家族全員集合しましたが、婚約話よりも腹ごしらえの方が大切です。
(すごい迫力だな……)
お茶会から二日後――
ファルクナー城には、アイトス公爵家とセイレート公爵家が集まっていた。
(二十人くらいか……)
アイトス公爵夫妻に次期公爵家、それにセイレート公爵家の面々まで集まっていた。
セイレート公爵家に至っては祖父母まで来ている。
始めは、アイトス公爵家に行った方が早いのではと思ったが、ベアトリーチェがここでもてなしたいと言うため、ギルバートは諦めたのだ。
「もう、尻に敷かれてるな……」
隣に立っていたアリオンがコソッと耳打ちする。
「別に尻に敷かれていない。ただ……」
あいつを止めるのが面倒だと思っただけ……
そう話を続けようとした瞬間――
ベアトリーチェが応接室に入ってきた。
後ろにはたくさんの侍女。
そしてガラガラとティートロリーが続いている。
「皆さん、急に呼び出してしまって申し訳ございません。硬いお話をする前にもし良ければこちらをお食べ下さい。」
そこにはコッペパンから始まり、今まで食べたことのある料理やお菓子が続々と準備されていく。
「左から順に……卵、コロッケ、ハンバーグ、チーズ、ウインナー、唐揚げ、チキンカツ、豚カツ、野菜類……そしてフルーツに生クリームと並んでおります。」
「パンは二種類。コッペパンとバンズを用意させていただきました。」
(また……知らない言葉が出てきたぞ……)
ギルバートは目の前で動き回るベアトリーチェを見つめた。他の面々は慣れているのか、驚くこともなくベアトリーチェの動きを見ている。
「まず食べたいパンを選んでください。そしたら、好きな具材を頼んでくださいませ。」
ベアトリーチェはコロッケと書かれた紙の前で止まると、その前にいる料理人にパンを渡した。
料理人はパンの中にキャベツと楕円形の形をした黄金色の食べ物を挟んでいく。
そして、以前ピクニックで食べたソースをたらりとかけた。
その瞬間――
ぐぅ~~っと、腹の虫がそこかしこから鳴り響いた。
そんな様子を見たベアトリーチェはクスッと笑うと、出来上がったコッペパンサンドイッチを手に持った。
「お腹の虫が合唱しているようですので手短に……このように食べたい具材の前で止まっていただければ料理人たちが作りたての食事を用意してくださいます。これとは別に、スープもいくつか準備しておりますので、お好きなものを食べてくださいませ。」
その言葉と共に、皆がそれぞれ動き出した。
「うまいな……やはりベアトリーチェの考えるものは想像の上を行っている。」
「そうですね。一度食べたらやめることが出来ません。いつもお茶会やご飯会が楽しみでなりませんよ。」
「本当、ギルバート様が羨ましいですよね。ベアトリーチェが一家に一台あったらよろしいのに……」
全員がギルバートを見た。
(圧が……)
しかし、その言葉はベアトリーチェの一言で終わりを告げた。
「ふふっ……わたくしは物ではありませんよ。それに、ギルバート様と婚約もまだ正式ではございませんし……わたくしはギルバート様の真実の愛を守ると約束しているのです。」
「真実の愛……?」
ギルバートはベアトリーチェの言葉に頬を赤く染める。
(あいつ……そんなに俺の事を思っていたのか……)
「なんて健気な……そんなに愛してるのか。アリステア、早く二人を婚約させてやれ!!」
ルイスを少し若くした男がアリステアに近づくと肩をバシバシと叩いた。
「いたっ……おいやめてくれレオポルト……お前の力は強すぎる……わかったから……」
アリステアは食べていたサンドイッチを落としそうになりながらも何とか死守し、ギルバートに近づいた。
「すまん……色々あって先延ばしにしてしまったな……」
「構いません。」
「それで……二人は愛し合っているというのは本当か?」
アリステアが尋ねるとギルバートは視線をキョロキョロと動かした
(ここは……愛し合っていると言った方がいいのか……)
なんて返すのが正解か……
そう思っていると、ベアトリーチェが口を開いた。
「お父様。そんなこと聞くなんて野暮ですわ。わたくしは知っていますの。ギルバート様とハンスが愛し合っていると……ですから、私は二人の愛を守るために、ここに嫁ぐと決めたのです。あっ、安心してくださいませ。ギルバート様が女性でも良いということでしたら、子供はギルバート様にお願いして、協力して頂きます。」
「「「「……」」」」
ベアトリーチェの言葉にその場にいた全員が固まった。
「……は?」
これまでずっとベアトリーチェが何かを勘違しているのではないかと思っていたが、敢えて気にしないようにしてきた。
ギルバートとハンスを見て目を輝かし、頬を染めるベアトリーチェ。
ピクニックもなぜかハンスと行くようにと声をかけてくる始末……
それ以外にも多々あった違和感が、ここに来て本物に変わる。
「ベル……お前……本当にそんなことを思っていたのか?」
ベアトリーチェはきょとんとした顔で、こちらを見た。
「そんなことって……それ以外に何がありますの?」
ベアトリーチェの返しに、「クスッ」と誰かが笑った。
「ふふっ、さすがベルね。本当、期待を裏切らないわ!!」
「えっ!?フェレシアまで……なんてこと言うのよ……」
いつもの敬語が外れ、年相応の話し方にもどる。
(確か……ベルの従姉妹だったか……)
「そのままの意味よ。どこからどう見てもギルバート様は
あなたを意識しているわよ?」
「えっ……!?」
ベアトリーチェがこちらへ振り返った。
「いや、珍獣として観察しているだけだ。それ以外の感情はない……」
「そうですわよね?知っております。だってハンスが……」
ベアトリーチェがまた勘違いを言おうとした瞬間、ギルバートはそれに被せるように声を発した。
「いや、それはない。絶対に……」
「えっ……そ、うなんですの……?」
ベアトリーチェのあまりの落ち込みっぷりに、誰もが息を呑んだ。
「そんなに落ち込むことか……」
「いや、普通だったら白い目で見られてもおかしくないぞ……」
「でも戦に出てると多いしな……」
確かに、戦に出ていると気の高ぶりから、男に走るものも多い。女が少ないから余計だろう。
しかし、大抵の女はそれを知ると毛嫌いする。
だが、ベアトリーチェは毛嫌いどころかむしろ逆の意味で落ち込んでいた。
「おい……俺はお前と結婚したいと思っているぞ……まだ好きかどうかはわからん……だが、お前といると毎日飽きなくて楽しいと思っている。」
「そんなの嬉しくありません……。」
ベアトリーチェは頬を膨らましてプイッと顔を背けた。
「……はっ?」
「わたくしは二人の愛を間近で見られることを楽しみにしていただけです。」
「そ、そうか……すまない。」
「ですが……この地は気に入りました。隣国もすぐ近く。アイトス公爵領やセイレート公爵領にも近い。わたくしがこれからやりたいことにピッタリの場所です。」
(何をしようとしているんだ……)
ベアトリーチェはギルバートをもう一度見ると微笑んだ。
「愛については分かりません。ギルバート様もそうでしょう?」
「ですが、愛にとらわれる必要はございませんよね。愛にもそれぞれ形がありますし、わたくしたちにはわたくしたちの形がある気がします。ですので、これからよろしくお願いいたしますわ。」
「あ、あぁ……こちらこそよろしく頼む。」
ギルバートはあれよあれよと決まっていく婚約に何も言うことはできず、手に持っているコロッケサンドにかぶりついた。
「うまいな……」
「でしょう?この地のじゃがいもで作っておりますの。」
二人の言葉を聞いて、周りはほっと息を吐いた。




