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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第六章 ダレイネザル魔術の根源(五)

 二週間後の金曜日の授業終了後、魔法先生より発表があった。

 魔法先生が、興奮した政治家が演説するように語った。
「皆さんの勉強もいよいよ佳境に入りました。月曜日に、ダレイネザルとの謁見を行います。ダレイネザルに認められれば、より大きな力を使えるようになるでしょう。そう、魔道への本当の道が、いよいよ皆さんの前に開かれるのです」

 魔法先生の興奮は、逆に生徒たちに畏れを植えつけた。誰もが畏れて詳しい内容を聞けないと思ったが、月形さんが挙手をして、普通に質問した。
「謁見というからには、何か供物が必要なのでしょうか。いったい何を用意すればいいのでしょうか」

 月形さんの言葉に、他の生徒は沈黙した。
 供物が酒や米、羊や牛などの一般的な物だとは思えなかった。ダレイネザルは強力な魔法を使えるような代償に、もっと別の何かを要求してくる気がしてならなかった。

 先生は穏やかに、月形さんの問いに答えた。
「特に供物を用意するものは、ありません、皆さん自身が供物なのですから」

 静寂が教室を包んだ。
 己自身が供物なれというのなら、魔道師になれなければ死ぬという話自体が嘘を意味する。己自身が供物なら、死と同義ではないか。

(結局、三ヵ月で魔道師になれると謳った宣伝文句はエサで、俺は見事に釣られたのか)

 すぐに剣持が厳しい口調で言い直した。
「別に、命を差し出せというのではない。差し出すのは、自己を構成する一部だ。以上。質問は終わりだ」

 剣持は最後に、強引に質問を打ち切った。収穫前の農作物を眺める農民のように、魔法先生はうっとりと生徒を眺め、何も口にしなかった。

 剣持が急ぎ、魔法先生に小さな声で耳打ちしてから、袖を引っぱった。
 袖を引かれた先生は「それでは皆さん、すばらしい月曜日を迎えましょう」と告げ、足取りも軽く、教室から剣持と一緒に出ていった。

 ウルリミン寮に帰ると、風呂場で嘉納と一緒になった。
 嘉納とダレイネザルとの謁見について話し合いたかった。とはいえ、風呂場には他に生徒もいたし、風呂場で話す話題でもない。

 二人は示し合わせたように、同時に風呂を上がり、談話室に移動した。談話室では、風呂が女子の時間になるのを待つ月形さんが待機していた。

 嘉納から話題を切り出した。
「月曜日、どうする。自己の一部を差し出せ言うけど、どこを差し出せ、ちゅうんや」

「さあ、腕の一本でも差し出せばいいんじゃないの。もっとも、ダレイネザル側から部位指定があるかもしれないけど」

 月形さんが世間話をするように自然に答えたので、神宮寺は素直に尋ねた。
「もし、こちらから部位指定ができなくて、ダレイネザルから指定された部位を差し出せない時は、どうなると思う」

「不興を買うのは、間違いないでしょうね。供物を供えられない神様は、きっと怒るわ。立ち去れって言われて、追い返される、だけでは済まないことは確かね。もっとも、運よく立ち去れ、ってなった場合でも、ダレイネザルの不興を買ったら、魔法先生の態度を見ている限り、翌日には寮内で不審死という状況も考えられるけど」

 嘉納が天井を仰ぎ見て、難儀な事態になったとばかりに口にした。
「そうやな。魔法先生は、むっちゃ怒るんやろうな。それに、謁見に失敗すれば、今まで得た魔法の力も、剥奪されるかもしれへん。腎臓の一個も覚悟しておかな、ならんかの」

 嘉納の心配は当っている。魔法が使えるのは、自分たちの実力じゃない。全てダレイネザルが与えてくれた物。ダレイネザルに魔法を返せば、神宮寺は、ただの人になる。

(ただの人になる? では、ダレイネザルの魔道師とは、なんだ。人ではないのか。これでは、魔道師ではなくモンスターだ)

 嘉納も同じ感想を抱いたのか天井を仰ぎ見たまま「魔法って何なんやろう」と発言した。

 月形さんがすぐに、嘉納の問いに応じた。
「魔術とは魔術師の意思に従って、変化をもたらす業である。これは、魔術師アレイスター・クロウリーの言葉よ」

 風呂が女子の時間帯に替わったので、月形さんが立ち上がった。
「どちらにしろ、ダレイネザルとの謁見時の言葉や態度に気をつけることね。不興を買えば、早いか、遅いかの違いはあれど、確実に死よ」

 嘉納が天井を見上げたまま、目だけ月形さんに向けて尋ねた。
「なんで、確実に死ぬ、いうのがわかる?」

 月形さんが冷徹な予想を述べた。
「佳境に入ったのに、まだ九人も生きている。辺境魔法学校では生きて魔道師になれるのは、確率的に二十人中の三人。脱落があるとすれば、月曜日のダレイネザルとの謁見と見て、間違いないわよ」
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