二週間後のお茶会で全てを明らかにしましょう。
「ま、待ってくれ。」
アレクサンダルの言葉に、ルイスは足を止める。
「なんでしょうか。みのりのない話であれば……」
カチャ。
ルイスは腰にある剣を手に取ると、鞘から少し引き抜いた。
剣身がキラリと反射する。
アレクサンダルは玉座から立ち上がると、ルイスに気を沈めるように促した。
「わ、わかっている。頼むから剣から手を離してくれ。」
「分かりました。私の気もそこまで長くありません。早く本題に入ってください。」
ルイスは剣から手を離すと、元の位置へと戻っていく。
その姿に安心したのか、アレクサンダルはふぅっと息を吐いた。
「では……早速本題に入ろう。ディオン……とそれにベアトリーチェ。お前たちの婚約は白紙に戻された。」
「……」
アレクサンダルの言葉を聞いた瞬間――
ディオンたちは動きを止めた。
謁見の間に何度目か分からない静寂がおとずれる。
先ほどまで笑顔を浮かべていたディオンたちの顔から表情が消えていく。
「えっと……父上。今、なんと仰ったのですか?」
アレクサンダルはこめかみに手を当てると、トントンと叩いた。
「だから、ベアトリーチェ嬢との婚約は白紙になったと言ったんだ。」
ディオンは、数回瞬きを繰り返した。
(どうやら、信じられないようだな……)
レヴィールは腕を組みながら壁にもたれ掛かると、ディオンを見る。
ディオンは歯をグッと噛み締めると、アレクサンダルを睨みつけた。
(昔から変わらないな……)
「そんな……何故ですか!?ベアトリーチェの偽物は私が見つけてこの王城から追い払ったのですよ?今更、私とベアトリーチェが離されるなんて有り得ない。愛し合っているんだ!!」
ディオンは昔からそうだ。
自分の思い通りに行かないと、すぐに怒鳴りつける。
小さい頃からそうだった。
本当であればベアトリーチェと婚約するのはレヴィールの予定だった。
だが、ベアトリーチェとの初顔合わせの時、ディオンがベアトリーチェに一目惚れしたのだ。
(その割に、大切にしていなかったが……。)
「はぁ……お前はまだ気づかないのか?そこにいるのはベアトリーチェではない。」
アレクサンダルはディオンの腕に絡みついている女を指さした。
「そこにいるのはヴィクトリーチェ・ククルス。ベアトリーチェの従姉妹でククルス男爵家の娘だ。」
「……は?」
「う、うそよ……」
ディオンと、エリザベートはヴィクトリーチェを見た後周りを見渡した。
周囲の者たちは既に知っていたのか、誰一人として驚いた様子を見せることもなく、首を縦に振った。
「そ、そんなバカな……」
ディオンはゆっくりと、腕に絡みつくヴィクトリーチェに目を向ける。
「ベアトリーチェ……じゃないのか……?」
ヴィクトリーチェはディオンに視線を向けると、目を細めて微笑んだ。
「クスッ……ディー。ここにいる方たちは、ヴィクトリーチェに騙されているのですわ。わたくしがベアトリーチェで間違いないではございませんか。」
どうやら、ヴィクトリーチェはまだ諦めていないらしい。
(凄い執念だな……)
「そ、そうだよな……父上。私がベアトリーチェを見間違えるわけがないではないですか。」
ディオンは少し考えてから、何かを思い立ったように話を続ける。
「あっ、もしや、私が王太子としての器か試していらっしゃるのですね?ハハハ。父上も人が悪い。」
(どうしてそうなる……)
レヴィールは小さく息を吐き出すと、アレクサンダルを見た。
その時――
「いい加減にしろ!!そんな茶番に付き合わすために我々を呼んだのか!?親子喧嘩ならそちらで好きにやってくれ。」
ルイスの怒声が瞬く間に広がった。
「そもそも、そこにいる女がベアトリーチェでないことは私が一番よく知っている。」
「まず一つにそのドレスだ。ベルはそんな高価なものを着ない。それどころか宝石だって必要最低限のみ。ドレスは一度着たらリメイクとやらをして、布地がクタクタになるまで着るのだ。」
「それに、赤いドレスは着ないぞ。ベルは殿下を立てるために淡い色を着ていた。自分が目立たないようにな。」
ルイスはヴィクトリーチェを睨め回すように見つめると、ベアトリーチェと違うところを話していく。
「それにだ……殿下が何もしないからと、文句一つ言わず公務を行っていたし、お茶会を開かせれば誰よりも美味い茶菓子と紅茶を用意する。」
ルイスはそこで何かを思い浮かんだようにニヤリと笑うと……
「そうか……一度お前にお茶会を開いてもらえば、誰もがそれを理解するかもしれんな。」
「まぁ、そこにいるボンクラ王子は気づかないかもしれんが……」
ルイスは鼻で笑いながらディオンを見下ろした。
「な、なんだと……!?」
「おじい様……」
「お前にその呼び方は許していない。お前の母親とも絶縁したはずだ。我が家の恥さらしが!」
ルイスは怒りを抑えきれない様子で、唾を飛ばしながら怒鳴っている。
(フェレシアから聞いてはいたが、ここまでとはな……)
フェレシアとベアトリーチェ、そしてヴィクトリーチェは従姉妹同士。
だが、ヴィクトリーチェの母親が何度もベアトリーチェの母、ベアトリクスの物を奪ったり、自分のやらかしたことを全てベアトリクスに押し付けていたそうだ。
特に酷いのは、自分が色んな男と遊んでいたのにも関わらず、ベアトリクスの名前を使い、ベアトリクスを悪者に仕立て上げた。
その中で唯一信じ続け、寄り添っていたのは現セイレート公爵、アリステアだけだった。
ルイスは怒りを抑えるように手をグッと握りしめる。
「だが、一応そこにいるのも私の孫だ。」
「そいつの母親も一緒に引っ張り出してこよう。」
そこで一旦区切ると、ルイスはアレクサンダルを見据えた。
「国王陛下。これは我が家の恥晒しを炙り出すためにも必要なこと。賛同いただけますね?」
アレクサンダルは少し考えてから「いいだろう。」と静かに言い放った。
それを聞いたルイスは、そのまま踵を返す。
「そ、そんな……おじい様……待ってください。」
そして、扉の前で一度止まった。
「では二週間後に全てを明らかにしましょう。」
「場所はアルキューネ城で……よろしいですね?陛下。」
有無を言わさぬ威圧感に、アレクサンダルは頷いた。
いや、頷くのがやっとだった。
(これは……二週間後が楽しみだな。)
レヴィールは二週間後のお茶会を楽しみに、謁見の間をあとにした。




