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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第六章 ダレイネザル魔術の根源(四)

 月曜日になった。神宮寺は最後に蒼井さんにお別れを言って日直のアルバイトに戻った。
 授業が始まる前に、不必要な机を物品庫に戻した。

 魔法先生の言った通りに、一ヶ月で半分いなくなった。
 休講が解けると魔法先生はいつもの調子に戻っていた。少なくとも最初はそう思った。

 授業開始前に魔法先生が少しだけ残念そうな顔で告知した。
「皆さんに、残念なお知らせがあります。知っての通り、二十二番さんが、我が学校から逃亡を企てました。逃亡は許されぬ行為です」

 魔法先生はここでまで話すと、表情を変え、いつもの柔和な笑みに戻って話を続けた。
「この恥ずべき行為を阻止して、二十二番の胸に弾丸を撃ち込んだのは他ならぬ、十五番君です。皆さん、十五番君に拍手をしてあげてください」

 九人しかいないクラスは、魔法先生の言葉を聞き、一瞬だけシーンとなった。だが、剣持が拍手を始めたので、他の生徒も倣うように拍手した。

 魔法先生は、振り込みのはずの報酬を《報奨金》と達筆で書かれた豪華な封筒に入れて、皆の前で神宮寺に手渡し、「ご苦労だったね」と表面的に労った。

 拍手されても、嬉しくはなかった。逃亡者を始末した功績が公表された事実により、せっかく名前を知って心の交流が始まろうとしていた六人の生徒との間に、強固な壁ができたのを痛感した。魔法先生は、まだ、神宮寺を許していない。

 授業はマジチェフェルの後も変わらず、異世界の言語で話し続ける形態だった、試しに『ダレイネザルの言語』を使ってみても、理解できなかった。

 どうやら、魔法先生の言葉は単なるダレイネザルの言語ではなく、ダレイネザルの言語の中でも、さらに特殊な部類に入る言葉らしい。

(効力はあるので、黙って聞くしかないか。黙って聞いていたおかげで、結果として魔道書が読めるようになり、『異界の気配』と『ダレイネザルの言語』という、あまり日常生活では役に立たないような魔法でも覚えられたんだから)

 校舎二階の図書館に寄ると、マジチェフェル以降は生徒には開放されなくなっていた。
 授業が終ってウルリミン寮に戻ると、水天宮先生は約束をきちんと守ってくれていた。

 蒼井さんの遺体は寮から消え、最初から何もなかったようになっていた。蒼井さんの遺体が消えてから、寮は少し雰囲気が変わった。

 人が半分以下に減ったので、食堂の混雑はなくなり、談話室も空きぎみ、ランドリー・ルームも、いつも空いていた。逆に、以前は月形さんぐらいしかいなかった図書室は、人が増えた。常に閲覧席の半分は、人で埋まっていた。生徒の目当ては決まって魔道書で、生徒は少しでも魔道書を読み、使える魔法を増やそうと懸命に魔道書を睨み続けていた。

 使える魔法が二つや三つでは、この先、生きていくのは難しいと誰しもが感じているからだろう。
『ダレイネザルの言語』は会話専門の魔法だったので、『ダレイネザルの言語』では、魔道書の背表紙が読めない。どれがどの魔法が書かれた魔道書か一切わからないはずだが、マジチェフェル以後、魔道書の背表紙を見れば、だいたいどんな魔法か、わかった。

 魔法先生のありがたくない表彰により、学校側の粛清者のイメージがついたのか、蒼井さんの葬儀で話をした人間も、話しかけてこなくなった。

 月形さんと嘉納とは話はするものの、会話は減った。二人とも他の生徒のように魔道書を読み耽るようになったからだ。

 神宮寺は少し寂しくもあったが、本来の辺境魔法学校の寮生の姿なのだと、思い込むようにした。魔道師の道は案外、孤独なのかもしれない。

 神宮寺も他の生徒のように魔道書を読み、使える魔法のレパートリーを増やしていった。
 習得したのは、蒼井さんが覚えていた『鋳造の魔炎』、『火鼠の防衣』、『精錬の雷』に、小清水さんが覚えていた『同胞への癒』『遮断の防御円』。

 五つの魔法は、マジチェフェルで有用だと思ったから、との事情もあるが、二人を忘れないために覚えた魔法だった。

 他にも寮の図書室には魔道書は何種類もあったが、魅力も感じなかったし、覚える気力も湧かなった。感傷的にいつまでも、小清水さんや蒼井さんの記憶を引きずるのは、死へ繋がるかもしれない。が、どうしてもすぐには、ふっきれなかった。

 感情の整理が付かない神宮寺は初めて、神宮寺自身が魔道師に向いていないのかもしれないと思った。向いていないと思った翌日でも、神宮寺は朝早く起きて日直の仕事をこなし、授業にもきちんと参加した。

 次の日も、その次の日も、同じく行動した。神宮寺はやがて、結論に達した。

 仕事だから日直をしているのではない。魔道師になれなくて死ぬのが怖いから授業に出ているのではない。やはり、魔道師になりたいから、毎日こうして授業に出ているのだ。ふっきれない記憶でも、どんな形になろうと、いつか決着を付けよう。
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