紅茶を楽しむために、まずは推し活を楽しみます。
「あら、手紙……?」
ベアトリーチェは目の前に落ちてきた手紙を手に取った。
(……エル?)
「初めて見るお名前ですが……もしかして……恋人でしょうか?」
「違う。ただの腐れ縁だ。」
ギルバートは、ベアトリーチェからサッと手紙を取り上げると――
ひらり
今度は封筒の中から一枚の便箋が飛び出す。
便箋は読んで欲しいとでも言うように、ベアトリーチェの手の中へと収まり、折りたたまれた紙が綺麗に開いた。
まるでベアトリーチェに読んで欲しかったとでも言うように……。
ベアトリーチェは手紙へと視線を移した。
「恋文みたいね。」
手紙の中には星について記載されていた。
「頼む。それだけはやめてくれ!」
ギルバートは眉を寄せると、苦虫を噛み潰したような顔でベアトリーチェを見据える。
「ふふっ……そんなお顔しなくても、わかっておりますので、大丈夫でしてよ?」
「何が大丈夫なんだ。」
ギルバートの声が窓のガラスを揺らす。
「まぁ、そんな声を荒げないでくださいませ。それでは堅物地蔵ではなくて……ただの猛獣……いえ、ギルバート様の場合は猛禽ですわね。」
「なんだって?」
「なんだって?って……だってあなたの名前……鷹に似てるじゃない。」
「はぁ……それを言ったら、お前の名前だって――むぐっ」
ベアトリーチェはギルバートの口を手で塞ぐと、ハンスを見つめた。
「そ・れ・に、あなたの最愛の方はわかっていますわ……だから、安心してくださいませ。」
ギルバートは一度首を傾げてから、小さくため息を吐いた。
そして、観念したように肩をすくめると、ベアトリーチェが持っている手紙を覗き込んだ。
「それにしても、こちらを書いた方……とてもロマンチストな方ですのね……」
「ロマンチスト……?」
「ええ……星について書くなんて……ロマンチストではありませんか?まぁ……」
ベアトリーチェは一度そこで区切ると、目を細めてから口角を上げた。
「パッと見は……ですけれど……」
それから手紙を折り目に沿って畳むと、そのままギルバートに押し付ける。
「パッと見……って……ベルはわかったのか!?」
(このくらいの謎解きなら……前世で嫌という程やったもの……)
どうやら、ギルバートは手紙の意味がわかっていないようだ。
(それなら好都合だわ……)
ベアトリーチェはパンッと両手を合わせると、悟られないように微笑んだ。
「それよりも、スコーンを食べませんか?このままではお紅茶も冷めてしまいますし……スコーンは焼きたてですもの。今が一番美味しいのですよ?」
コポポポ
ポットからカップに紅茶を注ぐと、芳醇な香りが執務室中に広がっていく。
「ふふっ……やっぱりお紅茶は淹れたてが一番ですわね。」
四つのカップに紅茶を注ぎ終えると、ローテーブルの上に置いた。
「ハンス、リネットも……せっかくですから、一緒にお茶を楽しみましょ?お茶会は大勢の方が楽しいですから。」
「お嬢様がそうおっしゃるのでしたら、喜んで……」
ベアトリーチェがソファーに座ったことを確認すると、リネットはその横に腰を下ろした。
「おい、珍獣。これを飲んだらちゃんと話してもらうからな?」
「ベアトリーチェ……ですわ?この、猛禽……じゃなかった……ギルバート様。」
「早くお座りになってください。せっかくのお茶を台無しにするおつもりですか?」
ベアトリーチェはお茶会を邪魔されるのがあまり好きではない。
(食べないなら、自分の部屋に戻るわよ?)
ギルバートをひと睨みすると、渋々ベアトリーチェの前に腰を下ろした。
そして、ソファーをポンポンと叩き、ハンスを呼ぶ。
「ハンス、お前も早く座れ。」
「いや、しかし……」
ハンスは困った顔でギルバートを見ると、彼は服の裾をちょいちょいと引っ張った。
「早くしろ、お前が座らないと話が進まん。」
(きゃあああああ!!他にも空いてるソファーがあるのに、わざわざ隣に座らせるのね。)
ベアトリーチェはソファから身を乗り出しながら二人の動作を食い入るように見つめる。
(こんな至近距離で……推せる……推せるわ……グッズでも作っちゃおうかしら。)
「……様……」
(団扇ならぬ扇子なんでどうかしら。ギルはイケメンだし、元々令嬢には人気だもの……需要はありそうよね。)
「……お嬢様……」
(ギルバートのキャラクタークッキーなんて言うのも売れそうね。他のイケメン貴族とかも集めて……絶対売れるわ。)
「ベアトリーチェお嬢様!!」
(ふふっ……せっかくあのバカ王子から離れられたんだもの……まずは手始めに……商会を立ち上げようかしら……)
「聞こえていますか?ベアトリーチェお嬢様!!」
ベアトリーチェが目の前の二人を見つめながら脳内会議をしていると、突然肩を大きく揺すられた。
「あ、あら?リネット……わたくしは一体……」
「はぁ……」
リネットはこめかみを抑えて軽く揉んだ。
「お茶は良いのですか?早くしないと冷めてしまいますが……」
一体どのくらいの時間考え事をしていたのか。
ギルバートたちもふうっと息を漏らす。
「あら……?なんだかごめんなさいね。考え出すと……止まらなくなってしまって……」
ベアトリーチェは頬に手を置くと眉尻を下げて小さく微笑んだ。
そして――
先ほどことは無かったかのように、紅茶のカップを手に取った。
「さぁ、冷めないうちに楽しみましょ。」
「遅くなったのはお前のせいだがな……」
「ふふ……そんなに楽しみにしていらしたのね?」
ギルバートの嫌味は、ベアトリーチェの紅茶の中へと溶けて言った。
「初めて作ったけれど……このスコーン美味しいわね。皆さんもお食べになって?ジャムをつけても美味しいわよ?」
おそるおそるスコーンを手に取り、口へと運ぶ――
サクッ
口の中にちょうどいい甘みが広がった。
「うまいな……」
「あぁ、初めて食べたが、この柔らかさ。それに甘さ。香り。クセになりそうだな。」
「ふふっ。喜んでもらえたようでよかったですわ。」
お茶会だからなのか、ここにいるのは珍獣ではなく優雅にお茶を楽しむ公爵令嬢だった。
「これでパンも柔らかくできるわね。」
ベアトリーチェの言葉はスコーンとともに口の中へと消えた。




