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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第七章 重要な扉が開かれ、翻弄される者(二)

 職員室に入ると、剣持が一人だけ残って待っていてくれた。

 神宮寺は剣持に頼んだ。
「だいたいの事情は、水天宮先生から聞きました。でも、卒業式までは、呼び名は生徒の神宮寺でお願いします。月形さんや、嘉納にはウトナピシュテヌになったとは知られたくないんです。あと、勝手なお願いですが、高度な魔法を学びたいので、図書室の利用許可をお願いします。名前だけのウトナピシュテヌになりたくないので」

 剣持はいきなり同格になった生徒に困ったのか、複雑な表情をした。
「図書室には、生徒用、魔道師用、ウトナピシュテヌ用、禁書がある。魔法先生と先ほど話した結果、神宮寺にはウトナピシュテヌ用まで、図書室の閲覧を許可する取り決めになった。励むといい」

「では、さっそく、ウトナピシュテヌ用の図書室の場所を教えてください。できるだけ早いうちに、実力を付けたいんです」と神宮寺は頭を下げた。

「いいだろう。でも、まず、魔法もいいが、辺境魔法学校の置かれている状況を、ある程度まで理解してたほうがいいだろう。重要な文書保管庫の場所も教えておくとしよう。ウトナピシュテヌになれば、施設の扉のほとんどが手を翳すだけで、黄金の心臓が反応して開くから、問題なく行ける。従いてこい」

 剣持は席を立つと、忘れていたとばかりに、今日の日直代を渡して告げた。
「今日で日直は解雇だ。ウトナピシュテヌに雑用をやらせるわけにはいかないからな」

 収入が途絶えた。ショックだった。昇進と収入増加に関連はなかった。
 蒼井さんを始末した時に貰った、あの悪意ある《報奨金》と書かれた袋を絶対に開けないつもりだったが、卒業までまだ一ヶ月近くある。

(屈辱だが、あの金を使うしかない)

 廊下を剣持に従いて歩いていると、剣持が尋ねてきた。
「どうだ? 新しい心臓は、順調か。わかっていると思うが、もうお前には寿命はない。また、心臓を破壊されない限り、お前は死なない」

「吸血鬼みたないものですかね」

「全然、違うな。黄金の心臓は再生する金属だ。木の杭くらいでは、破壊できない。黄金の心臓は、魔力を持った高温の炎でなければ破壊不能だ。他の臓器はゆっくり老いるが、すべて交換可能だ。脳の機能すら、黄金の心臓は保管する。頭を吹き飛ばされれば、少し記憶が飛ぶかもしれんが、死にもしない」

 水天宮先生は、やっぱり意地悪だ。そんな重大な情報は、一言も教えてくれなかった。やっぱり新参者は嫌われる運命にあるのか。

(でも「大岡忠光みたい」って評価してくれていたしな。嫌われてはいるけど、評価されているのかな)と思いつつ神宮寺は、お気楽に尋ねた。

「剣持先生。大岡忠光って、あの大岡裁きで有名な、大岡越前のことですよね。水天宮先生には、大岡忠光みたいって褒められたんですよ」

 剣持の足が止まり、振り返った。剣持が不出来な生徒を哀れむような目で見て評した。
「神宮寺。そういえば、お前、高校を飛び出して辺境魔法学校に来たんだったな。魔法以外にも、高校の勉強もしとけ。大岡越前は大岡忠相だ。大岡忠光は忠相の又従兄弟の子供。徳川家重の不明瞭な発言を唯一人だけ正確に理解できた、という才能で家重に重用され、大名にまで出世をした人物だ」

 馬鹿にされていた。いや、馬鹿にされていたのすら、理解できなかった。水天宮先生はきっと顔を背けたとき、勘違いしていい気になっていた神宮寺を皮肉に笑っていた気がする。なんて、性格の悪い人だ。

 剣持は呆れた表情で慰めた。
「まあ、いいさ。勉強は、これからすればいい。これから、お前の長い時間が始まる」
 そこまで言ってまた前を向いて歩き始めた剣持だったが「と、いいんだがな」と不吉な言葉を付け加えた。

 廊下を歩き、辺境魔法学校の重要文書庫とやらに案内された。文書庫に行くまでには幾つ物の扉を通らなければ行けず、警備は厳重だった。

 重要文書庫といっても、テニスコート二面分くらいある小さな部屋だった。ただ、本が置いてあるわけではなく、縦二十㎝、横五㎝。厚さ五㎜の黄金のプレートと銀のプレートが分けられ、びっしりと壁に収納されていた。剣持が黄金の板を持って説明する。

「黄金のプレートの中にはダレイネザルの天啓が記録されていて、銀のプレートの中には組織の各種議事録や重要文書が記録されている。どちらのプレートにもプロテクトが掛っているから、『第三眼による暗号解除』を掛けてからでないと、読めない。魔法は俺が掛けてやるから、どれか試しに見るか?」

 辺境魔法学校は謎が多いので、機密に係る文書を見せてくれるとなると、興味が湧く。
 とはいえ、会議の議事録なんて見ても面白くなさそうなので、ダレイネザルの天啓に分類された黄金のプレートのコーナーを見た。ダレイネザルは何を望んでいるのだろう。

 プレートは皆、同じに見えた。だが、最近になって誰かが見たのか、棚から一枚だけ、はみ出しているプレートを見つけたので、気になった剣持に渡した。

 剣持が神宮寺からプレートを受け取ると『第三眼による暗号解除』魔法を掛けてくれた。

 プレートを受け取ると、ダレイネザルとの謁見で聞こえた声が頭の中に響いた。
「ダレイネザルは、地球圏における基地の維持を望む。ダレイネザル日本基地は、他国ないし日本国内における核兵器の使用を、十人目のウトナピシュテヌが誕生するまで、これを禁ずる」

 天啓は西暦二〇〇六年となっていた。辺境魔法学校が開校した年。魔法先生は天啓を受けた日からずっと、十人のウトナピシュテヌの誕生を待っていたのではないだろうか。

 なぜ、あれほど魔法先生が、神宮寺がウトナピシュテヌになったのを喜んだのかを理解した。魔法先生は優秀な生徒が出たから喜んだのではない。ダレイネザルによって核兵器の使用が解禁される日を、ずっと待っていたのだ。

 同時に、剣持が、神宮寺が目を覚ました時に喜ばなかった理由も、はっきりした。神宮寺はダレイネザルの天啓を知るまで、ウトナピシュテヌに成れた状況を素直に喜んでいたが、認識が変わった。

 神宮寺自身がウトナピシュテヌとして誕生するのは、辺境魔法学校にとって、とんでもない事態を引き起こしかねないトリガーになっていたのだと実感した。

 日本は二〇一五年アジア核戦争でどっちつかずになっていた。その理由は、世論が纏め切れないというのが、表向きの理由だった。

 でも、実は、ウトナピシュテヌが九人しかいなかったからではないのか。九人しかいなかったから、日本は辺境魔法学校に隠している核で参戦したかったが、管理している辺境魔法学校側がまだ早いとして、政界工作をして、どっちつかずにしたのかもしれない。

 核兵器を使った戦争はアジア地域に大きな被害をもたらした。だが、世界の破滅は回避された。とはいえ、核兵器は今も数を着実に増やし、世界のあちらこちらに拡散していっている。

「第三次世界大戦でどんな兵器が使われるかわからないが、第四次世界大戦の武器は予測できる石と棒だ」のアインシュタインの予言が、頭を過ぎった。

 第三次世界大戦で使われる主力兵器は、おそらく核と魔法になる。
 高校を中退して魔法学校に飛び込んだはいいが、地獄の釜を開けたかもしれない。

 神宮寺は剣持に、正直な気持ちを尋ねた。
「ダレイネザルは世界を核戦争に巻き込みたいんでしょうか?」

 剣持は神宮寺の問いに答えず、全く違う問いを発した。
「なぜ、ここが辺境魔法学校と名乗っているか、知っているか?」

「北海道にあるから、ですか?」
 剣持は呆れた顔で言葉を返してきた。
「お前、それ、北海道の人間が聞いたら怒るぞ。不正解だ」

 そういえば、ロシアやインドにも、ダレイネザル系の魔法学校があると聞いた記憶がある。確か、訳すると、同じく《辺境》という言葉が入っていた気がする。とすると――。

「辺境とはダレイネザルにとって地球が辺境という意味なんですか。辺境だから、ダレイネザルは、地球がどうなってもいいと考えている」

「どうでもいい場所なら、基地など作るとは思えんが」と剣持がすぐに反論し、少しずつだが状況が見えてきた。

 ダレイネザルにとって地球は例えるなら、経済的、資源的価値はないが、軍事的プレゼンスを確保する上で必要な、開発が進んでいない未開の土地のような存在なのだろうか。

 ただ、魔法先生は現状に満足せず、ダレイネザルにとって、より地球を価値あるもの変えるべく核戦争を起こし、他の勢力を排除して再開発しようとしている。

 剣持の考えは、おそらく違う。
 魔法先生に従っているが、あくまでもダレイネザルによる命令がない限り、基地の維持を第一に考えている気がする。だからこそ、魔法先生の暴走に歯止めを掛けるべく、側にいて、魔法先生の思想に染まる魔道師が出てこないように監視しているのではないだろうか。

 監視を続けながら人材育成に時間を費やし、多くの生徒に目を掛け、骨を折り、恩義を売って、剣持の考えに賛同する人材を増やし、派閥を作ろうとしている。

 学生生活を思い起こせば、剣持には多大な配慮を受けていた。

 魔道書の図書室にではなく、重要文書庫にいきなり連れて来られた。偶然を装っているが、目に付きやすいように、天啓の入った黄金のプレートを少しはみ出るように置いていたのも、剣持ではないだろうか。これから幹部へ歩むであろう神宮寺が、どう考えているのかを剣持を知りたがっている。

 神宮寺は天啓の記録された黄金のプレートを返却して答えた。
「天啓を聞いて、安心しました。ダレイネザルは、人間を滅ぼせとは言っていません。また、どの勢力を排除せよとも言ってない。俺は、魔道師が存在する、人間主導による世界がこのままずっと続き、地球がずっとダレイネザルにとって辺境のままであればいい。そう思います。剣持先生も、そう思いませんか」

 剣持が肩の荷が一つ下りたといった表情で答えた。
「俺も同じく思うよ。では次に、ウトナピシュテヌ用の図書室の場所を教えるとしよう」

 ダレイネザルの信奉する組織はよくわからない。神宮寺の将来がどうなるのかも、不明だ。けれども、魔法先生とは別の道を行こうとする剣持には、力を貸そうと思った。

 ウトナピシュテヌ用の図書室といっても、地下にある他は校舎二階にあった書庫と大して大きさが変わらない。ただ、魔道書は大きく厚く、呼吸音さえ感じる存在感があった。

 広さが校舎二階の図書室と変わらないのは驚いたが、無理もない状況かもしれない。
 水天宮先生は以前、「自分の研究成果は自分の物」だと公言していた。

 ウトナピシュテヌともなると、自分自身で研究した魔法を隠し持って、たとえ同じ組織に属する人間にも秘密にするのが、本来の姿なのかもしれない。

 剣持が部屋の説明をした。
「ウトナピシュテヌ用の本は基本的に貸し出しは、あかとら……。弥勒(みろく)(せき)()図書館長か、魔法先生の許可がないと、貸し出せない。貸し出し許可が下りたとしても、地上には持っていけない。本格的に魔法を学びたかったら、卒業後は辺境魔法学校に残って、地下に居室を構えたほうがいい。普通の魔道師用図書室については明日、月形や嘉納と一緒に案内したほうが、自然でいいだろう」
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