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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
公爵令嬢、辺境侯爵家で趣味に没頭することにしました。

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19/19

スコーンを届けに来たはずが、執務室で尊いものを目撃しました。

「ギル。いい所に行かないか!?」


執務室――


ギルバートは厨房から戻ると、執務室で一通の手紙に目を通していた。


――――――


ギルへ。


久しぶりだな。元気にしているか?


最近、星見に付き合わされていてな。


そこで妙なことに気づいた。


本来、第七星区で最も美しく輝くはずの星が見えなくなっている。


その代わりによく似た星が、まるで最初からそこにあったかのように輝いているんだ。


だが、どうにも空の巡りが噛み合わない。


周囲の星々も、その違和感に気づいていないようだ。


ほら、こういう星の歪みを見抜くのは君の得意分野だろう?


周囲に余計な不安を与えたくない。この件は俺と君だけの秘密ということで頼む。


至急、空を確認して欲しい。


エルヴィル


―――――


「おい、聞いてるのか……」


ハンスは返事のないギルバートに近づくと、彼の顔を覗き込んだ。


いつもなら適当に受け流す男が、珍しく真剣な顔をしている。


「……何かあったのか?」


ハンスはギルバートの肩を軽く揺すると、ようやく彼は手紙から視線を上げた。


「あぁ、ハンスか……。何があった?」


「何があったって……それはこっちのセリフだ。」


ギルバートが心ここに在らずの状態は珍しい。


何が起きても表情ひとつ変えずに淡々とこなす男だ。


それが戦場で人間相手だったとしても――


「あぁ、すまない……それで、面白いこと……だったか?」


ハンスはギルバートがそれ以上話す気がないことが分かると、小さく息を吐いてから話を元に戻した。


***


(……ククッ、あの珍獣……厨房まで行くとはな。)


ハンスが戻る数分前――


ギルバートは厨房から執務室に戻ると、白髪でガタイのいい男が待っていた。


「ベンジャミンか……」


「ギルバート坊っちゃま。楽しそうなところ申し訳ございませんが……」


「坊っちゃまと言うなと言っているだろ?それにいつもと変わらないはずだ。」


ギルバートが眉を寄せると、ベンジャミンは白い髭を揺らして楽しそうに笑った。


「ふぉっふぉっふぉ……坊っちゃまはいくつになっても坊っちゃまですから。せめて結婚でもしてくれれば別ですが……」


「今話す話じゃないだろ?」


呆れたようにため息を吐くギルバートに、ベンジャミンはどこ吹く風だ。


(食えないやつだ……)


「そうですかな?それよりもこちらを……」


ベンジャミンは、懐に手を入れるとすっと一つの封筒を取り出した。


「手紙か……。」


「はい、お手紙が届いております。」


封筒には、Lの一文字だけが記されていた。


(……嫌な予感しかしないな。)


「後で見る。」


ギルバートが机の上へ手紙を置くと、ベンジャミンの目がすっと細まった。


「坊っちゃま……」


ギルバートを見るだけで、それ以上何も話そうとしない。


(この空気……苦手だ……)


「わかったよ……読めばいいんだろ。」


ギルバートは肩を竦めると、観念したように手紙を手に取った。


そんなギルバートに、ベンジャミンは無言のまま、ペーパーナイフを差し出す。


「はい、相手が相手かと思いますので、急いだ方がいいと思います。」


「はぁ……差出人は……エルヴィルか……」


エルヴィル――


またの名を、レヴィール・アルキューネ。


この国の第一王子殿下だ。


(わざわざこの名前を使うということは……厄介事か……)


レヴィールは、昔から内密で動いて欲しいことがあると必ず偽名を使う。


……今回のように。


ギルバートは小さく息を吐くと、手紙へと視線を移した。


(……また暗号か……)


読みづらい手紙に思わず眉を寄せる。


「解読するのに時間がかかるんだよな……」


そう呟いた直後――


執務室の扉が勢いよく開いた。


「ギル、いい所行かないか!?」


(うるさいのが戻ってきた……)


ギルバートは手紙から視線をそらすことなく、執務室に入ってきた男を適当にあしらう。


「おい、聞いてるのか?」


聞いてはいるが、それどころではない。


(見ればわかるだろうが……)


ハンスは近づいてくると机に肘を付いて覗き込んだ。


「何か……あったのか?」


そこで初めて、ギルバートはハンスが傍まで来ていたことに気づく。


「あぁ、ハンスか……。何があった?」


「何があったって……それはこっちのセリフだ。」


さっきまでいたはずのベンジャミンの姿がない。


どうやら、いつの間にか部屋から出ていったらしい。


ギルバートはハンスに視線を移すと、手紙を机の上に置いた。


「あぁ、すまない……それで、面白いこと……だったか?」


「って……近いな!!」


ギルバートは顔のすぐ傍にあったハンスを押し返した。


その瞬間――


ガチャリ


「ギルバート様!!お待たせいたしま――」


ベアトリーチェはそこで言葉を止めた。


「ベル……」


「きゃあああああ!!申し訳ございません。」


ベアトリーチェの声と同時に、甘い香りが鼻腔を擽る。


「わたくしとしたことが……お邪魔してしまいましたわ。」


ベアトリーチェは持っていたカップとポット、それに焼きたての香ばしい何かを机へ置くと、二人に視線を向ける。


押し返されたとはいえ、至近距離にいる男二人。


しかも、ハンスは机に肘をついたままこちらを見ていた。


一瞬、部屋の空気が止まった。


ベアトリーチェの顔がみるみる赤くなっていく。


「ご、ご安心くださいませ!わたくし、何も見ておりませんので!!(きゃあああああ!!最高よ。目の保養だわ!!)」


ベアトリーチェは手で目を隠しているが、指の隙間からしっかりこちらを見ていた。


「待て。絶対何か勘違いしているだろう。」


ギルバートが眉間を押さえると、ベアトリーチェはふるふると首を横に振った。


「勘違いなんて……そんな……二人が親密なのは……知っていますので……ふふっ。こちら紅茶とスコーンです。良ければお二人で食べあいっこ……いえ、お召し上がりになってください。」


ベアトリーチェはギルバートとハンスを交互に見て、頬を赤く染めながら、机の上へ紅茶を並べていく。


その肩は小刻みに震えていた。


「いや待て、何を想像した!?」


ハンスが慌てたように声を上げる。


しかし、ベアトリーチェは意味深に微笑むだけだ。


「いえ、想像なんて……ふふっ……そんな……」


「絶対想像しただろ!!」


「ハンス、お前は黙っていろ。ややこしくなる……」


ギルバートは深いため息を吐きながら額を押さえた。


「それではごゆっくりお楽しみくださいませ。」


「待て。お前もここにいろ。これ以上ややこしくするな。」


「ぐえっ……」


ギルバートはベアトリーチェの首根っこを掴むと、近くにあった椅子に座らせた。


そこには、いつの間に滑り落ちたのか――


レヴィールからの手紙が置かれていた。

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