助ける巫女と拒む巫女(12)
霞の足元には白い羽が無数に散らばっていた。頬には幾筋かの傷から血が滲み、服も無残に切り裂かれている。
肩を大きく揺らし、荒い呼吸をする霞に対して、聖良は高みから悠然と見下ろしていた。
(私の技が、全部そのまま返ってくる!)
足元に落ちているのは、ほかでもない霞自身が放った羽手裏剣だった。
「あなたの破壊力は確かに素晴らしいですわ。ナナガシラで大鉤を仕留めたのは流石と言いましょう。……ですが、私には一切通用いたしません」
聖良は端正な表情を一切崩すことなく、冷ややかに霞を見つめている。霞は上からの視線を見上げ、悔しさに身を竦ませていた。
(破壊力だけじゃない。瞬間移動で間合いを取ったのに、いつの間にか私の背後に回り込まれていた。動きが早すぎる……?)
全ての攻撃を軽々と跳ね返してきた聖良の唇に、ようやく優越感に満ちた笑みが浮かんだ。
「どうやら、打つ手がないと言いたげなお顔をしておいでですのね。このまま降伏なさるなら、これ以上手荒な真似はいたしませんわ。もっとも、この『八咫鏡の巫女』である私の下僕になっていただきますけれど」
高々とした場所から見下ろす明らかに傲慢さが垣間見える微笑に、霞はギュッと拳を握り締めた。
「いきなり意地悪しておいて、下僕とか分けわかんないよ……⁈」
霞は弾みをつけて跳躍し、聖良が見下ろしていた高台の樹上へと一気に飛び上がった。桃の花弁が風に操られ、霞の周りに舞っていた。
(八咫鏡……そうだ。全てはあの鏡だ! 私の技は、全部あれで跳ね返されている……!)
「羽切!」
宙に留まったままクルリと身体を捻り、霞が素早く羽手裏剣を投げつけた。
「何度やっても同じことですのに。愚かなことですわ」
羽手裏剣が聖良を穿つ直前、その手元に神聖な光を放つ鏡が展開されていた。猛禽類の爪のように鋭い切っ先を正面から受け止めると、そのまま倍の威力を与えられて霞へと跳ね返っていく。
(分かった! あの鏡が全ての技をそのまま映し出して跳ね返しているんだ。鏡に映ったものが、そのまま現実になって飛び出してきている!)
自分へと襲い掛かる羽手裏剣を、霞は指の間に鋭く挟み込み受け止めると、すぐさま聖良に向けて投げ返した。
「どれほど素早くお動きになられても無駄ですわ」
冷静に構える聖良は、冷ややかな瞳のまま再び鏡を掲げて迎え撃つ。
「羽風の舞」
霞が白い翼を大きく広げると、視界を埋め尽くすほどの無数の白い羽が風に乗って狂い舞った。
「目隠し程度でこの私を出し抜けるとお思いに? この八咫鏡の眼からは逃れられませんわ!」
聖良は鏡を二重三重と自分の周りに多重展開させ、鉄壁の死角なき陣形を敷いて舞い散る羽に備えた。
すべてが万全の完璧な防御体制だと聖良が確信した瞬間、天頂から、彼女の予測を遥かに凌ぐ「狂暴なまでの神気」が一気に降り注いだ。
異変に気付いた聖良が急ぎ地上を見下ろすと、そこには、多重展開されていたはずの『八咫鏡』の一枚を、なぜかその手に持った霞が立っていた。
「あれ? 八咫鏡って青銅製って言われているけど、これ、……銀……?」
霞がまじまじと鏡を覗き込むと、どこか狂暴なまでに愛らしく微笑む霞自身の顔が映っていた。次の瞬間、その姿を映し切った鏡は霞の手の中で粒子となってふっと消え去った。
「……あなた、あの瞬間に完璧に気配を断ち切っていましたわね……? 鏡に映る暇すら与えない速度で、上空から襲いかかって奪い去るなど……そのようなこと、あり得ませんわ……いいえ、忘れていましたわ。あなたの式神が隼だということに……ですが、あなたは私には勝てませんわ」
聖良は肩から胸元にかけて大きく引き裂かれた制服にそっと手を添え、屈辱と冷徹な怒りが混ざり合った瞳で、地上に立つ霞を射抜くように見つめていた。




