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リゼットの探し物

 同じ頃。


「出るわよ。」

「どこへです?」

「王都近郊」


 唐突にそう言われ。

 ルークは、手にしていた本から顔を上げた。


「王都近郊?」

「ええ」

「この前いたところですか?」

「その辺りね」


 リゼットは短く答える。


「何をしに?」

「探し物よ」

「探し物?」

「少し前から探してるものがあるの」

「もの?」

「細かいことは、行けば分かるわ」


 どうやら。

 これ以上聞いても答えるつもりはないらしい。


 ルークが諦めかけた、その時。

 部屋の扉が叩かれた。


「リゼット様」

「入りなさい」


 扉が開き。

 魔族の兵士が一人、入ってくる。


「報告です」

「何?」

「例のものと思われる痕跡が見つかりました」


 リゼットの表情が変わった。


「場所は?」

「ここから北東の何とか領です。今朝確認されました」

「新しい?」

「はい」


 リゼットは少し考える。

 そして。

 ルークを見る。


「予定変更」

「王都の方は?」

「後回しにするわ」

「いいんですか?」

「こっちの方が近いもの」

「その痕跡も、さっき言ってた探し物と関係あるんですか?」

「そうね」


 そこで初めて。

 ルークは少し興味を示した。


「モンスターを探してるんですか?」

「まあね」

「種類は?」

「見たら分かる」


 リゼットが手を差し出す。


「ほら」

「……また転移ですか?」

「当然」


 リゼットがルークの腕を掴む。


「じゃあ、行くわよ」


 景色が歪む。


 次の瞬間。

 二人は草原に立っていた。


「……相変わらず慣れない」

「そのうち慣れるわ」

「慣れたくないんですけど」


 ルークはふらつきながら周囲を見る。


 広い草原。

 少し離れたところには、低い岩場が続いている。


「痕跡は?」

「向こう」


 リゼットが歩き出す。

 ルークも後を追う。


 しばらく進むと。

 すぐに異常が見つかった。


「……これは」


 地面が大きく抉れている。

 草は広い範囲で踏み潰され。

 岩には深い爪痕が残っていた。


 近くの木は。

 幹の半ばからへし折られている。


 ルークがしゃがみ込む。


「かなり大きいですね」

「何だと思う?」

「まだ分かりません」


 ルークは足跡を見る。


「四足歩行……たぶん」

「たぶん?」

「崩れすぎてて、はっきりしません」


 その時。

 地面が、わずかに揺れた。


「……?」


 ルークが顔を上げる。


 もう一度。


 ドン。


 低い音が響く。


「何か来る」


 リゼットは拳を握りしめた。


 岩場の向こう。

 巨大な影が動いた。


「……え」


 ルークの声が漏れる。


 現れたのは。

 アースドラゴンだった。


 岩のように分厚い鱗。

 頭部から伸びる巨大な角。


 太い四肢が地面を踏みしめるたび、周囲が小さく揺れる。


「……あれ」


 ルークは少し後ずさる。


「かなり危なくないですか?」

「そうね」


 リゼットは平然としている。

 ルークはモンスターを見る。


「……はあ」


 リゼットが呟いた。


「違う」

「何がです?」

「探してるやつじゃない」


 明らかに。

 残念そうだった。


「これでも違うんですか?」

「全然違うわ」

「十分とんでもないですけど」

「そう?」

「そうです」


 大型モンスターが二人に気づいた。


 低い唸り声。


 そして。

 こちらへ身体を向ける。


 ルークが身構えた。


「リゼットさん」

「何?」

「来ますよ」

「その前に一つ聞いていい?」

「今ですか?」

「今だからよ」


 リゼットは巨大なモンスターを見ながら。

 ルークへ尋ねた。


「これ、懐かせられる?」

「……え?」

「あなた、モンスターに詳しいんでしょう」

「いや、詳しいのと何でも懐かせられるのは別ですけど」

「できる?」


 ルークは改めてモンスターを見る。


 興奮状態。

 こちらを完全に敵と認識している。


 生態も。

 個体差も。

 何も分からない。


「……分かりません」

「そう」

「少なくとも、今すぐは無理です」

「ふーん」


 リゼットは軽く肩を回した。


「じゃあいいわ」

「え?」


 次の瞬間。

 リゼットの姿が消えた。


「――っ!?」


 轟音。


 アースドラゴンの巨大な頭部が、横から殴りつけられたように跳ねた。


 巨体が宙に浮く。

 そのまま地面へ叩きつけられ、岩場を大きく抉った。


「……え?」


 ルークが目を見開く。


 倒れたアースドラゴンは、もう動かなかった。


 その傍らに。

 いつの間にかリゼットが立っている。


「……」


 ルークは。

 しばらく何も言えなかった。


 リゼットが戻ってくる。


「行くわよ」

「いやいやいや」

「何?」

「今の何ですか?」

「倒しただけだけど」

「だけって」


 ルークは倒れた巨体を見る。


 リゼットは平然としている。


 ルークは改めて思う。


 やっぱり。

 この人。

 とんでもなく強い。


「……それで」


 ルークは倒れたモンスターを見る。


「これが探してるモンスターじゃないなら」

「ええ」

「何を探してるんです?」


 リゼットが少し黙った。


 それから、ルークを見る。


「ドラゴンの一種よ」

「ドラゴン?」

「ええ。しばらく前から追ってるの」


「だから王都の近くにもいたんですか?」

「そうよ」


 ルークは少し驚いた。


 自分と出会った時、リゼットがあの森にいたのも、偶然ではなかったらしい。


「まだ姿は確認できてないんですか?」

「ええ。痕跡しか見つかってないわ」

「じゃあ、どんなドラゴンなのかも分からない?」

「そもそも、本当にドラゴンなのかも怪しいわね」

「え?」

「残された痕跡から、竜種の可能性が高いってだけよ」


「なるほど……」


 ルークは少し考える。


「だったら、まずは正体を確かめないとですね」

「そうね」


 リゼットは少し笑った。

 そして、ルークを見る。


「あなたには、それを懐かせてもらう」

「……はい?」

「だから連れてきたのよ」

「初耳なんですけど」

「今言ったから」

「そういう問題じゃないです」

「できない?」

「見てもないのに分かるわけないでしょう」

「なら、見てから考えなさい」

「無茶苦茶だな……」


 ルークは小さく呟く。


「何か言った?」

「何も」


 少し間を置いて。

 ルークは倒れたモンスターを見る。


「でも」

「何?」

「本当に懐かせたいなら、今みたいに、分からないからって瞬殺しないでくださいよ」


 リゼットが一瞬止まった。


「……」


「調べる前に倒されたら、何も分からないですから」


 リゼットは少し考え。


「次は待つわ」

「本当に?」

「ええ」


 リゼットはそう答えると、倒れたモンスターに背を向けた。


「さて、次に行きましょうか」

「次?」

「元々行く予定だった場所よ」

「王都の近くですか?」

「そう。あっちでも痕跡が見つかってるから、確認しておきたいの」


「なるほど……」


 ルークは頷く。


「じゃあ、戻るんですね」

「ええ。行くわよ」


 リゼットがルークの腕を掴む。


「ちょっと待って」

「何?」

「せめて心の準備くらい――」


 景色が歪む。


 ルークの声が途切れた。


 そして。

 二人の姿が草原から消えた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、★★★★★で評価していただけると、今後の執筆の大きな励みになります。

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