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偽物扱いで王城を出禁にされた公爵令嬢、辺境侯爵家で自由を満喫します ~いまさら本物だと言われても戻るつもりはございません。~  作者: ゆずこしょう
公爵令嬢、偽物扱いされてもお茶の方が大切です。

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2/22

お話よりも紅茶の方が大事です。

「それで? 巨大な敵は倒せたの?」


王妃の挨拶も終わり、少しずつ貴婦人たちが会場を去っていく中――


ベアトリーチェとヴィクトリーチェ、そしてフェレシアは口直しも兼ねて紅茶を飲んでいた。


(やっぱり最後はアールグレイね……)


甘ったるくなった口の中を、爽やかな香りがすっと流れていく。


ティータイムの余韻を楽しんでいると、二人の声が重なった。


「「巨大な敵……?」」


(……さっきそんな話してた気がしたんだけど、聞き間違い?)


二人の問いかけに、ベアトリーチェは首を傾げる。


「えっ、違うの?」


ヴィクトリーチェは昔からお茶会や夜会に顔を出そうとしない。


(私がいると絶対来ないくせに……)


だからこそ、王妃主催のお茶会にヴィクトリーチェが来たことに驚いた。


「用事があったって言っていたから、お茶会はついでなのかなと思って……」


「確かについでではあったけど……」


ヴィクトリーチェは紅茶を一気に飲み干すと、カップを勢いよくソーサーへ叩きつけた。


(えっ、なんか怒らせるようなこと言った!?)


その音に談話中だった人たちもこちらを振り向く。


「そ、そうよね……巨大な敵……なんて、いるわけないわよね……」


ヴィクトリーチェの反応を見て、ベアトリーチェは引きつった笑みを浮かべた。


そして、残っていた紅茶を飲み干すと、誤魔化すように視線を逸らす。


(危ない、危ない……)


ベアトリーチェには誰にも言えない秘密がある。


(悪役令嬢とか魔王とか……そういう系の話かなって勘違いしてたわ。)


乙女ゲームにRPG。小説や漫画……


(まぁ、前世のヲタク知識と現実が混同するなんて、今に始まったことじゃないんだけど……)


「……ル!!」


「……ベル!!」


「ちょっと!ベル!!きいているの!?」


そんなことを考えていれば、肩をガクガク揺さぶられた。


「えっ……?フェレシア……?私また……」


「えぇ、また意識がどこか行ってたわよ……」


フェレシアはベアトリーチェの肩からそっと手を離すと、視線を右上にずらした。


どうやら右上を見ろということらしい……


ベアトリーチェもそちらへ視線を向ける。


そこには――


「久しいな。ベアトリーチェ……いや、ヴィクトリーチェだったか。」


ベアトリーチェの婚約者である、ディオン・アルキューネ第二王子殿下が立っていた。


「ディオン第二王子がなぜここに……?」


(それに、ヴィクトリーチェって……)


ヴィクトリーチェを見ると、彼女はこの時を待っていたかのような笑顔でバッと立ち上がると、ディオンに抱きついた。


「ディー!!」


「リーチェ!!」


恋人同士のような甘ったるい雰囲気。


(……これならショートケーキをホールで食べた方が全然いいわ。)


飲みきったカップの取っ手に力を込める。


「ふふっ……やっと気づいたのね!!」


(紅茶を残しておけばよかったわ……)


「そうね……」


どうやらヴィクトリーチェも同じことを思っていたようだ。


ベアトリーチェはスっとその場に立ち上がると、片手を挙げた。


「な、なに!?」


ヴィクトリーチェは、目をぎゅっと瞑るとディオンにしがみついた。


「また私に……暴力を……」


令嬢たちは息を呑み、視線が一斉にベアトリーチェへ集まった。


「紅茶のおかわりをいただけますか?」


「「「……」」」


「えっ……?紅茶!?」


場内にいた誰かが、声を漏らす。


ベアトリーチェはその言葉に、一瞬目を見開いてからゆっくり目を細め、微笑んだ。


「お茶会ですもの。紅茶のおかわりは普通ではなくて?」


誰も言葉を返せない。


その間もベアトリーチェの所に現れた侍女がなみなみと紅茶を注いでいく。


「わたくしもおかわりいただけるかしら。」


フェレシアもディオンたちの登場に興味がないのか、スッとカップを前に押し出した。


そんな二人のやり取りを見て、ディオンは眉間に皺を刻んだ。


ディオンは拳を振り上げ、そのまま勢いよくテーブルへ叩きつけた。


ドンッ


「お前たち……目の前に第二王子である私がいるというのにいい度胸ではないか。」


ベアトリーチェと、フェレシアはテーブルの上からカップを持ち上げた。


(危なぁ~!!)


もう少し遅ければ、熱い紅茶を頭から被っていたところだ。


「……と、言われましても……ここはお茶会であって争いの場ではないですし。」


ベアトリーチェは頬を手で押さえるとこてんと首を傾け、眉を下げた。


「そうね。もし誰かが怪我でもしたら……」


逆に、フェレシアは煽るように目を細める。


「貴方の大好きなお母様の面目丸潰れではなくて……?」


「フェレシア。貴様まで私を侮辱する気か!?」


ディオンの白い顔がどんどん赤く染まっていく。


だが、二人は興味が無いのか、そのまま紅茶を飲み続けた。


「侮辱も何も……本当のことを言ったまででしてよ?ねぇ、ベアトリーチェ。」


「そうね、フェレシア。」


まるで双子のようなやり取りに、周りにいた令嬢たちはただ見ることしか出来なかった。


「それで……わたくしに用事があったのですよね?一体どんな用事かしら?」


「お、おまえ……そんな態度とってられるのも今のうちだぞ!!」


「……なるほど……用件はないということですね。では、わたくしたちは帰らせていただきます。」


「あ、おい……!!」


二人は音を立てずにすっと立ち上がると、カーテシーをした。


足、頭、腕……全ての角度が人形のように揃う。


「「それでは……ごきげんよう。」」


二人は踵を返して庭園の外へと向かう。


その間も、二人の歩幅がズレることはない。


「話はまだ終わってないぞ!!」


後ろからディオンの怒鳴り声が聞こえるが、二人は気にもとめず歩き続けた。


「ヴィクトリーチェ!!」


(私、ベアトリーチェだけど……)


名前すら覚えていないのか……この婚約者は……


自分の婚約者にため息を吐くベアトリーチェ。


それを見ていたフェレシアはクスッと笑った。


「あんなのが婚約者なんて……大変ね。」


「本当よ……誰か変わって欲しいくらいだわ……」


誰にも聞こえないように話していると、


ヒュン――


二人の間を切り裂くように剣が飛んできた。


「「は……?」」


ベアトリーチェたちの重く低い声がのしかかる。


「ふん……やっと止まったな。」


「お前がずっとベアトリーチェに成り代わっていたのは知っているんだぞ!!」


「……」


まさかの内容に開いた口が塞がらない。


(本人が本人に成り代わるって、どういうことよ……)


「ふん……何も言い返せないところを見るとどうやら本当らしいな。」


ディオンの方へ振り返ると、自分の髪をさわりながら、勝ち誇った笑みを浮かべている。


(その髪型……強風にでもあったのかしら。)


右から左に流れるような髪型。


「リーチェが本当のことを話してくれた。ずっとお前に脅されていたとな……」


(脅す……?あんなの脅してなんの意味があると思ってるのかしら……)


「ディー……」


ディオンの腕の中で肩を震わせる女を見る。


だが――その女の目から涙は出ていなかった。


「大丈夫だ。私が守ってやる。」


(……気づいているのかしら……)


(あれは……気づいていないわね……)


ベアトリーチェは、小さくため息を吐くと、歩いた道を戻る。


そして、二人の前で立ち止まると、扇子を口元で広げて微笑む。


「せっかくのお茶会ですもの。有用性のあるお話を期待しますわよ?」


「綺麗……」


ベアトリーチェの隙のない所作に、周囲にいた令嬢たちは思わず息を呑んだ。

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