二人のデートを喜んでお手伝いさせていただきます。
「お弁当は……追々として、まずはカタログ販売考えませんとね!!」
弁当――
先の話で兵糧と似ているものということはわかったが、それ以上の何かをベアトリーチェが教えてくれる気配がない。
それどころか今は別の方が優先らしい。
(全く想像がつかん……)
ギルバートは一度リセットするように軽く頭を横に振ると、ベアトリーチェに話しかけた。
「その……カタログ販売と言うのは何となく理解したが……そんな簡単に上手くいくものなのか?ここは王都からも五日以上離れた距離にある辺境だ。」
ギルバートが気になるのは品質だった。
出店ならまだしも、遠方へ運ぶとなれば話は別だ。
運ぶ前に腐ってしまえば元も子もない。
(食べ物でなければ変わってくるだろうが……)
話を聞いている限りその線は薄そうだ。
「確かにその通りですわね。だからこそ、この竹がとても大切なのです。」
ベアトリーチェは手に持っている我が子のごとく、竹を愛おしそうに撫でた。
「あとは籾殻があれば完璧なのですけれど……なければ使えなくなった茶葉でもいいのですが……」
籾殻……?
茶葉……とは紅茶のことか……?
ギルバートは次から次に出てくる知らない単語に頭を悩ませる。
(一体この知識はどこから来てるんだ。)
しかし、その間もベアトリーチェの言葉は止まらなかった。
「もっとも、まだ確証は得られておりませんの。ですから、一度実験してみませんこと?」
「「実験……!?」」
ギルバートとハンスの声が重なった。
(また知らない言葉が出てきたぞ)
「ええ、実験です。よければ……三日後、お弁当を作ってピクニックにいきませんか。」
「ピクニック……?」
「あら、もしかしてピクニックもご存知ない?まぁ……それは当日のお楽しみにしましょう。」
ベアトリーチェはふわりと微笑むとそのまま話を続ける。
実験が何なのか、なぜ三日後なのか……
(聞きたいことは山ほどあるが……聞く隙がないな……)
この場にいた全員が呆然とした顔で話を聞いていると、ベアトリーチェがパチンと手を叩く。
「あっ!!」
そして、ギルバートたちを見るとパチりとウインクした。
「もちろんお二人のお邪魔はいたしませんわ。」
ベアトリーチェはギルバートとハンスを交互に見ると「きゃー」と頬を赤らめてから、話を続ける。
「もし、お二人で行きたいということでしたら、話は別ですけれど……」
(二人で行くってどこにだ?)
そもそも何をするかも理解出来ていない。
兵糧と似ているということは訓練か何かだろうか。
(それだったらベアトリーチェを連れていくのは確かに危ないな)
「そうか……ハンス。俺たち二人で行くか?」
「そうだな。その方が良さそうだ。」
ギルバートの一言でハンスも理解したらしい。
ギルバートたちの様子を見てベアトリーチェ目を見開いた。
「まぁ、まぁ、まぁ!!そうですわよね!」
そして頬を緩める。
「では、美味しいお弁当を用意させていただきますね。なかなかお二人になる機会はないと思いますし、ギルバート様たちはごゆっくりしてしてくださいませ。」
(ゆっくり……?)
ベアトリーチェの言葉に引っかかる部分もあったが、久しぶりに剣が振るえるのであればそれに越したことはない。
「あぁ、ありがとう。俺がいない方がお前もゆっくり出来るだろう。ベルもゆっくり過ごすといい。」
「ふふっ。なんて優しいのでしょうか。地蔵なだけあって慈悲深いのですね。ありがたくそうさせていただきますわ!」
「……普通だ」
「そうですか……でも、堅物冷酷男には見えませんわ。」
その後、ベアトリーチェは木工職人に用事があると、リネットを連れて、猛スピードで城を飛び出した。
「なんだか……嵐のような子だな。あれが本当に第二王子の婚約者だったと聞くと……」
「世も末だな……まぁ、頭の回転は早そうだが……」
ギルバートと、ハンスはベアトリーチェの背を見てため息を吐いた。
***
「父上。いえ、国王陛下。お待たせして申し訳ございません。ディオン・アルキューネ、ベアトリーチェ・セイレート。お召により参上いたしましてございます。」
アルキューネ城――
月が顔を出した頃、謁見の間には四大公爵を始めとした重鎮たちと、国王陛下が集まっていた。
しかし、そこにセイレート公爵の姿はない。
(……やっと来たか。)
レヴィールが二人を呼びに行ってから一時間以上の時間が経っている。
「国王様。お待たせして申し訳ございません。ディオン第二王子が離してくれなくて、遅くなってしまいました。」
宝石をふんだんにあしらった真っ赤なドレス。
今までのベアトリーチェであれば宝石を使うのは必要最低限のみだった。
(あれ、いくらかかってるんだ……)
そんなベアトリーチェの変わりように気づいていないのは、王妃とディオンだけだった。
「まぁ、リーチェ!とっても素敵じゃない。そのドレス似合っているわ。やっぱりわたくしの見立ては間違いなかったわね。」
エリザベートはヴィクトリーチェを見ると、満足そうに微笑んだ。
「ありがとうございます。お義母様……いえ、エリザベート王妃。」
「ふふっ……あら、わたくしのことはお義母様と呼んでと言ったでしょう?」
「ふふっ……そうでしたわね、エリザベートお義母様!!」
重たい空気の中、二人の笑い声が謁見の間の空気を切り裂いた。
(どうして気づかない……)
レヴィールは静かに拳を握る。
その時、
「国王陛下。私は茶番を見せられるために呼ばれたのですかな?」
一人の男が低い声を轟かせた。
人より一回り大きい体躯。
白髪で目つきは鋭く、頬から口にかけて大きな傷がある。
男は一歩前に出ると、ヴィクトリーチェを見据えた。
「でしたら時間も時間だ。帰らせて頂こう。」
「ルイス・アイトス……」
「おじい様!!」
ヴィクトリーチェと国王陛下の声が重なった。
ルイス・アイトス。
四大公爵の一つ、アイトス家の当主だ。
「お前に『おじい様』と呼んでいいと許した覚えはない。」
「それより、話がないのであれば帰りますが?よろしいですか?」
しかし、ルイスはヴィクトリーチェに見向きもせず、アレクサンダルに視線を向けた。
その瞬間、アレクサンダルは肩をビクリと揺らす。
ルイスはそんなアレクサンダルを見て、呆れたように眉をひそめると、扉に向かって歩き出した。
カツンカツン
重厚感のある靴音が響き渡る。
刹那――
「ま、待ってくれ!!」
それを遮るようにアレクサンダルの声が謁見の間に木霊した。




