巫女の務め(4)
じっと話を聞いていた琴美は、驚く様子もなく静かにストローを口から離した。
「霞ちゃん、実は……私も同じなの」
「え⁉」
冷たいメロンの果肉をストローから受け止めたばかりの霞が、勢いよく顔を上げた。
「死神も全く同じことを言ってた。『神議り』の警護を直々に仰せつかったって。でも死神は、これは地上から自分を遠ざける罠だって確信していた。それで……「自分が留守の間、実菜穂さんを護るように」って、霞ちゃんと同じこと言われたの」
琴美のまっすぐな視線を受け止めながら、霞はゴクリと喉の奥に冷えた液体を流し込んだ。二柱に共通して下された不可解な命令に、得体の知れない危機が迫っているように感じて背筋が寒くなった。
次の瞬間、琴美の瞳がスッと鋭くなった。お喋りを弾ませている風を装いながら、琴美が細い人差し指をテーブルで滑らせる。
木目調のテーブルに、淡い紫色の光が残った。見たこともない複雑な記号――『巫女文字』だ。初めて見るはずなのに、その緑色の瞳で見つめると、すんなりと意味が理解できた。
『奥の席から、女の人が私達を見ている。ただの人じゃない。お願い、絶対に振り向かないで』
「っ……!」
思わず振り向きそうになった首筋を、霞は必死で凝固させた。鼓動が大きく波打った。顔を引きつらせないよう、必死で琴美の瞳に視線を集中させた。
琴美は霞と対照的に、いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべ、さらに指を滑らせた。
『冗談を言いながら、笑って私の肩を叩いて。いつも通りを装って』
浮かび上がった文字を目で追った霞は、息を呑んだ。
(琴美ちゃん、いつの間にこんな技を身に付けたのだろう。私より少しだけ巫女になるのが早かったけど……やっぱり恰好いいな)
同じ巫女として尊敬の眼差しを向けながら、霞は不自然にならないよう、大きな動作で楽しげに笑って見せた。
「そう言えば、さっき男子に声掛けられてたね。カッコいい子いたもんね。一人、私に紹介してよ!」
声を響かせながら手を伸ばし、琴美の肩をポンポンと叩いた。その瞬間、霞の瞳は大きく開き、呆然と琴美を見つめていた。




