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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
公爵令嬢、推し活を楽しむ予定が、なぜか違う方向に進んでいます。

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ピクニックの先は……まさかの場所でした。

馬に乗り始めて三十分――


ベアトリーチェの目の前には、城と同じ灰色の石で築かれた巨大な壁がそびえ立っていた。


城とも違う。


飾り気のない無骨な建造物。


そして、その上には巨大なバリスタが数台据え付けられている。


「えっと……ここは……?」


「砦だ。」


「いや、それは見れば分かります!なんでここなのか、聞いているんです!」


ピクニックと言えば、綺麗な湖や、丘の上、草原などを想像するはずだが――


目の前には草原はおろか、山ひとつ無い。


「いや……お前が言っていたピクニックに向きそうな場所を案内しているつもりなんだが……違ったか?」


「違うも何も……ここには綺麗な花も、湖も……木すらないでは無いですか。」


ベアトリーチェは周囲を見渡してからバリスタへ目を向けた。


(何か……勘違いしているようね。)


「そもそも、ハンスがこんな所に来て喜ぶと思ったのですか?」


「あいつなら喜ぶはずだが……」


「なぜです?」


「最近バリスタを新調したんだ。それに、ここは俺たちの小さい頃からの遊び場でもある。」


確かに遊び慣れた場所であればくつろぐことはできるだろう。


だが――


「ときめきも何もないじゃない!!」


ベアトリーチェの声が砦内に響いた。


周囲にいた軍人たちが「何事だ!?」と集まってくる。


「と、ときめき!?」


「そもそも……ギルバート様は勘違いしておりますわ。もしかして今までのご令嬢もこのようなところに連れてきたわけではありませんよね?」


ベアトリーチェはギルバートの襟を持ち、グイッと顔を近づける。


周りからは「おぉ~」という声が聞こえたが、ベアトリーチェにとって今はそれどころではなかった。


「ち、近いぞ……」


「確かに子供の頃でしたら、楽しむことができそうですけれど……年齢を考えてくださいませ。」


広い砦。


子供の頃であればかくれんぼや冒険など退屈せずに済むはずだ。


(私も小さい頃はおじい様に会いに砦へよく通っていたし、気持ちはわからなくもないわ。)


「ハンスだって、たまには綺麗なところでギルバート様と二人きりでゆっくりお茶をしたいはずですわ!!」


「な、なぜ……そうなる。そもそもなんでハンスの名前が出てくるんだ?」


ギルバートの問いに、ベアトリーチェは目を瞬いた。


「えっ!?だって……今日は下見に来たのですよね?ハンスとのデートのための……」


「ハンスとデート……そういうことか……」


ギルバートはボソリと呟くと額に手を当ててため息を吐いた。


「そういうことってどういうことです?それよりも、わたくしの話聞いていらっしゃいますか?」


「聞いてる、聞いてる。」


「あ~その言い方!!わたくしの話聞いてませんでしたね!?」


ベアトリーチェはギルバートの体をゆさゆさと揺らした。


***


「落ち着いたか?」


ベアトリーチェに散々揺さぶられた後――


彼女がようやく落ち着くと、ギルバートはベアトリーチェの腕を手に取った。


「行くぞ……」


「えっ、ちょっ……」


ギルバートは近くにあった階段を上る。


「綺麗な湖や丘はまた今度だ。今日はここで勘弁してくれ。」


そして、最上階まで上りきると、重たい扉を開いた。


扉の隙間から太陽の光と穏やかな風が入り込んでくる。


「眩しい……」


ベアトリーチェは一瞬目を閉じてからゆっくり開いた。


「どうだ……すごいだろ。」


ギルバートは手を広げて領地を見渡した。


ファルクナーの砦の中でいちばん高い塔だ。


見晴らしもよく、ファルクナー領を一望することができる。


黄金色の麦畑。


麦畑の向こうでは、じゃがいもの白い花が風に揺れていた。


この辺りだけは平地だが、砦の中には山や川がある。


ここはファルクナー領全てを一望できる唯一の場所だ。


(ふっ……これを見たらこいつでも言葉が出ないだろう)


ギルバートは黙っているベアトリーチェへと視線を向けた。


「えっと……わたくしにはバリスタしか見えません。」


「はっ?」


「バリスタがすごいということでしたら……確かにすごいと思いますけど……最新のものと今までのものの何が変わったのかまでは、判断ができないですわね。」


ベアトリーチェは頬に手をあてると困り顔で微笑んだ。


どうやらベアトリーチェの身長では塀の外が見えなかったらしい。


もう少し情緒あふれる返答を期待していたのだが……


(こいつにそんなの求めても無駄か……)


ギルバートは目の前の珍獣をみて肩を落とした。


「いくらワンピースを着てめかしこんでいても……所詮珍獣は珍獣だな……」


「はっ?喧嘩を売っていますの?でしたら言い値で買わせていただきますけど?」


ベアトリーチェは胸の前で腕を組むと、フンッと鼻を鳴らす。


「そもそも、ピクニックの意味を間違えたのはギルバート様ではございませんか。まさか、バリスタを見てランチになるとは思っていませんでしたわ。」


「ランチ……?」


「ええ、お昼ご飯をランチというのです。お洒落でしょう?って……あなたにお洒落なんて分かりませんわよね?バリスタをみながら食事なんて初めてですわ。」


ベアトリーチェはブツブツと文句を言いながら、手に持っていた籠の蓋を開けた。


ふわりとサンドイッチの香りが鼻腔をくすぐる。


「いいですか?今回はよろしいですけど、ハンスと来る時はもっといい所を探してくださいませ。わたくしは二人が仲睦まじく寄り添ってる姿がみたいのです。」


「寄り添ってる姿……なんであいつと寄り添わなくてはならん。」


「えっ?そんなの……あぁ、おふたりは隠しておきたい派なのですね。でしたらこれ以上、何も言いませんわ。それよりも、お腹が空いたので……こちら食べませんか?」


(隠しておきたいことって、何もないんだが……)


ギルバートはベアトリーチェの言葉に首をかしげたが、それよりも目の前にあるお弁当に視線が釘付けだった。


ゴクリ


唾を飲み込む音がやけに大きく感じる。


「ふふっ……美味しそうだと思いませんか?」


「あ、あぁ……」


「もし、食べたいのでしたら……次回はお二人のお出かけに侍女として連れてってくださいませ。」


(侍女じゃなくても連れてくが……)


ギルバートが籠の中に手を入れようとした瞬間、ひゅっと目の前から籠が消える。


どうやら珍獣が籠を動かしたらしい。


「わ、わかった。」


「本当ですわね?」


「あぁ、どこにでも連れてってやる。ただし危険がある時は置いていくぞ?わかったな?」


一応相手は公爵令嬢。戦いもできない結婚前の令嬢を、戦に連れていくことはできない。


「あぁ、それでしたら問題ございませんわ。」


「問題ない?」


ギルバートはベアトリーチェの言葉に目を細めた。


「えぇ、わたくしこう見えて戦えますの。意外に強いんですのよ。」


どうやら危険な場所でも付いてくるつもりらしい。


ギルバートは言葉を失った。


しかし――


ベアトリーチェはそんなギルバートに興味が無いのか……


籠からパンを取り出すと、ギルバートに押し付けた。


「取引成立ですわね?」


(取引したつもりはないが……)


美味しそうな匂いのする食べ物を見てギルバートはパンへと手を伸ばした。


「これを取ったら契約成立ですので。」


ニコリと微笑むベアトリーチェ。


しかし、その香りの前では抵抗などできなかった。

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