助ける巫女と拒む巫女(10)
振り下ろされた剣を、陽向は見切りの力を使い僅かに身体を反らすだけでかわした。
「うわー、さすが火と光の神の巫女。マジすげえや! こんなに簡単にかわされるなんて……てか」
大げさに驚いている凜々果が、ニヤニヤと陽向を見た。
凜々果の余裕に満ちた表情を陽向が訝しんだその時、巫女装束の右肩にすっと一筋の切れ目が走り、白い肌を覗かせた。さらに右頬からも、微かに血が滲み出てくる。
「これは……」
完璧に避けたはずだった陽向は、凜々果が持つ剣が放った「見えない刃」の威力に息を飲んだ。
「ははははー! マジその反応分かりやすくて好きだよ。ゾクゾクするー! その顔、少しは悟ったんじゃない?」
凜々果は再び剣を振り上げると、今度は鋭く斜めに振り下ろした。豪快な大振りでありながら、その速度は細身の刀を振るように速く、そして鋭かった。
陽向は今度は確実に剣先が届かない間合いまで深く身を引いてかわした。だが直後、剣から発生した凄まじい烈風が吹き荒れ、舞い散る桃の花弁とともに陽向の装束を切り裂き、その身体を宙へと打ち上げた。
陽向は地面へ叩きつけられる寸前、辛うじて受け身を取って片膝を付き、すぐさま身構えた。乱れた呼吸で引き裂かれた装束から覗く肩が上下している。
(風……あの雲気を孕んだ刀身……ただの巫女が使える代物じゃない……)
陽向は深く紅雷を握り直すと、瞬時に攻撃の体勢を取った。
「紅一閃!」
渾身の気を込め、陽向は横一文字に振り抜いて深紅の光の刃を解き放った。
凜々果はニカリとほくそ笑むと、右手一本で大剣を陽向と同じく横一文字に振り払った。
迫り来る深紅の閃光。だが次の瞬間、大剣から溢れ出した紫の雲気が凶悪な「大蛇」の姿を象り、光を丸のみにすると、そのままの勢いで陽向に襲い掛かった。
陽向は横に転がって大蛇の猛進をかわすと、立ち上がりざまに紅雷を振り抜き、側面から大蛇を一刀両断した。斬られた大蛇は霧のようにそのまま姿を消した。
「ははははは! やっぱ凄いよ。本当ならその攻撃で命奪われているとこだけどね。どうやら、少しは察しがついたっしょ? ヒント出したもんねー。この剣はまたの名を『天叢雲剣』さあて、私は何者でしょう?」
凜々果が楽しそうに笑いながら、じわじわと陽向との間合いを詰めてくる。陽向は紅雷を肩に担ぐように高々と構えると、鋭い眼光で凜々果を射抜いた。
「天叢雲剣……。もしそれが本物の草薙剣だとしたら……あなたは人じゃない!」
「さあて、どうかなあ。それよりも本気出してあたしを楽しませてよー。黄龍すら打ち倒した巫女なんだからさあ。さもなくば……死んじゃうよ」
凜々果と陽向は、互いの間合いと気配を探り合いながら、緊迫した眼差しで真っ向から睨み合った。




