ついに特製サンドイッチ弁当完成です!
「ふぅ~やっと完成ね!」
ベアトリーチェは三角巾を取ると近くの窓へ近づいた。
お弁当作りを始めた時は、太陽が昇っていなかったはずだが、いつの間にか月は消え、太陽が顔を出している。
「今日はいい天気になりそうね。ピクニック日和だわ!」
ベアトリーチェは大きく伸びをすると、振り返った。
その先には朝早くから準備を手伝ってくれた料理人たちが、数々のサンドイッチに目を輝かせている。
野菜サンド、卵サンド、唐揚げサンド。
そして、カツサンド。
本来であれば他におかずやお菓子を作る予定だったが、パンから改良をしていたこともあって、なかなか手が回らなかった。
(今回はこれだけ……と言っても何も無いところから充分頑張ったわよね。)
「ここまで作れたのも皆さんのおかげです。手伝っていただきありがとうございます。余った分は皆さんでお昼にでもお食べ下さい。」
主人である、ギルバートたちも食べるのは昼時。
コッペパンは今後のパン改革のために先に味見をしてもらったが……
こればかりは主人より後に食べて欲しい。
「えっ……と、まだ食べてはならないのですか……?」
料理人たちにあるはずのない、耳としっぽが垂れて見える。
(『待て』をさせられてる犬みたいね……)
「皆さんが、頑張ってくださったのはわかっております。ですが……」
ベアトリーチェは頬に手を置くと、わざとらしく小さく息を吐いた。
「主人であるギルバート様より先に食べたことを知ったら……ギルバート様はどう思うでしょうか……」
「うっ……」
「た、確かに……」
「ここの職を失うのは困る……」
料理人たちは肩を落とした。
(まぁ、あの人なら気にしないと思うけど……)
「わかっていただけてよかったですわ。リネット、あれは出来ていますか?」
ベアトリーチェは視線をずらすと、それに気づいたリネットが調理台の上にドサッと物を置いた。
「こちらでしょうか。」
「そう、これよこれ!!良く……この短時間で作れたわね。」
竹を切ってから、リネットにはとあることをお願いしていた。
細工職人を探し、竹を細く切ること。
そして――
「立派な籠ね!!しかも蓋も付いている。完璧よ!!」
竹で編んだランチボックスを作って欲しいと。
ベアトリーチェは、早速ランチボックスにサンドイッチを入れていく。
ふわふわのコッペパンに挟んだ特製サンドイッチ。
滑らかなマヨネーズをたっぷり使ったタマゴサンド。
野菜サンドにはマスタードを混ぜて少し辛味を足してある。
揚げたての香りが食欲をそそる唐揚げサンド。
上には特製のタルタルソースをかけた。
そして黄金色に輝くカツサンド。
サクサクの衣を纏った分厚いカツに、甘辛いソースをたっぷりかけた極上の逸品だ。
(あぁ~コッペパンだし、揚げパンも作ればよかったかしら。それは……また今度ね。)
籠の中は見ているだけでお腹がすいてくるほど華やかだった。
「ふふっ……美味しそうね。」
ボソッと呟くと、後ろから「あの……」と声を掛けられた。
「あら、料理長?まだ食べられませんわよ?」
「それはわかっております。それとは別に一つベアトリーチェ様にお願いがございまして。」
「お願い……ですの?」
(食べたい……じゃなければ何かしら……)
ベアトリーチェは、目を瞬くと首をかしげた。
「はい、その……話し方を自然にしていただければ……」
「自然……?いつも自然だと思うのですが?」
「あー……んーっと……」
(何か変だった?イントネーションとかかしら……?)
料理長は言い淀むと……手のひらをポンッと叩いてから話を続ける。
「敬語はいりません。普段リネットさんとお話するように話して欲しいのです。その……」
料理長は頬をカリカリと掻きながら、視線を逸らす。
「そちらの方がベアトリーチェ様にはお似合いだなと思いまして。」
「……!?」
まさかの言葉にベアトリーチェは一瞬言葉を失った。
「あ、あの決して変な意味では無いんです。俺たちは皆、軍人上がりで。粗暴な面が多く……その、敬語に慣れていないと言いますか。素のままのベアトリーチェ様の方が素敵だなと……」
段々、料理長の言葉が小さくなっていく。
ベアトリーチェが周囲をぐるっと見渡すと、料理長の言葉に全員がうなずいている。
「わたくし……皆さんと距離がありましたか……?少しは縮んだと思っていたのですが……」
ベアトリーチェは寂しげに視線を落とした。
長いまつ毛がゆさゆさと揺れる。
(仲良くなれたと思っていたんだけど、もしかして……そう思っていたのは私だけだったのかしら)
公爵令嬢として生きて十八年。
その中の八年は王族の婚約者として振舞ってきた。
(気をつけていたはずだったのだけど……)
胸の奥がチクリと痛む。
(距離を縮めるのは難しいわね。)
「皆さんとはゆっくり……」
ベアトリーチェは小さく微笑むと、言葉を続けようと口を開いた。
「関係を築いて行ければ――」
その瞬間――
「そんなことありません!!」
料理人たちの声が重なった。
地響きのような声に、厨房内が震える。
「……へ!?」
ベアトリーチェは料理人たちの声に、思わず気の抜けた声が出た。
「むしろもっと距離を縮めたいくらいです!」
「俺もです。ずっとここにいてください!」
「ベアトリーチェ様、大好きっす。俺たちのことを見捨てないでください。」
「ばか!それは語弊が生まれるだろ。」
「いや、こういうのは言ったもん勝ちだろ。俺はベアトリーチェ様のご飯なしじゃもう生きていけないぞ。」
「それもそうか!?俺も、大好きです。もっと家族のように接して欲しいと思っています。」
料理人たちはベアトリーチェに近づくと、次々に言いたかった言葉を投げかけた。
ベアトリーチェは信じられないとでも言うように目を瞬いた。
もう一度周囲をぐるりと見渡す。
「マーク、クルト、トット、トーマス……」
ベアトリーチェは一人一人の名前を呼んでいく。
「スーディー、ディーラ、ラルフ、フリール……」
(なんでもっと早く名前を呼んであげなかったのかしら)
「ルメール、ルーラン、ランドール、ドルダン」
もしかしたら、自分の中でいつの間にか蓋をしてしまっていたのかもしれない。
ベアトリーチェが名前を呼ぶと、料理人たちは笑顔で「はい!」と返事をした。
その返事は、陽の光に負けないくらい眩しかった。
「ふふっ……ありがとう。これからよろしくね?」
ファルクナー城に新たな絆が芽生えた瞬間だった。
「こちらこそ、よろしくお願いします!!」
料理人たちの声に、ファルクナー城が震えた。
***
「なんだ!?地震か……!?」
「いや、地震じゃないと思うぞ?」
その頃、ギルバート達は――
ピクニックとやらに向かう準備をしていた。
愛馬に干草を与え、毛並みを梳かす。
ドンッ――
ドンッ――
厨房の方から聞こえてくる音に馬もソワソワするのか足が動く。
「熱気のようにも見えなくないな……」
「珍獣がなにかしてるんだ。後で行って見ればわかるだろ。」
ギルバートは肩を竦めるとそのまま、愛馬の世話を続けた。
(ベアトリーチェ嬢と行くなら馬車の方がいいと思うが……あいつわかってるのか?)
ハンスの心の声はギルバートに届くことは無かった。




