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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
公爵令嬢、お茶会の準備に余念がありません。

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ファルクナー城はいつの間にかベアトリーチェ色に染まっています。

「ふふん、ふふーん♪」


家族会議を開催した翌日――


ベアトリーチェは書類仕事を全てギルバートに任せて厨房に籠っていた。


「ベル嬢、今日はご機嫌ですね。」


料理長のマークを始め、ベアトリーチェの本来の姿を知っている人たちはいつからか砕けた話し方をするようになっている。


「ふふっ、ここに来ると落ち着くのよね。私の居場所って感じがするのよ。」


いつものように侍女服に身を包む姿は、四大公爵家の公爵令嬢にも王族の元婚約者にも見えない。


「そうですか。それで今日は何をするんです?」


マークは野菜の入ったカゴを調理台の上に置くとベアトリーチェに向き直った。


ベアトリーチェの視線はマークではなく、手元にある野菜を見ている。


「ん~……そうね……今日は、グラタンでも作ってみましょうか!あっ、ラザニアでもいいかも……」


「ぐらたんに、らざーにあ?」


ベアトリーチェはカゴの中から玉ねぎとほうれん草、そしてきのこ類など使えそうなものを取り出していく。


「そう!!パンとは違うんだけどね、これがまた美味しいのよ。」


ベアトリーチェがここに来てから、食事の質だけじゃない、生活の質そのものが変わっていた。


初めの頃は戸惑っていた皆も、いつしか普通に受け入れるようになっている。


「それは楽しみですね。俺も作るのを手伝いましょう!」


「ふふっ。そう言ってくれて嬉しいわ!!それと、マーク……あなたたちに一つお願いがあって……」


「お願い……ですか?」


マークは籠から野菜を取り出す手を止めて、ベアトリーチェを見た。


「そう……私と一緒にセイレート城に来て欲しいのよ。出発は明日よ!!」


(明日……!?)


いや、まだ行くと言ったわけではないのだが……ベアトリーチェの中では既に行くことになっているようだ……


「……えっ、明日ですか……?」


マークは何とか言葉を絞り出すと、ベアトリーチェは微笑んでからこくりとうなずいた。


「そう!明日よ?セイレート城に行ったら私の手足となって働いて欲しいの!」


言っていることとテンションの違いに驚いたマークだったが、それ以上考えるのやめた。


「は、はぁ……。」


「内容は着いてから話すわ。さっ、その前にグラタンとラザニアを作りましょ。」


ベアトリーチェは食材を手に持つと、鼻歌を歌いながら、下処理を始めた。


***


「おい、おまえの妹……どうにかならないのか。」


「あれを?いや……無理だろ。お前も見ただろ?」


ベアトリーチェが厨房でグラタン作りに没頭する頃――


ギルバートを始めとしたこれからの未来を背負って立つ若者たちが集まっていた。


中央にはベアトリーチェが用意したであろう資料がたんまりと置かれている。


「そもそも……これ、いつ準備したんだ?」


ギルバートが一枚一枚めくっていくと、そこには様々なことが書かれていた。


土壌改良に始まり、農作物の品種改良、住民たちの納税について。


ここまではいい。


「この、さんきんこうたいとはなんなんだ?それに……ほけん、じょうげすい。意味がわからん……」


読みやすくまとめられているはずの資料だが、初めて見る言葉が多く、解読するのに時間がかかる。


ギルバートはそれに頭を悩ませていた。


「ん~……ベルのことだから何かしら意味があって言っているのだと思うけど……この辺りは無理して理解しなくていいんじゃないかな。」


アリスターはギルバートが持っていた資料を覗き込むと、紙をピンッと叩いた。


「そんなんでいいのか……?」


「むしろそのくらいでいいんだよ。ねっ?」


「そうだな」


アリオンやレオリオに声が重なった。


「ギル。俺もあいつとは長い付き合いだが……未だにあいつのことはわからん。従兄弟の俺が分からないんだぞ?まだ出会ったばかりのお前が分かったらすごいくらいだ。」


「そうだな。俺もあいつと兄妹になって長いが……わからん事の方が多い。いつも呪文を言っているしな。まぁ、それでも可愛い妹に変わりないが……」


二人の手がギルバートの方に置かれる。


その行動に、三人が今までどれだけベアトリーチェに振り回されてきたのかがわかった気がした。


「いいか?うちの女連中はみんな強いんだ……あっ……口が強いとかじゃないぞ?もちろん口も強いんだが……」


「「「手が早い……」」」


三人の声が重なる。


「手が……早い?」


ギルバートは首を傾げた。


今までベアトリーチェに短気なイメージはなかった……手を出すと言うよりは……一人で色々走り回っているイメージだ。


「ギルはまだ見たことがないのか……それだったら……」


「「「今は知らない方がいいな……」」」


今度は三人の声がピッタリ重なった。


(息ぴったりだな……)


「取り敢えず、俺たちはケルベリオン帝国の皇帝に向けて招待状を書くか……見てくれればいいんだが……。」


「本当にやるのか……?」


アリオンはやる気が起きないのか……椅子の後ろ足に体重をかけてゆらゆらと揺れている。


「やるしかないだろ?やらないとあとが怖い。」


(あとが怖いって……そんなにか……?)


レオリオも顔を顰めながら仕方なさそうに筆を持っている。


「アリオンもレオリオも諦めなよ。それよりも……皇帝にそのまま書くよりは……宰相辺りに書いた方がいいかもしれないな。」


アリスターは二人をサラリと流すと、話を元に戻した。


「宰相と言えば……オルトリオン公爵か……確かにカリュドネス公爵よりは話が通じそうだな。」


ケルベリオン帝国にはアルキューネ国同様、三大公爵家が存在する。


統制のオルトリオン、軍事のカリュドリオン、そして諜報活動を得意とするキマエリオン。


「探せばキマエリオン公爵家のものも紛れ込んでいそうだが……ここは表から堂々と招待状を送るのが正しいだろうな。」


アリオンは深く腰をかけると、ギルバートを見据えた。


その目はいつになく真剣だ。


「ギルバート。ここはお前が書けよ。お前が一番被害を受けてきたんだ。そしてあいつの……ベルの婚約者となった。これからあいつを制御するのはお前だぞ。」


丸投げのようにも聞こえる一言。


だが、ケルベリオン帝国の隣に位置し、三年に一度攻めいられていたことを考えれば至極当然の言葉だった。


(制御……ってところは賛成できんが……)


ギルバートは「わかった」と小さく呟いてから招待状を書き始めた。


そして翌日――


ベアトリーチェは料理人たちを連れて、一足先にセイレート城の離れへと向かった。


「何も無ければいいが……」


「……心配か?まっ、ベルのことだ。大丈夫だろ。それに、離れと本城は距離がある。ヴィクトリーチェはあいつが帰ってきたことに気づくことすらないさ。」


アリオンとギルバートの声はベアトリーチェに届くことなく空へと消えた。

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