助ける巫女と拒む巫女(9)
舞い散る桃の花弁の奥に、二人の人影が浮かび上がった。
陽向と霞は、その正体を見極めようと瞳をこらして影を見据えた。やがて、花弁を纏いながら二人の少女が姿を現した。
一人は、制服の着こなしもゆるく崩したギャル風の装いで、ダルそうに歩いている。ジャケットの下の白いシャツから、褐色の肌をのぞかせていた。茶髪といい、彼女の強気な雰囲気が嫌でも伝わってきた。
もう一人は、整った黒髪に気品あふれる立ち振る舞いを見せる凛とした少女だった。
対照的な二人を前にして、陽向と霞は警戒を解かずに距離をおいた。
「私たちは、ここに迷い込んできました。ここがどういう場所かご存じですか?」
陽向が丁寧にお辞儀をしながら尋ねた。お辞儀とは言いながらも、一切の隙が無いその動作に、二人の少女は目を丸くしていた。
「あはははは、うける~。よりによって「ここがどういう場所かご存じですか?」だってぇ。お気楽だねー。どう思う~、聖良?」
ギャル風の少女が陽向を見下ろし、小馬鹿にした笑みを浮かべた。聖良と呼ばれた少女は、話を振られたことに少し迷惑そうに視線を送ると、気を取り直して軽くため息をついた。
「凜々果、あなたが不用意に近づかなければ、ここには閉じ込められなかったのです。自分の失敗を棚に上げて笑わないでください」
「あーっもう、聖良の小言はいいよ~。だいたい珠音が来ていればこんなとこ、あっさり抜け出せたんだ。あの根暗の行動、マジ分かんない」
凜々果と呼ばれる少女が、桃の木にもたれかかりながらドカッと座り込んだ。胡坐をかくと、短いスカートから白のラインが一瞬豪快に顔を覗かせた。
「少しは巫女の自覚をお持ちなさい。珠音は、実菜穂についているのです。あなたは自分の務めをするべきです」
聖良は座り込む凜々果を見下ろしながら窘めた。
二人の会話を聞いていた霞が、陽向の耳元で囁いた。
「陽向さん、実菜穂さんの名前が出ました。もしかして、外で何か企んでるのでしょうか……実菜穂さんの身が心配です!」
霞の言葉に、陽向は「しまった!」というようにハッとした表情で凜々果をみた。
(私としたことが……実菜穂を一人にしてしまった。何とかして、ここを抜け出さないと……!)
陽向の焦りを見透かしたように、凜々果は甲高い声を上げて見下すように笑った。
「マジ、その顔そそるよ。いいね。そのイイ子ちゃんの表情が歪むのが、マジ最高」
小憎らしいまでの笑顔を見せながら、凜々果はゆっくりと立ち上がった。
「まー、あたしは楽しめたらいいんけどね。でも務めは果たさないとね。ほんじゃ、あたしは、あのバインバインの胸の陽向を片付けるわ。聖良はそっちの貧弱な奴頼むねー」
凜々果が陽向の前に歩みを進めながら、ゆっくりと鞘から剣を抜き出した。
「先に言っとくねー。あたし、剣崎凜々果。今から訳あってさー、お前を倒さなきゃいけなくて。マジ、真剣勝負してよね」
抜き出した剣を陽向に突き付けた。その剣は重厚で分厚く、刀身からは紫色の禍々しい雲気が立ち込め、妖しい光を宿していた。さらに、今しがたまでダルそうだった凜々果の瞳は鋭く引き締まり、まるで別人のような凄まじい闘気を全身から放っていた。
その異様なまでの圧力を前に、陽向も即座に愛刀『紅雷』を構えた。
「あんたのその刀とこの剣……どっちが強いか。たのしみー!」
凜々果がニヤリと笑い、剣を豪快に振り上げた。




