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12/21

再会

 翌朝。


 三人は宿を出ると。

 昨日と同じように、西へ続く街道を進んだ。


 フェリシアとの約束では。

 今日が最後の調査日だ。


 日が暮れるまでに何も見つからなければ、王都へ戻る。


「分かってるよね?」


 馬を走らせながら。

 フェリシアが念を押す。


「今日までって話」

「分かってる」


 昨日と違い。

 異変は、朝から目についた。


「……また」


 草原の向こう。

 数匹のグレイウルフが走っている。


 やはり。

 西から東へ。


 こちらには目もくれず、そのまま走り去っていった。


 それだけではない。


 キラービー。

 ロックリザード。


 何度も。

 何度も。


 同じ方向へ移動している。


「昨日より増えてない?」


 アイリスが言う。


「増えてるね」


 フェリシアも、さすがに否定しなかった。


 エマが遠ざかっていくモンスターたちを見る。


「やっぱり、何かあるんでしょうか」

「この先に?」

「分かりません。でも」


 エマは西を見る。


「ルークさんが転移した可能性が高い方向も、こっちです」

「……うん」


「もう少し進んでみましょう」


 アイリスが言うと。

 フェリシアがすぐにこちらを見る。


「日暮れまでだからね」

「分かってるって」

「ならいいけど」


 三人は、そのまま進んだ。


 昼前。

 草原の先に、低い岩山が見えてきた。


 その周辺だけ。

 景色が明らかに違っている。


「……何あれ」


 アイリスが馬を止めた。


 草が大きく踏み潰されている。

 ところどころ。


 地面が深く抉れていた。


 街道脇の低木も。

 何本か、根元から折れている。


「大きい何かが通ったみたいだね」


 フェリシアが馬から降りる。


「モンスター?」

「多分」


 エマも地面へ降りる。


 三人で痕跡を確認する。


 太い爪。

 深く沈んだ足跡。

 一歩ごとの間隔も大きい。


「かなり大きそう」


 アイリスが呟く。


「馬はここに置いていこう」


 フェリシアが言った。


「何かいるなら、乗ったまま近づく方が危ない」

「分かった」


 三人は馬を街道脇へ繋ぎ。

 岩山の方へ歩き始めた。


 しばらく進む。


 その時。

 低い唸り声が響いた。


「……っ」


 フェリシアが剣を抜く。


 岩陰から。

 ゆっくりと。


 巨大な影が姿を現した。


 四本の太い脚。

 地面を擦る長い尾。

 全身を覆う、暗褐色の硬い鱗。


 頭部から後方へ伸びる二本の角。


 翼はない。


 だが。

 馬より遥かに大きな身体だった。


 その姿を見た瞬間。

 アイリスの表情が変わる。


「リントドレイク!」


 アイリスが腰のレイピアへ手をかける。


「竜種の中では下位だけど、十分危険よ!」

「それがなんでこんなところにいるの?」

「分からない!」


 リントドレイクが地面を蹴る。


「来る!」


 三人が左右へ飛ぶ。


 直後。

 リントドレイクが、さっきまで三人のいた場所を駆け抜ける。


 地面が大きく抉れた。


「速っ……!」


 アイリスが息を呑む。


「身体強化!」


 淡い光がフェリシアを包む。


「助かる!」


 フェリシアが駆け出す。

 側面へ回り込み。


 剣を振り下ろす。


 硬い音。


「っ!」


 刃が鱗に弾かれた。


「硬い!」


 リントドレイクが身体を捻る。


 巨大な尾が薙ぎ払われる。


「フェリシア!」

「分かってる!」


 辛うじて飛び退く。


 その隙に。


「――《フレアランス》!」


 エマの前に炎の槍が生まれる。


 一直線に飛び。

 リントドレイクの肩へ直撃した。


 爆発。


 煙が上がる。


「やった?」

「まだ!」


 煙の中から。

 リントドレイクが飛び出してくる。


「効いてない!?」

「いや!」


 エマが叫ぶ。


「鱗の隙間が焼けてる!」

「そこね!」


 フェリシアが再び踏み込む。


 剣を振り下ろす。


 今度は。

 焼けた鱗の隙間へ。


 硬い音。


 鱗が大きく割れた。


「いける!」


 だが。

 リントドレイクは倒れない。


 咆哮。


 頭を振り上げる。


「っ!」


 角がフェリシアの鎧を掠める。

 身体が吹き飛ばされた。


「フェリシア!」


 アイリスが駆け寄る。


「大丈夫?」

「……まだ動ける」

「無理しないで」


 アイリスが胸元へ手をかざす。


 柔らかな光が広がる。


 その間にも。

 リントドレイクはこちらを睨んでいた。


 前脚が地面を掻く。


 もう一度。

 突進するつもりだ。


「エマ!」

「分かってます!」


 魔法陣が展開する。


「足止めします!」


 地面から。

 何本もの土の杭が突き出した。


 リントドレイクの脚へ絡みつく。

 巨体が大きく揺れる。


「グルァァッ!」


「止まった!」

「長くは持ちません!」


 治療を終えたフェリシアが立ち上がる。


「アイリス!」

「分かってる!」


 アイリスがレイピアを抜く。


 狙うのは。

 フェリシアが割った、肩口の鱗。


 リントドレイクが暴れる。


 土の杭が軋む。


 一本。

 また一本。


 ひびが入っていく。


「急いで!」

「十分!」


 フェリシアが正面へ回る。


「こっち!」


 剣を叩きつけ。

 リントドレイクの注意を引く。


 巨体がフェリシアへ向いた。


 その瞬間。

 アイリスが走る。


 一歩。

 二歩。


 間合いへ入る。


 割れた鱗の隙間。


 そこへ。


「――っ!」


 レイピアを。

 深く突き込んだ。


 リントドレイクの身体が大きく跳ねる。


「アイリス、離れて!」


 エマの声。


 アイリスがレイピアを引き抜き。

 後ろへ飛ぶ。


 土の杭が砕け散る。


 解放されたリントドレイクが。

 一歩。

 二歩。


 よろめく。


 それでも。

 三人へ向かって進もうとする。


「まだ……!」


 フェリシアが剣を構える。


 だが。


 次の瞬間。

 リントドレイクの脚から力が抜けた。


 巨体が傾く。


 そして。

 地響きを立てて、草原へ崩れ落ちた。


「……」


 三人は。

 しばらく動かなかった。


「……終わった?」


 アイリスが息を切らしながら呟く。


「多分ね」


 フェリシアは剣を構えたまま。

 倒れたリントドレイクを見つめている。


 エマも杖を下ろし。

 大きく息を吐いた。


「さすがに、疲れました……」

「私も」


 アイリスはレイピアについた血を振り落とす。


 フェリシアが、ようやく剣を下ろした。


「それにしても」

「何?」

「リントドレイクなんて、なんでこんな場所にいるの」

「珍しいの?」


 エマが尋ねる。


「少なくとも、こんな草原で出るモンスターじゃない」


 アイリスも倒れた巨体を見る。


 昨日から。

 小型のモンスターたちが、何度も同じ方向へ走っていた。


 そして。

 その先にいたリントドレイク。


「もしかして」


 アイリスが呟く。


「昨日のモンスターたちが逃げてたのって……」

「こいつから?」


 エマが続ける。


「可能性はあるね」


 フェリシアも死体を見る。


「これだけ大きいなら、小さいモンスターが逃げてもおかしくない」


 三人の間に。

 短い沈黙が落ちた。


 その時だった。


「……あら」


 背後から。

 女の声がした。


「っ!」


 三人が一斉に振り返る。


 そこに立っていたのは。


 長い黒髪。

 頭に生えた、小さな黒い角。

 黒を基調とした服。

 腰には細身の剣。


 一目で。

 人間ではないと分かった。


「魔族……!」


 フェリシアが即座に剣を構える。


 女は。

 そんな三人よりも。


 地面に倒れたリントドレイクへ目を向けた。


「何だ」


 少し残念そうに。


「もう死んでるじゃない」


「何者?」


 フェリシアが低い声で問う。


 だが。

 アイリスは答えを待っていなかった。


 女の隣。

 もう一人。


 誰かが立っている。


 人間だった。


 黒に近い焦げ茶色の髪。

 見慣れた顔。


 一瞬。

 見間違いかと思った。


 けれど。

 間違えるはずがない。


「……え?」


 アイリスの目が大きく開く。


 ずっと探していた。


 王都を出て。

 森へ行って。

 残された痕跡を追って。


 ここまで来た。


 その相手が。

 なぜか今。


 魔族の女の隣に立っている。


「……ルーク?」


 青年が。

 こちらを見た。


 そして。

 その表情が、驚きに変わった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、★★★★★で評価していただけると、今後の執筆の大きな励みになります。

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