四大公爵家の決断。
「ヴィクトリーチェ。今日お前の母親も呼んだはずだが……どこにいる。」
「わたくしはベアトリーチェですもの。わたくしのお母様はそこにいるじゃありませんか。何をおっしゃるのですか。」
ヴィクトリーチェはベアトリクスへ視線を送るが、母はすぐに視線を逸らした。
「お前……先ほどから言っていることが二転三転しているがきづいていないのか?ヴィクトリーチェと呼んだ時に返事をしたり、ベアトリーチェと言ってみたり……な。」
今まで黙っていたギルバートが口を開いた。
ヴィクトリーチェのギルバートを見る目が一瞬で変わる。
「えっ……と……とても綺麗な方……わたくしが王妃になったあかつきにはあなたを愛人として囲ってあげるわ。」
「……は?」
ヴィクトリーチェはディオンの腕を振りほどくとギルバートに近づいた。
ギルバートのこめかみがピクリと動く。
「すまんが俺はお前に興味が無い。珍獣相手で精一杯でな。」
「珍獣……?」
ヴィクトリーチェが首をこてんと傾げた。ギルバートの視線がベアトリーチェを射抜く。
「そうだ。あいつだ……」
「ふふっ……あの子とわたくしは瓜二つでしょ?わたくしでもいいのではないかしら。わたくし……あなたに珍獣と言われるなら全然よろしくてよ?」
ヴィクトリーチェはギルバートの腕に、自分の胸を押し付けると、肩に頭をもたれた。
ギルバートの眉間にシワが寄るのを見て、ベアトリーチェは口角を上げた。
(残念ね……ギルバートは女性を好きになれないのよね。)
「ハンス。」
(ほら、やっぱりね。)
「はい……」
ハンスは、ヴィクトリーチェに近づき、ギルバートから引き離す。
「ちょっと、やめなさいよ!わたくしは王妃になる女よ。そんなことしてもいいと思っているの!?」
「申し訳ございません。主人の指示ですので。」
ハンスはヴィクトリーチェをそのままディオンに向けて投げた。
「自分の婚約者も制御できないとは……第二王子が聞いて呆れるな。それより、その女もその女だ。婚約者の前で別の男に手を出そうとするとは……反吐が出る。」
ギルバートは言いたいことだけ言うと、ベアトリーチェを抱きしめた。
「ちょっ……やめてください。」
「俺にとってのベアトリーチェはこいつだけだ。瓜二つ?こんな奴が二人もいたらこの国は破滅を迎えるぞ?」
「「「確かに……」」」
(お兄様たちまで!?)
兄たちの声が重なる……
「それに……よく見たら顔も全然違うじゃないか。目の色だって違う。髪の色もな……お前のはくすんだグレーだろう。セイレート公爵家は皆綺麗な銀髪だ。瞳の色もな……」
(よく見ているのね……)
「俺はこいつ以外いらない。お前のような女は願い下げだ。それに……きっと俺の城に来たらすぐに逃げ出すことになる……」
「それは……そうですわね……何もないお城ですもの。」
ベアトリーチェはギルバートの胸元を手で押し返すと顔をヴィクトリーチェに向けた。
「あなたの好きな派手なもの一つありませんわ。正妃になったとしてもギルバート様は次期ファルクナー侯爵。王城に住むことは許されませんもの。残念でしたわね……」
「な、なによ。ベアトリーチェのクセして……私にそんな口を聞いてもいいと思っているの!?」
「ベアトリーチェのクセしてって……ふふっ……ベアトリーチェはあなたではないですか。何を言っているのですか?」
ベアトリーチェはクスリと笑うと、ひらりとギルバートの胸元から抜け出す。
「……っ」
何も言い返すことができないのか、ヴィクトリーチェは顔を真っ赤にしながら頬を膨らました。
「はぁ……話が進まん。ヴィクトリーチェよ。お前は何も知らないようだが、これだけは教えておいてやる。」
「お前の母親は見ず知らずの男の間にお前を身ごもった。それだけならまだしも、実の姉であるベアトリクスを陥れようと何度も男に襲わせたのだ。その度に返り討ちにしていたがな……ベアトリクスが強くなければと思うとゾッとする。」
「お前は悪くないのかもしれん。だが、お前も似たようなことをしているのだぞ。」
「でも……わたくしはベアトリーチェです。」
「もう、そのくらいにしたらどうですか。ヴィクトリーチェ。あなたはヴィクトリーチェ以外の何物でもありません。わたくしにはなれないのです。」
「あぁ、でもあなたには感謝していますよ。あなたのお陰で自由を手に入れることができました。わたくしはディオン第二王子殿下の婚約者などなりたくなかったのです。自由に生きたかった。それを勝手に決めた王族には甚だ腹が立っております。ですから……わたくしは自由を手に入れるために考えました。」
「ディオン第二王子殿下、エリザベート王妃。そして城の中で聞き耳を立てているアレクサンダル国王陛下。」
ベアトリーチェはゆっくりと前へ出た。
その視線は王妃や第二王子だけではない。
お茶会に参加している全ての者へ向けられている。
先ほどまで騒がしかった貴族たちも、誰一人として口を開かない。
皆、本能的に理解しているのだ。
これから語られる言葉が、この国の未来を大きく変えるものであることを……。
ベアトリーチェは一度深く息を吸った。
そして――
城中に声が届くよう張り上げる。
「四大公爵家は今後アルキューネ王に与することを辞めさせていただきます。」
その言葉に場内が大きくざわめいた。
それもそのはずだ。
セイレート公爵家だけならまだしも、公爵家すべてが離反すると言っているのだ。
それだけでアルキューネ国が今後どうなっていくかすぐに理解ができた。
「これは公爵家すべての総意です。今まで王族は王という身分を笠に着て何もしてきませんでした。昨年、水害が起きたこと、その前は土砂崩れが起きたこと……その前は害虫が原因で麦の生産が落ち込んでいました。しかし、あなた方は何も動きませんでしたよね?動いたのは四大公爵と、レヴィール第一王子殿下のみ。」
「あなた方は王族と言うだけのただの木偶の坊です。この国にあなたがたがいなくても回るのですよ。むしろあなた方のせいで、前に進めなかったと言ってもいいでしよう。」
ベアトリーチェはくるりと城の方へ身体を向けると、口を手で覆った。
「アルキューネ王族のみなさーーん!!今まで大変お世話してきました。そろそろあなたがたはご自分たちで何とかした方がいいかと思いますわぁぁぁ~!!」
ベアトリーチェがパチンと指を鳴らすと使用人たちが王族たちを捕まえる。
「ちょっと、はなせ!!」
「離しなさいよ。」
そして、有無を言わさずグラハルトたちが乗ってきた客室へと運び込まれた。
「ふふっ……ごきげんよう。」
ベアトリーチェは綺麗に微笑むと手を振った。
「あっ、ディオン第二王子殿下にはこちらのベアトリーチェをお渡しいたしますわ。きっと夜のお供には役に立つはずです。ふふっ夜のお供には……ですけど……」
力無さげな国王陛下も連れてきて、室内へと押し込む。
全員が乗ったことを確認すると、ドラゴンがその客室を持ち上げた。
バサッバサッ
ドラゴンの翼の風で、ヴィクトリーチェが用意した花が舞い上がる。
中から叫び声が聞こえたが……
全てドラゴンの翼の音で描き消えた。
それから数日後――
ベアトリーチェの元に一通の手紙が届いた。




