第六章 ダレイネザル魔術の根源(一)
寮の管理人室は相変わらず誰もおらず、テレビだけが点いていた。寮生の名前を示す電光掲示板から十人の名前が消えていた。
十四番が自主退学でいなくなったので、実習で九人が死んだ事実が窺えた。
辺境魔法学校に在籍している人間は、現在は十一人だが、寮に無事に帰ってこられた人間は、神宮寺を含めて、三人だけ。辺境魔法学校の怖さを思い知らされた。
食事の時間だったので、食堂に行った。あれほど混んでいた十二席の食堂が、とても広く感じられた。月形さんと嘉納が既に食事を摂っていたが、二人とも席が一番遠くなるように対角線上に座っていた。
神宮寺は嘉納と月形さんのどちらの席の向かいに座るか迷った。でも、月形さんの向かいに座ると、嘉納がトレイを持って、神宮寺の横に座り直した。
神宮寺は事実だけを報告した。
「蒼井さんは重傷を負って、小清水さんが死んだ」
小清水さんが死んだ。言葉にすると、再び涙がこぼれて来た。
嘉納は「そうか」とだけ言葉を発し、月形さんは何も言わなかった。
月形さんが一番早く食堂に来ていたのか、食べ終わると、神宮寺や嘉納にお構いなくトレイを下げ、食堂から出ようとした。
月形さんは食堂から出る時に、神宮寺の背後で感想を漏らした。
「正直、神宮寺君が無事に戻ってくるとは、思わなかったわ。もっとも、戻ってきても、辛いだけ、だけどね」
嘉納が振り向かずに「嫌味なやっちゃな」と言い返した。
神宮寺は何も言えなかったが、月形さんの言葉は月形さんなりの激励の気がした。
食事が終ると、神宮寺は自室でただボーッと時間を過ごした。深夜に零時を回った頃に、暗闇の風呂に入った。
暗闇の風呂に入ると、マジチェフェル前日の小清水さんとの遣り取りが思い出され、再び涙がこぼれてきた。こぼれてくる涙に神宮寺は、なんども両手で顔にお湯を掬って掛け、洗い流した。だが、いつまでも涙は溢れてきた。
翌日の火曜の朝にメールをチェックすると、「マジチェフェルにより、多数の怪我人が出たので、来週の金曜日まで臨時の休みに入ります」とのメールが入っていた。
あれほどの傷を負った他の生徒が、土日を含めて、たった十三日間で回復するとは思えない。とはいえ、水天宮先生は魔法医だし、魔法的手段で無理やり十三日間で体を引きずりながらでも、授業に参加できるまでに生徒は回復させられるのかもしれない。
神宮寺はマジチェフェルの時に着ていて血が付着した服をランドリー・ルームで洗った。でも、血は完全には取れなかった。血がとても汚らしい物に思え、神経質に何度も洗った。
結局、完全には取れなかった出ので、服を捨てた。
突然の十三日間の休みだが、何もやる気が起きなかった。やりたい行動も思いつかない。
それでも、何かしなければ気が変になると思ったので、学校に持ち込んだ携帯ゲーム機を取り出した。試験以来、一度も手にしなかったゲームの続きをやり始めた。
ゲームを作業のように淡淡と進めていった。神宮寺が自分と同じ名前を付けていた黒魔道師のキャラに、愛着が以前のようには湧かなかった。
ゲームでパーティが全滅した。ゲーム内で自動発生するNPCによるキャラクター回収イベントが発生したが、回収されたのは神宮寺と同じ名前を付けた黒魔道師だけだった。
神宮寺は思わずゲームの電源を切った。ゲームはキャラクター回収イベントが発生した時点でオートセーブされるので、電源を切っても無意味だ。ゲーム内では、またJINGUJIという黒魔道師が他のキャラクターを誘ってダンジョンに入るところから始まる。
辺境魔法学校に入学する前なら、愛着の湧くキャラを回収できたので、ほっとした。だが、今はゲーム内に残され、新たな仲間を探して旅に出なければいけない。神宮寺と同じ名前の黒魔道師が、とても不憫に思えた。




