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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
公爵令嬢、辺境侯爵家で趣味に没頭することにしました。

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23/62

公爵令嬢はどんなものでも見逃しません。

「し、し、商会!?」


ガタガタッ。


ギルバートは椅子から立ち上がると、ベアトリーチェを見下ろす。


あまりの大声に、ベアトリーチェはぱちりと目を瞬かせた。


(これが……冷酷な男……?)


ここに来てから数日。


ギルバートとは幾度となく話してきたが、冗談も言うし、笑いもするし、あの男に比べればよほど人間味がある。


現に今だって、驚いて立ち上がっているくらいだ。


(まぁ、表情筋はあまり動かないけど……それが怖かったのかしらね。)


ベアトリーチェは呑気に目の前の男を見上げると、先ほどと同じ言葉を繰り返した。


「えぇ、商会を作りたいのです。」


「な……正気か?」


「嘘でこのようなことは申しませんわ。」


(そんなに変なことを言ったかしら……)


第二王子の婚約者だった時は、楽しみといえば夜会やお茶会くらいなものだった。


それ以外は公務、勉強の毎日……


ディオンが何もしないからとすべてベアトリーチェに押し付けていく官僚。


家に帰ろうとすれば「送るものがいないから」と王城から出してもらえず……


兄や両親にもなかなか会うことができなかった。


(思い出すだけでも反吐が出るわ)


そんな時、唯一家族に会うことができたのが、お茶会や夜会だ。


(お菓子が美味しかったとは言えないけど……)


お菓子だって、自分が食べたいものを好き勝手作ることはできない。


お高いだけのパサパサのクッキー……


味はまともだけど、着色料たっぷりのド派手なケーキ……


王城で出されるパンも、ファルクナー領のものに比べれば柔らかい。


だが――


「このパンがうまいか?」と聞かれれば、素直に頷くことはできない。


クタクタになるまで煮込まれたスープに、牛肉は焼きすぎてカチカチ。


(スープはここのスープが一番ね。)


特に前世の記憶を思い出してからは……自己暗示をかけるのが大変だったほどだ。


(自分で作ればまだマシなのに……)


ベアトリーチェは胸元で手をぎゅっと結び、ギルバートを見上げた。


「ギルバート様に迷惑はかけませんわ。それに商会は、わたくしのポケットマネーで行うつもりですの。だから安心してくださいませ。」


「ポケットマネーって……商会を立ち上げるには金がかかるんだぞ?」


「そのくらい知ってますけれど……?」


「そ、そうなのか……?」


どうやら資金面を心配してくれていたらしい。


「優しいのですね。でも大丈夫ですわ。」


「何が大丈夫なんだ。それに、ここは最前線だ。今でこそケルベリオンは静かにしているが……またいつ戦を吹っかけてくるか分からないんだぞ?」


ギルバートの声がどんどん大きくなっていく。


しかし、ベアトリーチェはそんなこと気にしていないのか、淡々と言葉を返した。


「そうですわね。ですが、商会はわたくしのただの趣味ですもの。それに、先ほども言ったではありませんか。ご迷惑はおかけしないと……。」


ベアトリーチェも何も考えがないという訳では無い。


勿論、公爵令嬢としてそれなりに貯金だってある。


(お父様たちに内緒でドレスや宝石代をケチってたのよね。ふふっ……こんなところで役に立つなんて思ってもみなかったわ)


「し、しかし……店舗も必要になるだろう?店をやるなら王都の方がいいだろうし……ここで店を出したところでたかが知れているぞ?」


ギルバートは肩を竦めた。


本当にベアトリーチェが何を言っているのか理解できていないようだ。


ベアトリーチェはそんなギルバートを見て「クスッ」と笑った。


そして、ハンスもギルバートを見て笑っている。


「な、何がおかしい……?」


「いえ、別に……」


「クッ……いや、お前のその姿が珍しいと思ってな……それに女性に言い負かされるなんてほとんどないだろ?」


(きゃー!ギルバート様が攻めかと思っていたけど、逆なの!?それも萌えるわぁ~)


ベアトリーチェは二人のやり取りを見て、鼻をふんふんと鳴らすと、


刹那――


「ふぎゅ……」


ギルバートが身を乗り出して、ベアトリーチェの鼻をつまんだ。


「おい、珍獣……何を興奮しているんだ?」


その目には先ほどまでの慌てふためく姿はない。


「い、いえ……ただ、尊いなと思いまして……ふふ……ほほほほほ」


「何が尊いんだ!お前の俺たちの見る目、何か勘違いしているようにしか見えないんだが……?」


「そ、そんなことはございませんわ。そ、それより話を戻しましょう。」


ベアトリーチェがわざとらしく咳払いをすると、ギルバートはドカりと椅子に腰をかけた。


(危なかったわ……二人の関係は秘密だものね。私も気をつけないと……)


「それで、店舗についてでしたよね?店舗は今のところ作る気はございませんの。」


「「……は?」」


ギルバートとハンスの声が重なった。


「ついに頭がおかしくなったか……?いや、珍獣だから理解ができないということか……」


「失礼ですわね。頭などおかしくなってはおりませんし、聞き間違いでもございませんわ。わたくしは店舗を構える気はないと、はっきり申し上げたのです。」


ギルバートはベアトリーチェをじっと見つめると、こめかみを押さえてぐりぐりと回した。


その姿をみてハンスは目を細め、ため息を吐く。


(見つめるなら私じゃなくてハンスにしてよ。ヤキモチ妬いてるじゃない。)


「店舗を構える気はない?ではどうやって商売をするんだ?」


ベアトリーチェは「よくぞ聞いてくれました」とばかりに満面の笑みを浮かべた。


そして――


「通信販売……いえ、カタログ販売をするのですわ。」


「「カタログ販売!?」」


この世界にネットなんてものは存在しない。


しかし、郵送で送ることは出来る。


ベアトリーチェはそこを使おうと考えたのだ。


「そう、カタログ販売です。」


ベアトリーチェはソファから立ち上がると執務室の中をゆっくり歩く。


「お客様はすべて会員制にします。カタログを送り、その中で選んだ商品をここからご自宅へ郵送するのです。」


「と、いうことは……」


「はい、言ってしまえばここが店舗になるということでしょうか。」


「なるほどな……ここを店にするのか……」


ベアトリーチェはここに来てから何日かかけて、ファルクナー城を探検していた。


国境ということもあってか、城自体は大きい。


セイレート城と比べても遜色ない。いや、もしかするとアルキューネ城よりも広いかもしれない。


「幸いにもこのお城。使われていないところが多いようですし……いいと思いませんか?」


「もちろん、商品を届けるための販路は必要になりますけれど……」


そこで一旦区切ると、ギルバートの後ろに回り込んでソファの背もたれに手を置いた。


「領地の道路を綺麗にする目的も含まれますし、良いと思いませんか?それに、いいものを見つけたのです。」


ベアトリーチェはリネットに持ってくるよう伝えると、一本の木材を持ってきた。


「そ、それは……」


「これをご存知ですの?」


真っ直ぐに伸びた円柱型。


等間隔に節があり、中は空洞なのか叩くと音が響く。


表面は普通の木とは違いツルツルとした光沢があり、黄緑色をしている。


「あぁ、この辺りにたくさんあるからな。火にくべても焼けないから薪にもできないし、売れもしない……処分するのに困っていたくらいだ……」


その言葉を聞いた瞬間――


ベアトリーチェは「まぁ、まぁ、まぁ……」と大きな声を上げた。


「そんな……処分が出来なくて困っていたのですか?こんな万能な竹を!?なんて勿体ない……」


「た、竹……なんだそれは……初めて聞いたぞ!?」


「そうですか……」


(やっぱりこの世界では使われていないのね……だったら好都合だわ)


ベアトリーチェは公爵令嬢らしく優雅に微笑むと、そのまま扉に向かって歩き出した。


「知らないのでしたら……いらないものも同然ですわね。こちらの竹は本日からすべてわたくしがもらいますわ……」


「あっ、おい……まだ話は……」


(やったわ……これで一歩前進ね!!)


後ろからギルバートの声が聞こえたが、ベアトリーチェは気にすることなく執務室をあとにした。

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