの。……ですが……そんなの言わせておけばいいのです。」


ベアトリーチェは、紅茶のカップをそっと皿へ戻した。


先ほどまでクッキーを食べていたとは思えないほど穏やかな声音に、ギルバートは息を呑んだ。


(こいつ……こんな顔もできたのか……)


口元をわずかに緩めて微笑む姿は、珍獣ではなく公爵令嬢そのものだった。


「だってわたくしは何も悪いことしていないんですもの。」


ギルバートは思わず口を閉ざす。


強がりではない。


ただ事実を口にしているだけ――


「もし、わたくしや家族に何かしてくるのでしたら……」


楽しそうに目を細めるベアトリーチェをみて、ギルバートは思わず小さく眉を寄せた。


「……ふふっ……最後に泣くのはあちらですわ。」


(珍獣……そんな可愛いものじゃないな……)


話をして、他の女と違うことはよくわかった。


「はぁ……お前はこんな要塞のような城でいいのか?」


ギルバートは呆れたように辺りを見回した。


分厚い石壁に、無骨な調度品。


城の中だけでもと改装はしてみたものの、華やかな王都とは程遠い。


隣国──ケルベリオン帝国との国境を守るためだけに作られた城だ。


今まで令嬢たちが、この要塞を見て逃げて行ったか分からない。


「皆、監獄みたいだ、と言って逃げて行ったぞ?」


その言葉に、ベアトリーチェはパチパチと瞬きをした。


「……どこがですか?」


「……は?」


「確かに見た目は要塞のように見えるかもしれません。ですが、左右対称に作られた城。簡単には壊れない強固な石畳。石畳にはバサルトが使われていますね?」


「バサ……なんだって……?」


初めて聞いた言葉にギルバートだけでなく、ハンスやアリスターたちも首を傾げる。


「バサルトです。マグマが急激に冷えて固まると、このような岩になるのです。見た目は黒く、威圧感がありますが、その分固く防壁にぴったりなんです。」


「そ、そうなのか。」


「はい……それに、小さな小窓からは陽の光が入るように細工がされていました。鏡で光を反射させて、城内が少しでも明るくなるように工夫されていたのでしょう。皆さんが守ってくださっているというのがよくわかりました。」


「そんな所を監獄だなんて……誰が思いましょうか。」


本気で理解できないと言わんばかりに、ベアトリーチェは首をかしげた。


「「「……」」」


室内が静まり返り、暖炉の薪が燃える音だけが耳に届く。


(今まで……そんなことに気づくやつはいなかったというのに……)


誰一人として城を褒めた女はいなかった。


“息が詰まる”


“冷たい”


“監獄みたい”――と。


だが、ベアトリーチェは違う。


石畳を見て、構造を見て、込められた意味を見ていた。


(……なんなんだ、こいつは。)


珍獣。


そう思っていたはずなのに、気づけばギルバートは、ベアトリーチェから目を離せなくなっていた。


「わかった……お前に最後に一つだけ聞きたい。」


「なんでしょうか。」


「ここには竜が現れることがある。あの山を越えてな。俺たちの中には竜と契約している者もいる。怖くは無いか?」


「……」


竜はこの地に古くから伝わる魔物の一種だ。その魔物が来るとなれば声を発することも出来ないだろう。


(……ほらな……)


「アリオン。やはりベアトリーチェ嬢にはこの役目は荷が重いんじゃ……」


「な、なんですって!?」


「この世界にはドラゴンがいるのね。しかも乗れるの?きゃー!!私も乗れるかしら。出来れば私もお友達になりたいわね……」


鼻息をふんふんと鳴らしながら早口で話すベアトリーチェを見て、ギルバートは開いた口が塞がらなくなった。


「……おい。」


「はい?なんですの?」


「お前、本当に公爵令嬢か?」


「ま、まぁ……失礼ですわね。これでもれっきとした公爵令嬢ですわ!」


ベアトリーチェはむっと頬を膨らませる。


その姿を見て、ギルバートは深く息を吐いた。


(……やっぱり珍獣だな。)


だが──


なぜか悪い気はしなかった。


「アリスター、アリオン。こいつは俺が預かろう。」


その言葉に、アリオンはニヤリと口角を上げた。


一方で、アリスターは肩を竦めながら小さく笑う。


「ふふっ……交渉成立、だな。」


「最初からそのつもりだったくせに……」


「書類などはどうしたらいい?」


「明日用意して父上たちが持ってくることになっている。」


アリオンは初めから決まっていたとばかりに一言だけ言った。


(……ったく……)


「昔から変わらないな……」


「それはこっちのセリフだ。」


ギルバートはアリオンたちと視線を合わせるとホッと一息ついた。


「ギルバート。妹をよろしく頼むよ。」


「まぁ、珍獣だからな……どこまで扱えるか分からないができるだけ頑張ってみるさ。」


「……?何の話ですか?」


「なんでもない。今日はもう遅いから泊まっていけ。」


ギルバートはハンスに三人を部屋へ案内するよう伝えると、そのまま応接室を後にした。


その背中を見送りながら、ベアトリーチェは首を傾げる。


「まっ……いっか……」


ベアトリーチェは冷めきった紅茶の最後の一口を飲みきると、兄たちに続いて応接室をあとにした。

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