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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
公爵令嬢、お茶会の準備に余念がありません。

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失われた日常。

「なんだ。思ったより元気そうじゃないか、レヴィール。」


アルキューネ城――


レヴィールがディオンに押し付けられた仕事を片付けていると、親友の声が頭上から聞こえた。


(ついに、幻聴まで聞こえてきたか……)


ベアトリーチェが居なくなってからというもの、レヴィールはほとんど執務室から出れない状態が続いていた。


「レヴィール……聞こえてないのか!?」


誰かに肩を揺らされていることに気づいたレヴィールがふと視線をあげると――


「……ア、リオン……?」


「よぉ、久しぶりだな!」


幻聴でも、幻覚でもないアリオンがいた。


「なんで、ここに?ずっと探していたんだぞ!」


ベアトリーチェがここを追い出されてからというもの、セイレート公爵家の誰とも連絡が取れなくなっていた。


国王が呼んだときでさえ、セイレート公爵は顔を出さなかったのだ。


(アイトス公爵がいたから……話は筒抜けだっただろうが……)


「すまない。ちょっと色々あったんだよ。お前も知ってるだろ?」


アリオンはバサッと封筒を机の上に置くと、近くにあったソファに腰を下ろした。


「これは……?」


「あぁ……その。読めばわかる」


見るからに可愛らしい封筒。


封筒にはフクロウの絵が描かれている。


どうみても男の趣味とは言えない。


アリオンは早く読めと言うように手を動かすと、目の前に置かれた紅茶を飲み始めた。


――――――


レヴィール様


お久しぶりでございます。ベアトリーチェ(仮)でございます。


私が王城を出てから幾日が経過いたしました。


きっと今ごろレヴィール様に皺寄せが行っている頃なのではないかと心配しております(笑)


――――――


「何だこの(仮)は……」


アリオンを見ると、クッキーに手を伸ばしている。


「(仮)?あぁ、自分が偽物だからとかなんとか言ってた気がするな。俺も中身は知らないんだ。ただあいつのことだからな、普通の手紙なわけがないだろ?」


ディオンとベアトリーチェが婚約する前、ベアトリーチェは兄たちを通してレヴィールと会うことが多かった。


今は亡きレヴィールの母と、ベアトリクス、フェレシアの母であるアリシアが親友同士だったからだ。


「そうだったな……」


お手紙ごっこと称し、謎解きを何度も送り付けられたことを思い出す。


レヴィールはベアトリーチェの手紙へもう一度視線を落とした。


―――――


近頃、怪しい雲が至る所に現れて雨を降らしているのです。しかもその雨は透明ではなく赤いのだとか……


その雨のせいか、美味しい茶葉が取れなくなっていますの……


本当に困ったものですわ。


そこで、私は考えたのです。


美味しい茶葉の有用性を示すために、美味しいお茶会を開催しようと。


日にちは三日後。


場所はセイレート城にて行う予定です。


そこから見る景色はきっと今までのものと違ってさらに美しいこと間違いなしですわ。


レヴィール様と美味しいお茶が飲めるのを楽しみにしております。


そうそう、美味しいお茶には美味しいお菓子がセットでなくてはなりませんもの。もちろん準備はお任せくださいませ。


それでは、ごきげんよう。


ベアトリーチェ・セイレート


――――――


「おい、このフクロウはなんだ……?」


「あぁ……なんでも……自分のトレードマークとか言ってたぞ?」


「それに……この景色についてもだ。景色よりも紅茶や菓子の方が大事なはずだろ?」


レヴィールはアリオンの隣に腰を下ろすと、彼にも見えるように手紙を机の上に広げた。


「あぁ……確かにな。なにかしら意味があるのかもしれないが……」


アリオンは手紙から視線を逸らすと、手に持っていたクッキーをぱくりと食べた。


「俺がこういうの苦手なの知ってるだろ?」


どうやら「自分でなんとかしてくれ」と言っているようにも聞こえる。


こういう時、アリスターやサイラスがいてくれればいいのだが、今日に限って二人とも居なかった。


「まっ、三日後の茶会に来れば全てわかるだろ?」


アリオンの軽い返しに思わずため息が出そうになる。


「お前……もしかして何か知っているのか?」


「いや、知らないぞ。ただ、ベアトリーチェのことは赤ん坊の頃からよく知っている。」


「……確かにな……」


レヴィールはその言葉を聞いて妙に納得してしまった。


ディオンの婚約者になってからはだいぶ丸くなっていたが……それまでと言えば……


『レヴィー、かくれんぼしましょう。今日は私が鬼よ!!』


『レヴィー、お茶にしましょ。今日のケーキは絶品よ!』


『レヴィー、私あなたとアリオンお兄様の秘密を知ってしまったの……二人のこと応援しているわ。』


『レヴィー、今日から私の文通相手になってちょうだい。アリオンお兄様ったら、私の手紙が読めないって言うのよ?酷いと思わない?』


今思えば毎日が楽しくすぎていたものだ。


(あの頃が懐かしいな……。)


レヴィールは手紙を置くと、紅茶を一口のんだ。


「やっぱり、ベルの入れた紅茶の方が上手いな。」


「だよな……」


久しぶりの穏やかな時間に、レヴィールはホッと息を吐き出した。


***


ガシャーン


アルキューネ城、王妃宮――


ここでは、ベアトリーチェ偽物事件が起きてからというもの、王妃宮ではカップが割れる音と王妃の金切り声が響き渡っていた。


「どういうことよ!?不味すぎるわ!!」


「クッキーはパサパサ、ケーキは甘いだけ。どうしたらこんなことになるのよ!!」


パリーン


「早く片付けなさいよ!私の足に傷がついたらどうするの!もうすぐトーマスが来るのよ!」


王妃の侍女になって五年。


初めのうちはそこまで酷くなかった金切り声も、ここ数年でさらに酷くなっている。


一週間前にベアトリーチェが王城を去ったことも、その原因の一つだろう。


(ずっとドレスや宝石選びに夢中になってくれていればいいのに……)


侍女は小さく息を吐くと、箒を手に取り散らばった破片を片付け始めた。


ベアトリーチェ偽物事件。


侍女たちの間では今のベアトリーチェが偽物であることが周知の事実となっている。


だが、王妃はそれに一切気づいていなかった。


「本当、リーチェがいないだけで使えない使用人ばかりで困るわぁ。せめてトーマスがいてくれれば気持ちも抑えられるんでしょうけど……」


偽物事件以降、エリザベートの近くにいる男の一人だ。


トーマス・ククルス。


ふらりと現れては、エリザベートと甘い時間を過ごし消えていく。見た目は整っているが……


(どこからどう見ても危ない人なのよね……)


それを陛下も見て見ぬふりをして遊び歩いているのだからタチが悪い。


「そろそろ潮時かしら……」


侍女は破片を集めながら小さく呟いた。


その声は破片の音で見事にかき消されたのだった。

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