神に認められぬ巫女(2)
実菜穂の視線の先には、一人の少女の画像があった。マイクを握り締め、セーラー服をモチーフにした可愛い衣装を身に纏い、ステージの上で眩しいばかりに輝いている少女。
「こっ、これって、叶夢優衣だよ⁉」
霞が立ち上がり、叫ぶようにスマホを見つめて言った。店内の客の視線が、一斉にボックス席へ注がれる。
陽向と琴美も「確かに……」と息を呑んで頷いている。
「可愛いなあ……かなめ……ゆい?」
実菜穂だけがぽかんと首を傾げている。
「『プレイア・セイラー』ですよ。通称『プレセラ』テレビに出ない日はないくらい活躍してた国民的アイドルグループです! その不動のセンターが叶夢優衣ちゃんだったんです!」
霞が目を輝かせて実菜穂に説明する。実菜穂は「ふむふむ」と相槌を打ち、素直に耳を傾けていた。
「霞ちゃん、実菜穂はそういう芸能系の話題に疎くて……」
陽向が申し訳なさそうに苦笑いを浮かべ、実菜穂をフォローした。
「えーっ、叶夢優衣ちゃんは知らないけど、『プレセラ』は聞いたことあるよ。私もクラスの話題についていくために勉強したから。たしか……『千年の泡沫』って曲があったような……」
実菜穂が思い出しながら、サビの切ないバラード調の旋律を口ずさんだ。
「そうです、そうです! その曲はライブのラストソングでよく歌われていたんです。プレセラっぽくない少し大人びた曲なんですけど、歌詞はすごく可愛くて……!」
興奮気味に語る霞の言葉に、実菜穂が興味津々で「へぇ~」と頷いている。二人の喋りが最高潮になりかけたところで、陽向が静かに口を挟んだ。
「二人とも盛り上がっているところ非常に申し訳ないんだけど……みんな、叶さんが『叶夢優衣』だって気づいてた?」
霞と琴美が同時に「知らなかった」という表情で首を振った。だが実菜穂だけは、少し思案するような瞳で首を横に振る。
「私も気づかなかった。でも、実菜穂は何か違った感じを受け取っていたのかな? 叶さんと一番長く過ごしたのは実菜穂だし……何か感じたことあった?」
陽向が優しく気遣うように問いかけると、実菜穂は静かに頷いた。
「うん……ちょっとね。私、叶夢優衣ちゃんのことは、全然詳しくないけど……ほら、叶さんて時折、思わず見とれちゃうような綺麗な仕草をするんだよね。私、霞ちゃんや陽向みたいに明るくなくて陰キャだから、叶さんのそんな姿がすごく眩しく見えたんだ。『叶さんて、きっと凄く眩しい世界にいた人なんだろうな』って、不思議に思った……でも」
「「「でも?」」」
陽向、霞、琴美が、実菜穂の言葉に一斉に身を乗り出した。
「いまの叶さんの中には光が一つも見えなかったような気がする。……あっ、別に心の中を覗こうとしたわけじゃないよ。ただ、そう感じたの。かつて一番眩しい世界にいたはずなのに、今の叶さんは、自分の光を全部燃やし尽くしちゃったみたいで……。そもそも、どうしてあの子をあそこまで激しい憎悪で討とうとしているのか分からないし……」
戸惑いながらも叶の抱える闇の深さに触れようとする実菜穂を見つめ、三人は黙って考えを巡らせた。
その時、入口から賑やかな気配が舞い込んできた。
「あ、大丈夫、大丈夫! 待ち合わせなんだよ!」
聞き覚えのある少年のような軽快な声が店内に響く。霞が立ち上がり入口の方を見ると、店員をなだめながら店内を見渡す隼斗の姿があった。
霞の姿をいち早く見つけると、手を振りながら、隙がない流れるような足取りで近づいてきた。
「おう、これまたお姫様たちのお茶会ってところか。こんなところ秋人と良樹に見られたら、めちゃくちゃ恨まれるだろうな」
「そんな冗談いいから! 叶さんの正体が叶夢優衣ってどういうこと? 巫女と何の関係があるの?」
軽口を叩きながらボックス席の端に滑り込んできた隼斗に対し、霞が待ちきれない様子で身を乗り出して尋ねた。




