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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
公爵令嬢、お茶会の準備に余念がありません。

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二通の手紙。

「ん~どこを見てもあまりパッとしないわね……」


庭師に頼んで、色々綺麗にしてもらってはいるものの、なかなかパッとする場所が思い浮かばない。


(何がいけないのかしら……)


本城に比べれば確かに植物の量は少ない。だからといって汚いか……と聞かれればそうでもなく、こざっぱりとして整頓されていると言える。


「お嬢様は何が気になっているのですか?」


庭や室内の至る所をぐるぐると回るベアトリーチェに、とうとう痺れを切らしたリネットが声をかけた。


「ん~それが分かったら苦労しないわ。花があれば華やかに見えると思っていたの。でもきっとそうではないわね……」


ベアトリーチェは離れの二階から窓を覗き込んで本城の方を見た。


(離れと本城の違いか……)


ケルベリオン帝国はアルキューネ国に比べれば質素な生活をしている。


それは民だけでなく、貴族たちもだ。


「本城は華やかよね……でも離れは色があまりないの。シンプルと言ったらいいのかしら。」


「確かに、白で統一されていますよね。まぁ、ファルクナー城も似たような感じですが……」


リネットの言葉に、ベアトリーチェは「確かに……」と呟いた。


窓から爽やかな風が室内へと流れ込む。


その風が妙に心地いい。


(あっ……そうだわ!!)


その時、ベアトリーチェの頭の中に名案が浮かんだ。


「リネット、ここには屋上があったかしら。」


「屋上……ですか?」


「建物の一番上よ。見晴らしのいい場所があるでしょう?」


「はぁ……でしたら……」


リネットは少し考えると、いくつか思い当たるところがあるのか歩き出した。


「あら、心当たりがあるの?」


何も答えないリネットの後をついて行く。


それから数分後、一つの扉の前でリネットが足を止めた。


「ここですね。北の展望台と言われています。」


「そのままね……。」


「その言葉、そっくり旦那様へお伝えください。」


ガチャ


リネットが取っ手を回すと、外から程よい冷たさの風が室内へと入り込んだ。


そして――


目の前には小さくはあるものの、ケルベリオン帝国とファルクナー城が一望できる場所だった。


「見つけたわ……」


「……何も無いところですけど……」


「何も無くなんかないわよ。ここには理想としていたものが全て一望できるもの。」


ベアトリーチェは屋外へ飛び出すと、ぐるりと周りを見た。


コケだらけの地面に、壁や地面の隙間からは雑草が生えている。


そしてカビ臭い……


「まぁ、ここを綺麗に整えるのはちょっと大変そうだけど……そこは……私たちの腕の見せどころよ。」


ベアトリーチェはいつの間に着替えたのか……侍女服に三角巾、そしてほうきを手に持った。


そして息を大きく吸うと、外に向けて声を放った。


「みなさーーーん!!聞こえますか!?会場が決まりましたぁぁ!!至急、暇な人はここに集まってくださぁぁぁい!!」


その声は風に乗って、本城にいる侍女たちにも届いていた。


「今、お嬢様の声がしたような……」


「えっ、でもお嬢様ならドレス選びを……人が変わったようにしているじゃない……」


「幻聴かしら……」


「とりあえず……行ってみる?」


「そうね……。」


本城から少しずつ人が消えていることに、ヴィクトリーチェは気づいてすらいなかった。


***


「グラハルト皇帝!!」


「うるさいぞ……バルドリク。」


ケルベリオン帝国――


グラハルトが執務室で公務をこなしていると、大きな足音が執務室に入ってきた。


「申し訳ございません。ですが……緊急を要する手紙が……」


グラハルトは持っていたペンの動きをピタリと止めると、バルドリクを見た。


「急を要する手紙……?飢饉でも起きているのか……?」


この国は数年に一度大飢饉が起こる。干ばつの影響もあるのだが、一度飢饉が起これば民たちは疲弊し、国が回らなくなってしまうのだ。


(それもこれも……全て皇族の責任か……)


グラハルトは小さく息を吐くと、バルドリクが置いた封筒を手に取った。


「二通……?」


「えぇ……一通は相手がわかるのですが……もう一通は……その……」


そこには――


隣国アルキューネ国の四大公爵を象徴する鷲と人魚の紋章が記されていた。


そして、もう一通には……差出人を示すように、愛らしいフクロウの絵が描かれていた。


「アイトス公爵とセイレート公爵は分かるが……なんだこのフクロウは……」


「さぁ……私も初めて見ましたね。一体なんの意味があるのでしょうか……」


グラハルトとバルドリクは目を合わせてから、フクロウが描かれている封筒へと視線を戻した。


――――――


ケルベリオン帝国


十一代皇帝 グラハルト・ケルベリオン様


――――――


「差出人の名前はなしか……」


グラハルトはフクロウの描かれた封筒を手に取った。


「どうみても公爵家からの手紙の方が緊急性高いと思いますが?」


「ふっ……どうせろくなことは書かれておらん。」


今まで幾度となく争ってきたのだ。手紙を読まなくても書かれている内容はなんとなく想像できた。


グラハルトは封筒を開くと、ふわりと花の香りが広がった。


――――――


十一代皇帝グラハルト様


突然のお手紙お許しくださいませ。


セイレート公爵の娘、ベアトリーチェ・セイレートと申します。


単刀直入にお話させていただきます。


三日後、セイレート公爵家で美味しいお茶会を開催いたします。


ケルベリオン帝国の周りで、近頃良くない噂を耳にいたします。


どこからともなく虫が現れ、ケルベリオン帝国に卵を産み付けていると聞きました。


最近は虫のせいで茶葉の管理も大変なのだとか。


放っておくと、気づかぬうちに大切な畑まで荒らされてしまうそうですわね。


もしよろしければ、その対処法についてもお話できればと思っておりますの。


グラハルト皇帝にとってとても有意義な時間になることは間違いございませんわ。


おひとりでは心配でしょうから、ぜひ側近の皆様もお連れくださいませ。


グラハルト皇帝にお会いできるのを心より楽しみにしております。


ベアトリーチェ・セイレート


――――――


「……。」


グラハルトは手紙を読み終えると、開いている手で目を隠した。


「くっ……くくっ……」


(こいつは面白いな……)


虫が入り込んでいるのは前から知っていた。


だが、なかなか正体が掴めずにいたのだ。


しかもそれだけではない……


「このフクロウ……これはベアトリーチェとやらの紋章でもあるのか……」


「紋章ですか……?」


封筒とおなじ可愛らしい顔をしたフクロウがベアトリーチェの署名の横に付いていた。


「フクロウは知識や商売繁盛にも使うだろう。それに先見の明があるとも聞く……これは楽しみじゃないか……」


「は、はぁ……」


グラハルトはひと通り笑い終えると、バルドリクを見据えた。


「バルドリク……」


「なんでしょうか。」


「三日後、予定を開けろ。いや、三日後では間に合わんな。これからの予定は全てキャンセルだ。」


「はぁ?そ、そんなこと急に言われても困ります。これから予定が詰まっているんですよ!?」


「ふん、そんなのは後でいい。今の予定よりもこっちの予定の方が大切だ。それにどんな相手が送ってきたのか興味がある。」


グラハルトはニィっと口元を釣り上げた。


そして、バルドリクに側近たちを集めるように言うと、自室へと戻った。


「くくっ。大蛇が出るか……それともただの蛇か……いや、フクロウか……面白くなりそうだ。」


その頃、ベアトリーチェは――


「ん~!いい空気ね……さっ、ここに芝生を引きましょう~!」


侍女服に身を包み、北の展望台に芝生を引き詰める作業をしていた。

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