ビジネスについて話し合うその裏で、色々な思惑が絡まっているようです。
「さて、ここからはビジネスの話をいたしましょう。」
皆のお腹が膨れた頃――
パンパン
手を叩く音が響いた。
その音に、その場にいた全員が振り返る。
その顔は先ほどまで笑いあってたとは思えないほど真剣な顔をしていた。
「ふふっ、どうやらわたくしが何を言うかわかっているようですわね。」
ただ、この場にいたギルバートだけが、ベアトリーチェの行動に着いていけずに首を傾げている。
(ギルバート様は何もわかっていないようだけど仕方ないわよね……)
ベアトリーチェはギルバートをチラリと見るが、声をかけることなく他の面々に視線を戻した。
「それで……今回は何をするつもりだ……?」
「ついに、王族を一網打尽か……!?」
「いや、あのバカな妹を抹殺するのもありかもしれないぞ。」
ルイスに始まり、フェレシアの兄で従兄弟のレオリオ、レオポルドと話を続けた。
「そうね……ヴィクトリーチェもそうだけど……ヴィクトリアをなんとかしないと……また面倒なことになりかねないわ。」
ヴィクトリーチェの母であり、ベアトリクス、レオポルドの妹でもあるヴィクトリア。
そんな妹のことを思い出し、母と伯父はため息を吐いた。
(面倒なことが気になるけど……今は気にしないでおきましょう……)
「皆さんが何をしたいのかよく分かりました。皆さんの望み……わたくしの今回の作戦で叶えることができるかもしれませんわ!!」
ベアトリーチェは人差し指を頬に当て、ニヤリと笑った。
***
「ベアトリーチェは見つかったか……!?」
アルキューネ城――
お茶会の開催が決まったあと、レヴィールは慌ただしく王城で動き回っていた。
ディオンは仕事をすることなく、ヴィクトリーチェの元へ行き帰ってこず、父は何に怖がっているのか……書斎から出てこようとしない。
「全く……何を考えているんだ……」
レヴィールがポツリと呟くと、それに答えるようにルカとサイラスが執務室に入ってきた。
「ベアトリーチェ嬢は見つからなかったけど……国王が何を考えているかわかったよ。」
「私も……王妃様が何をしているか分かりました。」
二人は近くにあったソファに腰を下ろすと、書類を机の上に広げる。
「話せ。」
レヴィールの短い呟きに二人はこくりとうなずいた。
「まず、ベアトリーチェ嬢について説明しようか。ベアトリーチェ嬢がどこにいるか、どう頑張っても見つけることができなかった。さすがセイレート公爵だよ。ただ……ヴィクトリーチェがセイレート公爵家で宝石やドレスを買い漁っているという話は耳に入ったよ。」
相手はこの国の中でも最高の情報操作、諜報活動に長けている一族だ。
そう簡単に情報戦で勝てるわけがない。
「なんとなくわかっていた。それで?父上……いや、国王は何を考えている。」
「国王は……ベアトリーチェ嬢を呼び戻そうとしているみたいだよ。そして、戻したら王族と結婚させる気のようだ。そのために裏で色々動いているらしい……ベアトリーチェ嬢が王城に戻ってこれるようにね……」
(王族……ということはディオンではない他の兄弟たちか……)
レヴィールには、兄妹がディオンの他に五人いた。
しかし、母親は誰一人として一緒ではない。
それは……アレクサンダルがどれだけ女だらしないかを表している他ならない。
「なるほど……国王は何としてでもベアトリーチェ嬢が欲しいということか……というよりも……セイレート公爵家とアイトス公爵家の血を継ぐ者が欲しいと言った方が正しいか。」
「そうだろうね。最近は王族に対して不審に思っている貴族たちは多い。だからこそ、四大公爵家の血縁の中で一番上とも言えるベアトリーチェ嬢が欲しいんだと思うよ。それで……サイラスは何がわかったの?」
ルカがサイラスに話しかけると、バトンタッチとでも言うようにサイラスが立ち上がった。
「王妃は……未だにヴィクトリーチェをベアトリーチェと思っているようですね。」
「それは……知っている。」
王妃は自分を好いてくれる人にしか興味がない。
以前の、ベアトリーチェであればディオンの婚約者として仕方なく王妃と付き合っていただけだった。
好きな物も合わない。
王妃が好きなものはドレスや宝石などの高価なもの、自分を好いてくれる男。
方やベアトリーチェは、ドレスや宝石に興味すらない。そんなものに時間を使うなら公務をこなす。
そんな女性だった。
合うとすれば……ベアトリーチェが開催するお茶会くらいなものだ。
(ベアトリーチェもそれを知っていて、近づこうとしなかったしな。)
「最近、一人の男が王妃に近づいているようです。それが面白いことに……最近成り上がったククルス伯爵なんですよね。」
「ククルス伯爵か……」
ククルス伯爵はヴィクトリーチェの実の父親だ。最近爵位を叙爵され子爵から伯爵となった。
「えぇ。その伯爵が……裏で他国と繋がっているようですよ……その中に、隣国ケルベリオンも入っているのだとか……」
「……そうか。自分の娘が、ベアトリーチェとして好き勝手していることには……?」
「気づいてはいるようですね。というよりも、けしかけたのはあの男と、母親のようですよ。」
レヴィールは書類を手に持つと、そのまま目を通した。
そこには、ククルス伯爵とヴィクトリーチェに血縁関係がないことが書かれていた。
「ヴィクトリーチェと、ククルス伯爵には血縁がありません。恐らく、母親は別の男の子供を身ごもった状態で、ククルス伯爵と結婚したのでしょう。」
(思ったより、絡み合ってるな……)
レヴィールは眉間の皺をグイグイ伸ばすと、深く息を吐く。
「続けてくれ。」
「ククルス伯爵はそれを知った状態でヴィクトリーチェを自分の娘として認知した。もちろんその母親ヴィクトリアもだ。あの夫婦に愛はない。ただ、お互いを利用しあっている。いわば利害の一致と思った方がいいだろう。」
「なるほど……あの二人にとって、ヴィクトリーチェもただの駒でしかない……そういうことだな。」
サイラスは小さくうなずくと、もう一度腰を下ろした。
「はぁ……これは……複雑だな。ルカ、お前は引き続き、国王が何をしようとしているか調べてくれ。それと……誰をベアトリーチェ嬢の婚約者にしようとしているかもな。」
「わかった。」
「サイラスは、ククルス伯爵家が何を企んでいるのか調べて欲しい。あの王妃は……そこまで頭が回らん。自分を好いてくれる男がいればそれだけでいいんだ。だから放っておいて構わん。」
「かしこまりました。」
「二人とも、頼んだぞ……」
レヴィールが話を切り上げたのがわかると、ルカとサイラスは立ち上がって執務室をあとにした。
(一応……アイツにも連絡を取ってみるか……)
レヴィールは二人が居なくなったことを確認すると、一枚の便箋と封筒を取り出した。
そして一度深呼吸をしてから手紙を書き出した。




