ファルクナー名物便が完成しました!
「ふんふんふーん♪いい感じになってきましたわねぇ」
「お嬢様!!それは私達が行います!」
「どうか、そのスコップは私に~!」
「ベアトリーチェお嬢様ぁぁぁああああ!!!」
北の展望台では――
使用人たちの悲鳴が至る所で響き渡っていた。
しかし、当の本人はと言うと、侍女服に三角巾の姿で鼻歌混じりに芝生を敷き詰めている。
「ふふっ。土いじりなんていつぶりかしら。レヴィ達と泥団子作りをしたのが懐かしいわねぇ~」
小さい頃、兄やレヴィールと誰が一番硬い泥団子を作れるか競争したことを思い出す。
(あの時は……転生特典を駆使して頑張ったのよね……)
今思えば全く特典になっていないような気もしなくもないが、子供の頃のベアトリーチェは自分より年上の兄に勝つために必死だった。
「ええ、本当に大変でしたよ。すぐにいなくなってしまうんですからね。」
「あら、そんなこと言って……って……」
ベアトリーチェは聞き覚えのある声に、後ろを振り返った。
そこには――
見覚えのある顔が並んでいた。
「……ミラ!?それに、ヘラにリラまで……な、なんでここに……!?」
「あれだけ騒いでいれば分かります。」
「お嬢様、会いたかったですぅぅぅ~……」
「リラ、うるさい。」
ミラ、リラ、ヘラが続けて話す姿を見て、ベアトリーチェは開いた口が塞がらなかった。
「あなたたち……ヴィクトリーチェの侍女をしていたんじゃないの?」
「えぇ、していましたよ。」
「していましたね……」
三人はお互いの顔を見ると、小さくため息を吐いた。
ミラは眉間に皺を寄せ、ヘラはこめかみを抑えて頭を横に振った。リラに至っては頬をぷくりと膨らませ、見るからに不満そうだ。
「じゃあ、どうしてここに?」
三人はセイレート城の中でも優秀な侍女だ。
特にミラは侍女頭をしているほどである。
そんな三人が居なくなれば、仕事はおろかお茶会の準備など進むわけがなかった。
「「「あの女のことです。どうせ、私たちがいなくても気づいていませんから……」」」
ベアトリーチェが首を傾げると三人の声が重なった。
(何かあったのね……)
「今ごろドレス選びに夢中ですよぉ~。」
「あれが本来の貴族のご令嬢なのですね。私には物足りないわけですわ。」
「普通のご令嬢は土遊びしたり、馬に乗っていなくなったり、素振りをしたりしないんですね。私も騒がしいお嬢様が恋しくなってしまいました。」
その隣ではリネットが「わかります……」とうなずいている。
(こんなに……愛されていたなんて……)
ベアトリーチェは頬を緩めると、ぷいっと視線を逸らした。
「皆……そんなに褒めても何も出ないわよ……」
「「「いえ、褒めてはいませんよ。」」」
「……へ!?」
その場に沈黙が落ちる。
作業していた使用人たちもパタリと動きを止めた。
敷き詰めた芝生だけがそよそよと揺れた。
「さ、さぁ……残りの準備を急ぎましょう!」
ベアトリーチェがその場の空気を変えるようにパンパンッと手を叩くと、ドッと笑いが起きた。
「はははは、さすがはベアトリーチェお嬢様だ。」
「違いねぇ。俺たちはまだ会ったばかりだが、ベアトリーチェお嬢様じゃないと物足りねぇ……」
「そうだな。お嬢様らしさはねぇがなぁ。はははは!!」
「ちょっと……掘り起こさないでよ。」
ベアトリーチェは真っ赤になった顔をパタパタと仰ぐ。
先ほどまでの公爵令嬢らしい話し方はなくなり、年相応の話し方になっている
「だが、俺達にはその方が合ってるさ。」
「そうそう、話し方もな。無理してお嬢様らしくしなくていいぜ。」
「俺たち皆、軍人上がりなんだ。そっちの方が慣れてる。」
厨房でも聞いたような言葉にベアトリーチェはハッとした。
(もしかして……皆持っててくれたのかしら……)
好き勝手やっていたから気づいていなかった。自分ではそんなつもりがなくても、いつの間にか王族らしい振る舞いが染み付いていたようだ。
(あんなに嫌だった振る舞いになれてしまってたなんてね)
ベアトリーチェは視線を落として、ゆっくり息を吐き出した。
そして、すぐに口元を持ち上げる。
「じゃ、遠慮なく行かせてもらうわね。」
「「「おう!!」」」
ベアトリーチェはニヤリと微笑むと、最終仕上げと言わんばかりに指示を出していく。
「大きい網を持ってきて。網に蔓上の花を巻きつけて欲しいの。そうね……」
ベアトリーチェは本城の方を指さした。
「あちら側の空気があまり良くなさそうだから……出来れば明るい気分になる色がいいわ。ピンクとか、黄色とか……白とかね。」
「それから、お茶会用に円卓をいくつか持ってきてちょうだい。この広さなら30人は入れるでしょう。出来れば白か黒がいいわ。それとそこにかけるテーブルクロスと、バラの花を飾りたいの。匂いはあまりきつくないのでお願いね。」
「匂いのキツくないバラですか……。」
ベアトリーチェの言葉に、ヘラが顔をしかめる。
「出来ないとは言わないでよ?やるったらやるんだから!!」
「わかりました……」
「私は行かないといけないところがあるから行くけど、ここはリラに任せて大丈夫よね?」
自分より一回り小さいリラを見下ろすと、リラは「はいはーい」と軽くあしらった。
ベアトリーチェはあとのことを皆に任せて厨房へと足を向けた。
***
「こういう時はつくづく……ドラゴンがいてよかったと思うな。」
ギルバートは自分が使役しているドラゴンに餌を上げながら、皆が来るのを待っていた。
時間があまりないということもあり、ドラゴンに馬車を持たせて空の旅に出ることにしたのだ。
この移動方法であれば陸を走るよりも時間短縮ができ、二時間ほどでセイレート城に行くことができる。
「そうだな……ただ……馬車を持って運ぶなんて本当にできるのか……?」
この案を思い着いたのは他でもないベアトリーチェだった。
ベアトリーチェはファルクナー城を出る前に一通の手紙をギルバートに渡していたのだ。
『わたくしがここを出てからこちらを見てくださいませ。』
『今じゃだめなのか……?』
『はい。必ずわたくしがいないときでお願いいたします。苦情は一切受け付けません。』
ギルバートはベアトリーチェに言われた通り、彼女がファルクナー城を出てから手紙を読んだ。
――――――
ギルバート様
まずドラゴンを集めてください。そしたらドラゴンに馬車を運ばせて欲しいのです。
名付けて空馬車です。
これが出来たらファルクナー家の名物になること間違いなしですわ。
あっ、ケルベリオン帝国にも空馬車を出してくださいませね?
必ず全員連れて来てください。
わかりましたか?全員ですわよ?
一人でも欠けていたら、わたくし悲しくなってしまいますから。
わたくしの主催するお茶会に参加しないなんて絶対許しませんわ。
ベアトリーチェ
――――――
ギルバートは手紙の内容を思い出して、肩を竦めた。
「結婚する前から尻に敷かれてるな……」
ハンスは肩をぽんと叩くとそのままドラゴンにまたがった。
「行くか……」
ギルバートももう一体のドラゴンにまたがるとそのまま空高くへ飛び上がった。
こうして、ハンスはケルベリオン帝国へ、ギルバートはセイレート城に向けて出発したのだった。




