↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/38

助ける巫女と拒む巫女(6)

 叶《かな》は琥珀色の瞳を鋭く輝かせると、黒の見習い巫女に渾身の蹴りを見舞った。


 黒の少女は叶に視線を向けたものの、その瞳は凍てついた氷のように固まり、避ける素振りすら見せずにその場に立ち尽くしていた。


 叶の右足が容赦なく黒の少女の側面を抉る。少女の身体は、くの字に折れ曲がったかと思うと二転三転しながら地面を転がっていった。


「ちょっと、叶さん! いくら何でも、やりすぎ!」


 実菜穂《みなほ》が叶を止めようと、慌ててその腕を掴んだ。だが、叶の細身の腕は大木のごとくビクともせず、そのまま豪快に実菜穂を振り払った。


 実菜穂は身軽に受け身を取りながら、倒れた少女の前に庇うように立ちふさがった。


 

(えっ、叶さん、一体どうしちゃったの?)


 あまりにも禍々《まがまが》しい殺気を放つ叶に、実菜穂は激しく困惑した。少女を背にして叶と対峙した瞬間、実菜穂は豹変した叶の姿に息を飲んだ。


 叶の瞳は鈍い琥珀色に輝き、全身からまさに鬼神のごとき凄まじい怒気が黒の少女に向けて放たれていた。


(叶さん……完全に人が変わっている!)


 言葉の説得は不可だと悟った実菜穂は、素早く少女を抱え込むと、大きく後方に飛び退いた。その瞬間、意図したわけではなかったが、少女の心にある激しい怯えが、触れ合った肌を通して実菜穂に伝わってきた。


(……‼ この子、怖がってる。でも……これは、違う!)


 実菜穂が感じ取った少女の怯えは、叶の容赦ない攻撃に対する恐怖ではなかった。それは、絶対的な存在に拒絶される恐怖……『見捨てられる絶望』とでも呼ぶべき感情だった。


 実菜穂は瞬時に鉄《くろがね》の弓を取り出すと、空へ向けて矢を放った。


 音速を超えて一直線に上空に突き抜けた矢は、夜空に水色の紫陽花のような美しい大輪の光を咲かせた。それは、実菜穂の緊急救難信号であった。


 効果は絶大であった。直後、霞《かすみ》が空間を跳んで実菜穂の前に現れた。陽向《ひなた》も霞の肩を掴み、同時に姿を現した。


「陽向、霞ちゃん。理由は後で話すから、叶さんを止めて!」


 実菜穂は黒の少女を腕に抱きかかえながら、水の神気を送り込んだ。みなもの治癒の力は、そのまま巫女である実菜穂にも同じように使うことができた。


「叶さんの蹴りをまともに受けて、肋骨が完全に折れてる!」


 苦痛に顔を歪める少女だったが、実菜穂の治癒により重篤なダメージは瞬く間に癒えていった。だが、彼女の心に巣食う根本的な恐怖までは消え去ってはくれなかった。


(叶さんの攻撃は確かに凄かったけど、まだ巫女の力を全開にしていたわけじゃない。この子なら絶対に避けられたはずなのに……どうして……? あの時のこの子の瞳は、本当に悲しいくらいに傷ついて絶望していた……⁉)


 実菜穂は、腕の中で小さく震える少女を静かに見つめた。


 

 陽向が愛刀の『紅雷《こうらい》』を鞘に納めたまま、一定の距離を保って叶を警戒している。霞も叶を抑え込もうと背後に回り腕を掴もうとしたが、するりと紙一重でかわされてしまった。


 叶の瞳は変わらず琥珀色に怪しく輝いている。これは巫女としての力を引き出している証拠であるが、まだその真価を発揮してはいなかった。それは、実菜穂、陽向、霞にとっても同じである。


「実菜穂ちゃん、邪魔をしないで。私はそいつを地獄に送りたいの」


 叶の怨嗟のこもった声を聞き、実菜穂は少女の姿を隠すように抱きかかえた。


(……⁉ この子叶さんを知っているの!)


 実菜穂は、少女の中の絶望の正体を微かだが見えたような気がした。



 穏やかだった叶の変貌に、霞は戸惑いを隠せずにいた。


一方、陽向は冷静なまでに叶を見据え、いつ紅雷を抜刀すべきか静かに機会を窺っていた。


 陽向、霞という強力な巫女二人を前にして、叶は冷静に呼吸を整えた。


(あいつだけなら神の力なんて必要なかったけど、S級クラスの神の巫女を三人も相手をするとなれば、本気の力を使うしかないか……)


 叶は首元に巻かれていたスカーフをゆるりと解くと、それを自身の右手に巻き付け、天に向かってかざした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。