奏多叶という巫女(5)
実菜穂も陽向も、そして霞までもが、叶の奥底に潜む得体の知れない魅力の光を見ていた。それは、キラキラしており、一度はどこかで見たことのある記憶にある光だと感じていた。ただ、それが一体いつ、どこで見たのか思い出すことはできなかった。
「私たちが目立ち過ぎたって、どういう意味ですか?」
陽向が実菜穂の後ろから、すっと前に出て位置を変え、叶と対峙するように立ちはだかった。隠れ巨乳である叶に対して、ブラウスの上からでも豊かな存在を隠しきれない陽向の胸元は、あたかも二人の相容れない性格と対等な立場を象徴しているようであった。
「そうね……う~ん、例えばこれ」
叶はポケットからスマホを取り出すと、その画面を陽向の前に向けた。そこに映っていたのは、この神社の境内で夜空一面に天の川の流星が降り注ぐ中、盛大に舞を披露する実菜穂、陽向、真奈美の姿だった。琴美の御霊をこの世界に導くために捧げられた祈りの神楽舞であった。その映像はあまりにも幻想的で、美しく、今やSNSを通じて世界中の人々の目に留まることとなった。
「わぁー、これ、琴美ちゃんの御霊を迎えるために舞ったときのだね」
実菜穂が懐かしそうに眺めているが、実際はほんの三ヶ月ほど前の出来事に過ぎない。霞も何度がその動画を観たことがあったが、改めて実菜穂と陽向の舞の美しさに見とれてしまった。そしてふと、その映像から放たれる神々しい光が、先程見た叶が見せた光とどこか似ているような感覚を覚えた。
「これね~、何も知らない素人が観れば、『可愛い巫女ちゃんが綺麗に舞っているな』で終わるんだけど……神の眼を持つ者が見れば、とんでもないことが起きてるって一目でわ分かるよ。だって、巫女たちが『神霊同体』と成って、人の御霊を死界から導くために舞を舞っているんだもの。……そりゃあ、観ている方は度肝抜かれるわよ」
叶はスマホの動画をストップさせると、ポケットの中に仕舞い込んだ。
「まあ、でもこれはまだ序の口。君たちが本当に注目されることになったのは、『ナナガシラ』を完全に消滅させて平定したからなのよ」
「「「……⁈」」」
叶の口にした言葉に、三人は一瞬にして全身を強張らせた。
「叶さん……さっきから気になっていたのですが、どうしてそのことを知っているのですか?」
三人を代表するかのように、実菜穂が硬く緊張した声で問いかけた。叶は、ほんの僅か呆れたそぶりを見せながら、三人を見つめ返した。その中でも一番の憂いの色を瞳に宿している実菜穂の表情は、叶にとっては構いたくなってしまうほどの愛くるしさと魅力に満ちていた。
「そりゃあ、あそこは有名だもの。少なくとも百年以上前からね」
「「「……⁈」」」
三人の胸の中に、得体の知れない衝撃とどよめきが走った。叶はその動揺を見逃さず見つめ、魅惑的な笑みを浮かべた。
「力ある巫女なら、ナナガシラの事件のことを知らない者はいないわ。当然、あの地の悲運な巫女を助けようと考えた巫女だって過去にはいた。でも、さっきも言ったように『基本、巫女はつるまない』……だからね。誰も余計な手出しはできなかった。だけど、それ以上に問題だったのは―――」
叶のメガネの奥の瞳が、三人を見下ろすように冷ややかに光った。
「強固な鬼門を備えた上に、黄龍が率いる六柱の神々の護り。とてもじゃないけど、一人の巫女と一柱の神だけで太刀打ちできる相手じゃなかった。だから、百年以上もの間、誰も手を出すことができず放置されていたの。それなのに……あなたたちは……三日も経たぬうちに平定してしまった」
叶は一呼吸置き、静かに言葉を重ねる。
「六人の巫女が互いに手を取り合い、力を一つにしてあっさりとやってのけたのよ。何千年と紡がれた因縁の歴史に、あなたたちが幕を下ろしたの。……これ、どういう意味か分かる?」
「それは……私たちが『謀反の疑いあり』と、見なされているということですか?」
陽向が二人を守るようにさらに一歩前に出て、叶を牽制した。
「そうとも言えるし、そうとも言えないかな。なんせ、あなたたちについている神様が凄すぎるもの。天上界のナンバー二と三と言われるアサナミ、ユウナミの神の実子に、地上の太古神の分霊……そんな規格外の存在に『謀反の疑い』なんて軽々しくかけられるわけがない。格が違い過ぎるのよ。それに、あの事件は既にアサナミの神によって解決済みてことで処理されているでしょうから、今さら掘り返すことができる神様なんていないわ」
叶の合理的な説明を聞いて、霞がホッと胸を撫でおろした。
「でもね、巫女は別だよ。あなたたちは、強力な力を見せつけてしまった。人でありながら神様にも負けない力を……それに脅威を感じ、驚愕した神や巫女は多いと思うよ。だから……」
「「「だから……?」」」
安堵したのも束の間、霞は再び全身を硬直させた。実菜穂、陽向も一斉に、叶の口元に注目した。
「あなたたちを排除しにくる巫女が現れるかもしれない。いるのよ、そういう役目を持つ巫女がね……」
「それって、もしかして……叶さんだったりしますか?」
実菜穂が陽向の背中から、ぴょこっと顔を出した。その表情があまりにも無邪気で、素直で、幼く見えたため、叶は思わず吹き出してしまった。
「ははははっ! まっさかあー。仮に私がそうだと言った瞬間、そこの陽向ちゃんに速攻で切り捨てられてるでしょ。私はただ、あなたたちに興味があっただけ。あまりにも危なっかしいから、ちょっと助言したくなったの。これでも、本気で心配しているんだよ」
叶は幼い子供を宥めるように、優しい口調で実菜穂に語りかけた。実菜穂は納得して、陽向と霞を落ち着けるように肩を叩くと、微笑んで頷いた。
だが、陽向と霞の脳裏には、それぞれの氏神から託された『実菜穂を護れ』という言葉が鮮明に蘇った。その脅威が、目の前に迫っているということを肌に強く感じ取っていた。




