推し活を楽しみにしていたはずなのに、リネットに引きずられています。
「ギルバート様、お待たせいたしました。」
「来たか……」
ベアトリーチェが厨房から出てエントランスに向かうと、ギルバートとハンスが待っていた。
「……って、お前その服装で行く気か……?」
(その服装……?)
ベアトリーチェは近くにある鏡に視線を向けた。
そこには侍女服に身を包む自分が映っている。
(結構気に入っているんだけど。)
「……何かおかしいでしょうか?」
ベアトリーチェは、ギルバートに視線を戻すと首をかしげた。
「何かって……お前も一緒に行くはずだろ?」
「えっ!?そ、そんなつもりは……」
(もしかしてバレた!?)
ベアトリーチェはあくまでも隠れてこっそり二人の後を付いて行くだけの予定だったのだ。
「お、お二人のことは決して邪魔いたしませんのでご安心くださいませ!」
ニコリと微笑むとギルバートは、ベアトリーチェの後ろに控えていたリネットを呼んだ。
そして、ベアトリーチェの首根っこを掴むとグイッとリネットへ押し付ける。
「ギルバート様……わたくしにそのような趣味はないのですが……」
リネットは眉間に皺を寄せてギルバートを睨んだ。
「何を言っているかわからんが……こいつを着替えさせてくれ。」
(なんで……睨み合ってるのよ)
確かに二人ともよく似た性格をしているが……リネットがそこまで敵意むき出しになるのが珍しい。
リネットは誰にも聞こえないように舌打ちすると、ベアトリーチェを受け取った。
「承知しました。」
「えっと……わたくし人形ではないのですが……?」
「そんなことわかっております。さっ、着替えに戻りますよ。」
リネットは首根っこを掴んだままズルズルベアトリーチェを引きずる。
「リネット!?なぜわたくしが着替えなければならないのですか?わたくしはただ影からお二人のことをそっと覗いていられればいいのです。」
リネットのこめかみに青筋が浮かんだ。
「……」
「ちょっと!リネット聞こえてないの!?」
「聞こえておりますよ……」
「じゃあ、離してよぉ……」
「そうはまいりません。ギルバート様からのご命令ですから。」
リネットは首根っこを掴んだまま、ベアトリーチェをズルズルと引きずった。
「着替えに戻りますよ。」
「むぐっ……ん~~っ……」
リネットは騒ぐベアトリーチェの口を塞ぐと、有無を言わさず部屋まで運んだ。
***
「ディオン。お前のベアトリーチェを連れてこい。」
アルキューネ王城――
時は少し遡る。
ルイスが謁見の間を去った後、アレクサンダルはディオンとヴィクトリーチェを執務室に呼び出していた。
「父上、ベアトリーチェは一人しかいません。」
「そうだろうな……」
「はい、ここにいるベアトリーチェが間違いなく本物です。」
「そうか……」
アレクサンダルは目の前にいるディオンとヴィクトリーチェを見て深く息を吐いた。
アレクサンダルには大きな後悔があった。
それは、ディオンの母親エリザベートを側妃として召し上げたことだ。
(こいつも……同じ未来を行こうとしているのか……いや、私の時よりも酷いか……)
「お前たちに命じる。二週間後に行われる茶会で、本物のベアトリーチェであることを皆に知らしめよ。そしたら私も……認めてやる。」
その言葉を聞いて、ディオンは目を輝かせた。
「本当ですか!?では……私が王太子になれるのですね!?」
「なぜそうなる。」
アレクサンダルは、こめかみに手を置くとグリグリと揉んだ。
しかし、ディオンはその言葉が届いていないのか……ヴィクトリーチェと抱き合いながら喜んでいる。
「やった、やったわねディー。これであなたが王太子。次期国王ね。」
「当然だ。私以外に王の器などいないんだ。これであいつも、自分がどれだけ愚かだったかわかっただろう。」
ディオンは拳に力を込めた。
「フッ……私に逆らった罰だ。レヴィールだけは絶対許さん。あと、あの女もだ。」
「と言っても、ベアトリーチェに成り代わっていた女は今頃どこかで惨めに暮らしているだろうがな!ハハハハハ!!」
あまりに愚かな息子を見て、アレクサンダルは額に手を置くと首を横に振る。
(育て方を間違えたか……)
今まではベアトリーチェがいたからなんとか回っていた公務も、今ではほとんど手が付かず、レヴィールが肩代わりしているくらいだ。
「今からレヴィールの歪んだ顔を見るのが楽しみでならんな……」
「はぁ……ディオンよ。まずは二週間後の茶会を成功させよ。場所はアルキューネ城ではなくセイレート城で行なう。ベアトリーチェもその方が落ち着いて開催することができるであろう。」
「えっと……お義父様……お茶会はわたくしが行うのですか……?」
ヴィクトリーチェはきょとんとした顔で、アレクサンダルを見る。
「お前に父と呼んでいいと言った覚えはない。お前をベアトリーチェと証明するための茶会だ。お前が行わずして誰が行う。わざわざお前の家で行うのだ。使い勝手もよくわかっているだろう。」
アレクサンダルは眉間に皺を寄せながら、机の上を同じリズムでコツコツと叩いた。
「……は、はぁ。」
「それともなんだ?出来ないとでもいうのか?」
アレクサンダルは動きをピタリと止めると、ヴィクトリーチェを見据えた。
刹那――
「父上!父上でもベアトリーチェを侮辱するというのでしたら許しません。」
ディオンがヴィクトリーチェとアレクサンダルの間に割って入った。
(話が通じんな……)
「とにかくだ。まずは茶会を成功させよ。その間、ベアトリーチェはセイレート城に戻って構わん。あまり時間もなし。準備を優先するように。王太子の話については、茶会が終わってからだ。わかったな?」
「父上!まだ話は……」
「そうです!お義父様……」
アレクサンダルが虫を払うように手を動かすと、近くに控えていた側近たちが二人を外へと連れ出した。
二人はまだ言い足りなさそうな感じだったが、アレクサンダルにはそれを気にするだけの余裕はなかった。
山積みになっている書類に目を落とし、アレクサンダルは深く息を吐いた。




